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第62話 EP9-7 手伝いの成果

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。十四さい中学生ちゅうがくせいで、えないメガネ男子だんしである。普段着ふだんぎティーシャツジーパンスニーカーで、こし廉価品れんかひん長剣ロングソードをさげる、一応いちおうしの魔狩まかりである。


 魔狩まかりギルドの上階じょうかいの、取調室とりしらべしつみたいな、スチールデスクとパイプイスのある殺風景さっぷうけい部屋へやにいる。パイプイスに肩身かたみせますわって、スチールデスクのうえ未記入みきにゅう報告書ほうこくしょう。


「うふふふふ。さぁ、遠見とおみ 勇斗ゆうと。あのときにすべてを、報告ほうこくなさい」

 デスクをはさんで対面たいめんすわ水瀬みなせママが、期待きたいみで、報告書ほうこくしょ指先ゆびさきつ。


 水瀬みなせママは、七海ななみ母親ははおやである。スカートスーツで、きっちりと容姿ようしととのえた、化粧けしょうい、しのつよいオバサンである。ここの支部しぶ支部しぶちょうでもある。


 オレは、背筋せすじさむいものをかんじながら、おもす。

「えっと、狭魔きょうまは、ゲームのモンスターとかでメジャーなミノタウロスっぽいを」

「そっちじゃなくて! あの邪魔者じゃまもの! 狭聖きょうせい教団きょうだん教主きょうしゅかもれないやつ情報じょうほうよ!」

 よくひとみをギラギラさせて、水瀬みなせママがまえのめりにした。

 オレにとって、情報じょうほう武器ぶきだ。水瀬みなせママにとって、情報じょうほう金蔓かねづるだ。


 ちかい! これはこれでこわい!


 オレは、マスカラゴテゴテ睫毛まつげあつらしながら、おもす。

「えっと、教主きょうしゅは、本当ほんとうに、狭魔きょうまかたりかけてたっす。たおすんじゃなくて、説得せっとくしようとしてるように、えたっす」

 正直しょうじき正気しょうきとはおもえなかった。狭魔きょうま言葉ことばつうじるわけない。意思いし疎通そつうなんて、天地てんちっくりかえっても不可能ふかのうだ。


「まさかまさか、意思いしつたえるけい特殊とくしゅ能力者のうりょくしゃなのかしら?」

「そんな能力のうりょくいたこともないっす。つたわってるかんじでもなかったっす」

 ひと狭魔きょうま意思いしつたえたら、歴史れきしわる。対話たいわ成立せいりつしたら、世界せかいわる。


結局けっきょく言葉ことばとどいてすらいなかったっす。方法ほうほうからして下手へたすぎだったんで、ちょっと提案ていあんだけしておいたっすけど。けど、もっと、根源的こんげんてきに、オレたちが狭魔きょうまからないように、狭魔きょうまもオレたちをからないとおもうっすよねぇ」

 オレは、かんがみながら結論けつろんした。狭魔きょうまなぞで、人間にんげんではないなにかで、きる世界せかい根本こんぽんからちがうのだ。


   ◇


おもしてもムカつくわ! どうしててきにアドバイスしたのよ?! アタシにはしてくれないくせに!」

 桃花ももか不満ふまんげにほおふくらませて、オレの襟首えりくびつかんでさぶる。

「いやいやいや。オレが桃花ももかに、いまさらアドバイスできることなんて、あるわけないぜ」

 オレは当然とうぜんこたえた。


 絢染あやそめ 桃花ももか魔狩まかりである。オレの幼馴染おさななじみで、十四さい中学生ちゅうがくせいで、桃色ももいろながかみで、華奢きゃしゃで、むねちいさい。

 いつもの私服しふく、ノースリーブにミニスカートにスニーカー姿すがたで、こし自身じしんどうサイズの両刃りょうば大剣たいけんをさげる。


「あるでしょ! もっとこう、必死ひっしかんがえてよ! アドバイスしてよ!」

 桃花ももかさぶられるのは、よくあることだ。れた。

 オレは、かんがみながら、つづける。

「……てんで、よわかったんだ。あれで桃花ももかどうランクで。桃花ももかくらべたら、はなしにならないくらいよわかった」


 狭聖きょうせい教団きょうだん教主きょうしゅは、『オールマイティ』の魔狩まかりである。『オールマイティ』は器用きよう貧乏びんぼうで、どうランクの普通ふつう魔狩まかりよりよわい。

 超常ちょうじょう武器ぶき光輝十字剣ライトクルセイダー』は、『オールマイティ』にしか使つかえない。それくらいしか、『オールマイティ』のアドバンテージなんてない。ペナルティしかない。


「あのとき、光輝十字剣ライトクルセイダーがあったからなずにんだ。なければ、オレたちがる、ずっとまえんでた。あっても、そのうち、オレたちに二度にどうことなくぬ、そんながした」

 オレは、自分じぶんでもくくらいに、深刻しんこくかおだ。

 かかわったひとぬかもれない。その恐怖きょうふを、七海ななみおしえてもらった。

「きっと、教主きょうしゅ本人ほんにんも、いつか狭魔きょうまころされる覚悟かくごが、できてるかんじだった。末路まつろかってて、いますべてで、未来みらい達観たっかんして。えっと、はかなげな美青年びせいねん、って雰囲気ふんいきか?」


 ガタンッ!、とパイプイスをねさせて、琴音ことねいきおいよくちあがった。


 真奉しんほう 琴音ことねは、オレと桃花ももかのクラスメートである。銀縁ぎんぶちまるメガネに灰色はいいろながかみみにして、小柄こがらむねおおきい人見知ひとみしりの女子じょしである。フリルやレースがいっぱいのキュートな私服しふくこのむ。


 狭聖きょうせい教団きょうだん教主きょうしゅけん丸投まるなげの仲介ちゅうかいたのんでおいた琴音ことねも、そのけん会議かいぎってことで合流ごうりゅうしてる。


「はっ、はかなげなっ、びっ、美青年びせいねんっ!? そそそそそれはっ! どっ、どっ、どういうことでしょうかっ!?」

 琴音ことね興奮こうふんして、ほおあかく、息遣いきづかいをあらくする。スタンドライトをつかみ、オレのかお照明しょうめいける。

「おおおお二人ふたりはっ! どっ、どっ、どどどういうごごご関係かんけいでしょうかっ!? くくくくくわしくっ!」

「どういうって。黒岩くろいわどうはじめてって。あそこで二回目にかいめで、『スコーパ』だからあやういたたかかたちゃったってだけだぜ?」

「はっ、はじめてっ!? 二回目にかいめっ!? あやういっ!?」

 琴音ことねがさらに興奮こうふんして、さらにいきあらくした。

「えっ?! そういうことなの!? そういうことなの!?」

 桃花ももか興奮こうふんして、オレの襟首えりくびさぶった。

「い、いえっ! わっ、わたしは、プラトニックなほうがっ! けっして、けっして、そそそのようなことは!」

 なにかが二人ふたりこころ琴線きんせんれたのだろうか。なんでそんなにエキサイトしてるのか、オレにはからない。


 水瀬みなせママが、コツンと、指先ゆびさき報告書ほうこくしょつ。

「いいわぁ」

 水瀬みなせママの、よだれでもらしそうなみのウィンクが、オレにんだ。

 オレの背筋せすじに、ゾワワワワワワワワッ、と悪寒おかんはしった。

遠見とおみ 勇斗ゆうと狭聖きょうせい教団きょうだん教主きょうしゅ情報じょうほうを、報告書ほうこくしょ詳細しょうさいまとめなさい。小石こいし紛失ふんしつなんてにもならない、素晴すばらしい成果せいかになるわよ」

 水瀬みなせママは、桃花ももか琴音ことねちがって、かりやすい。

「う、うっす」

 オレは、気味ぎみ返答へんとうした。かりやすいけど、やっぱり苦手にがてだ。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第62話 EP9-7 手伝てつだいの成果せいか/END

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