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第59話 EP9-4 青年教主

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


「おたせしてみません、雨塚あまつかさん。すぐにまいります」

 美青年びせいねんさわやかに、中性的ちゅうせいてき美声びせいで、そとにいるかみうす中年ちゅうねんおとこあたまをさげた。

「いっ、いえいえいえ! おそおおいです! 教主様きょうしゅさま御都合ごつごうが、あらゆる御予定ごよてい優先ゆうせんされてしかるべきですので!」

 雨塚あまつかあわてて、ひたいあせをハンカチできながら、ペコペコとあたまをさげかえした。


 美青年びせいねんが、オレたちにき、会釈えしゃくする。

「それでは、失礼しつれいいたします」

「またどうぞ」

 桃花ももか平然へいぜん見送みおくった。


 美青年びせいねんみせるのを確認かくにんして、オレはおもいっきり安堵あんどいきをついた。


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。十四さい中学生ちゅうがくせいで、えないメガネ男子だんしである。普段着ふだんぎティーシャツジーパンスニーカーで、こし廉価品れんかひん長剣ロングソードをさげる、一応いちおうしの魔狩まかりである。


   ◇


 オレは、自分じぶん全身ぜんしんふるえを自覚じかくしつつ、桃花ももかる。

桃花ももかは、よく平然へいぜんとしてられるな?」

「ん? なにが? 敵意てきいかんじなかったわよ?」

 桃花ももかなにかってないかおくびかしげた。

 敵意てきい有無うむだけで相手あいて判断はんだんするのは、さすがだ。


「あのヒラヒラしたふくむねのとこ、『狭聖きょうせい教団きょうだん』の紋章もんしょうがあっただろ。しかも、教主様きょうしゅさまってばれてた。教主様きょうしゅさまだぜ?」

 オレの渾身こんしん解説かいせつに、桃花ももかはまだかってないかおくびかしげる。

桃花ももか。スカートのポケットに、なにれてる?」

「スカートのポケット?」

 桃花ももか不思議ふしぎそうに、ポケットにんで、中身なかみした。


 教主様きょうしゅさまばれた美青年びせいねんは、桃花ももかのスカートをていた。

 桃花ももかのスカートは、……みじかい!


 そうじゃない。

 桃花ももかには、花柄はながらのハンカチと、ポケットティッシュと、さっきの狭魔きょうま小石こいしがある。

「やっぱり、さっきの狭魔きょうま目当めあてだったんだろうな。桃花ももかさきたおされたから、にきたってとこか」


 狭聖きょうせい教団きょうだんは、なにかしらの方法ほうほう狭魔きょうましたがえる。秋葉あきは先生せんせいけんからして、明白めいはくである。

 その教主きょうしゅ狭魔きょうま捕獲ほかく従属じゅうぞくか、方法ほうほうらないけど、しにきたとかんがえるのが妥当だとうだろう。


「あっ! 狭聖きょうせい教団きょうだん!」

 桃花ももかが、いまやっとおもしたビックリがおこたえた。

「もちろんかってた! かってたわよ!」

 いままでかってなくてずかしげに、ほおあかくした。


   ◇


 桃花ももかみせそとへとす。

「……えっ!? ちょっ?! ちょっとて!」

 オレはあわてふためいてける。


 みせそとには、黒塗くろぬりの高級車こうきゅうしゃに、美青年びせいねんもうとしていた。

「ちょっとアンタ! どうして! あんなことしてるのよ!?」

 桃花ももかつよ口調くちょうで、美青年びせいねん詰問きつもんげつけた。

 オレは大慌おおあわてで、桃花ももかくち両手りょうてふさいだ。もちろん、おそすぎた。もう、あぁ、きたい、手遅ておくれだ。


 周囲しゅうい警戒けいかいする。

 ここは人気ひとけがない。たかくさむらもおおく、人目ひとめとおりにくい。犯罪はんざいおこなうにも、都合つごうがいい。

 狭聖きょうせい教団きょうだん信者しんじゃ教主きょうしゅ物陰ものかげにも注視ちゅうしする。

 なにかあったとしてオレになにができるか、はかんがえないことにしよう。


「たいへんもうわけないのですが」

 美青年びせいねんが、こっちにぐにいた。

 オレはビビりながら、桃花ももか背中せなかかくれた。


ぼくは、狭聖きょうせいさま御言葉おことばを、みなさんにつたえるだけの存在そんざいです。みなさんの言葉ことばを、狭聖きょうせいさまにおつたえさせていただくだけの存在そんざいです」

 美青年びせいねんは、ずかしげに、もうわけなさげに、女子じょしにもえそうな美形びけいあからめる。

「ときには、あなたのように、教団きょうだん批判的ひはんてき言葉ことばけるかたもいらっしゃいます。ですが、ぼくは、返答へんとうわせていないのです」


「……じゃぁ、いいわ」

 桃花ももか不満ふまんそうに、渋々しぶしぶ結論けつろんした。舌打したうちもした。

 こいつはいつもこうだ。


 美青年びせいねんが、純白じゅんぱく祭服さいふく胸元むなもとれる。

 オレはビビってかたくする。

 美青年びせいねん華奢きゃしゃで、パンフレットがされた。

「ご用件ようけんがありましたら、教団きょうだんにおわせください。ぼくよりも、ご納得なっとくいただけるこたえをおかえしできるとおもいます」


「……」

 無言むごん桃花ももかは、手繰たくるようにパンフレットをる。


「それでは、失礼しつれいいたします」

 くるまって、はしった。


 高校生こうこうせいくらいの、女子じょしにもえそうな美青年びせいねんだった。『狭聖きょうせい教団きょうだん』の教主きょうしゅで、たぶん狭魔きょうま目的もくてきで、『オールマイティ』で、超常ちょうじょう武器ぶき光輝十字剣ライトクルセイダー』の使つかだ。

 悪人あくにんっぽくなくて、むしろ、ひとさそうなかんじだった。


 ……情報量じょうほうりょうが! 情報量じょうほうりょうおおい!


   ◇


桃花ももかは、よく平然へいぜんとしてられるな」

 オレは、ふるえる桃花ももかうですがった。

べつに? 敵意てきいかんじなかったわ」

 さすがだ。

「でも、灰色はいいろふくのオッサンのほうは、ちょっとだけ敵意てきいかんじたわ」

 桃花ももかが、満足まんぞくげなかおこたえた。


 狭聖きょうせい教団きょうだんあく組織そしきだなんて、かりきったことだ。いまさら、善人ぜんにんもいるかも、なんて油断ゆだんするほど間抜まぬけじゃない。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第59話 EP9-4 青年せいねん教主きょうしゅ/END

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