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第64話 EP9-9 ネジレ様

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


 狭聖きょうせい教団きょうだん教主きょうしゅ狭魔きょうま対話たいわするのを、せてもらうことになった。


 いまは、それが最重要さいじゅうようだ。


 狭聖きょうせい教団きょうだん施設しせつたとか、門番もんばん暑苦あつくるしいマッチョの半裸大男はんらおおおとこだとか、くらくろせま部屋へやにいるとか、些細ささいなことだ。


 ただひとつ、教主きょうしゅくちにした狭魔きょうまが『ネジレさま』ってのが、になった。いや予感よかんがした。いやなことをおもした。


 前触まえぶれもなく、空気くうきわった。


   ◇


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。この世界せかいから狭間はざまえる特殊とくしゅ能力のうりょくちである。


 くろ狭間はざまに、しろ狭魔きょうまがいる。人間にんげん大差たいさないサイズで、人間にかたちで、白い粘土ねんどみたいな質感しつかんで、黒い空間くうかん片膝かたひざかかえてすわる。


 オレは、以前いぜん一度いちどた。わすれたくて、わすれたことにしていた。


 そのしろ狭魔きょうまは、ひとかたち粘土ねんどねじりにねじったようなをしている。白い表皮ひょうひ螺旋らせん凹凸おうとつが、頭頂部とうちょうぶからあし爪先つまさきまで、全身ぜんしんにある。


 特殊とくしゅ狭魔きょうま観察かんさつ依頼いらいた、ヤバいヤツだ。


 しろ狭魔きょうまが、こっちをた。オレのほうた。螺旋らせん凹凸おうとつのあるひとかおみたいな部位ぶいが、なぜだか、わらってるようにえた。


 そこにはなくちみみもないのに、こっちをたもわらったもない。

 狭間はざまから、この世界せかいるなんて、できるわけがない。


 でも、この世界せかいから狭間はざまえる人間にんげんがいるのだから、狭間はざまからこの世界せかいえる狭魔きょうまがいたとして、不思議ふしぎはない。


 冷静れいせいかんがえる時間じかんさえあれば、容易ようい辿たど結論けつろんである。


 背中せなかに、強烈きょうれつ悪寒おかんはしった。

 動揺どうようしてはいけない。おびえてはいけない。らしてはいけない。

 しろ狭魔きょうまに、オレが狭間はざまえてると、気付きづかれてはいけない。


   ◇


 くろ狭間はざまに、しろ狭魔きょうま眼前がんぜんに、教主きょうしゅひざまずいた。

御無沙汰ごぶさたしておりました、ネジレさま本日ほんじつも、御対談ごたいだんのほど、よろしく御願おねがいいたします」

 教主きょうしゅは、うやうやしくこうべれる。


 しろ狭魔きょうまは、くろ空間くうかん片膝かたひざかかえてすわったまま、ひと言葉ことばはっする。

 くちはない。うごきもない。なのに、おとを、人語じんごはっする。


 教主きょうしゅは、かおをあげ、はなす。たたかうでもなく、武器ぶききもせず、ひざまずいたまま、ただかたりかける。


 異常いじょうだ! 予想よそうできてはいたけど、予想よそう以上いじょう異常いじょう光景こうけいだ!

 オレは、桃花ももか薄茶うすちゃいろのローブをギュッとにぎって、平静へいせいよそおう。パニックになりそうなのを我慢がまんする。

 この異常いじょう光景こうけいえてない桃花ももかは、いつものごとく平然へいぜんとして、たのもしい。おかげで、オレも冷静れいせいでいられる。


 教主きょうしゅしろ狭魔きょうまが、くろ狭間はざま対話たいわつづける。


 ひと狭魔きょうま意思いしつたえたら、歴史れきしわる。対話たいわ成立せいりつしたら、世界せかいわる。


 ……いや、でも、これは、対話たいわか?


 教主きょうしゅは、ひととはなにか、感情かんじょうとはなにか、の説明せつめいをしてる。

 しろ狭魔きょうまは、ハッキリとはからないけど、情報じょうほうつたえてる。

 言葉ことばが、全然ぜんぜんってない。たがいが勝手かってしゃべってるだけで、会話かいわ成立せいりつしてない。


 おかしい。おかしいというか、むしろ、おかしくないのかもれない。


 人間にんげん狭魔きょうまちがうものだ。

 たがいをるには、りたいとおもうには、あゆりをのぞむには。ひとつでもいいから共通きょうつう思想しそうが、せめて思想しそう必要ひつようだ。人間にんげん狭魔きょうまには、そんなものはないのだ。

 だから、人間にんげん狭魔きょうま関係かんけいわることは、ない。歴史れきし世界せかいも、わらない。


   ◇


 教主きょうしゅが、くらくろせま部屋へやもどった。呼吸こきゅうあらく、あせだくで、くるしげにむねさえて、しゃがみんだ。


 桃花ももか平然へいぜんく。

大丈夫だいじょうぶ? そとひとぶ?」

 さすがに場慣ばなれしてる。


「ネジレさま御前ごぜんで、緊張きんちょうしただけです。いつものことですので、ご心配しんぱいにはおよびません」

 教主きょうしゅが、くるしさをおさえて、微笑ほほえむ。

「それよりも、遠見とおみ 勇斗ゆうとさんは、いまのをごらんになって、どうおもわれましたか?」

 それがきたくて、意見いけんしくて、オレをんだ。かりきったことだ。


 オレは、まよう。気遣きづかいなんて意味いみない。率直そっちょく意見いけんを、敵地てきちってのがこわいけど、容赦ようしゃなくたたきつけるしかない。

「あ、あくまで私見しけんっすけど、見間違みまちがいってこともいてっ」

 日和ひよろうとしたら桃花ももかひじ小突こづかれた。


 覚悟かくごめる。桃花ももかのローブを、さらにギュッとにぎる。

「……会話かいわにすらなってなかったっす。どっちも一方的いっぽうてきはなしてただけ。そのネジレさまってのにいたっては、気紛きまぐれにゲームのNPCエヌピーシーはなしかけてるみたいな、つたえるすらないようにえたっす」

「そうですか……」

 教主きょうしゅが、残念ざんねんそうに微笑びしょうした。薄々うすうす気付きづいてはいたけどみとめたくなかった、みたいなかおだ。はかなげな美青年びせいねんの、うれいの表情ひょうじょうだ。


 教主きょうしゅちあがって、いきととのえる。さわやかに微笑ほほえみ、オレたちに丁寧ていねいあたまをさげる。

「お二人ふたりとも、ぼくたのみをいてくださって、ありがとうございました。いえまでくるまでおおくりします」

「おやくてなかったら、もうわけなかったっす」

 オレも、丁寧ていねいあたまをさげかえした。かんがえなくちゃいけないことはおおいけど、いまはまだ、なにごともなくてたすかった、っておもった。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第64話 EP9-9 ネジレさま/END

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