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第67話 EP10-3 予期せぬ事態

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


「オレたちDチームの配置はいちは、ここっすね」

 オレは、スマホの地図ちず確認かくにんする。おおきなとおりをわたって、川沿かわぞいのべつなが公園こうえん一画いっかくである。ここも、花火はなび大会たいかいで、昼間ひるまから露店ろてんならんで、ひと往来おうらいおおい。


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。十四さい中学生ちゅうがくせいで、えないメガネ男子だんしである。普段着ふだんぎティーシャツジーパンスニーカーで、こし廉価品れんかひん長剣ロングソードをさげる、一応いちおうしの魔狩まかりである。


「じゃぁ、とっとと準備じゅんびしようぜぇ」

 古堂ふるどうが、余裕よゆう綽々しゃくしゃくかたらした。ってほぐして、背負せお小型こがた洋弓ようきゅうにぎり、周囲しゅういにアピールするみたいにななめったポーズをめた。


 古堂ふるどう 和也かずや魔狩まかりである。弓矢ゆみやでの遠距離えんきょりせんひいでる『スナイプ』で、小型こがた洋弓ようきゅう使つかう。

 オレや桃花ももか近所きんじょむ、大学生だいがくせいである。金髪きんぱつ逆立さかだて、くろかわジャンかわパンツの、派手はでちのおとこである。


 一応いちおう、『ランクD相当そうとう一般人いっぱんじんなんているの?』、という疑問ぎもん整理せいりしておこう。

 力量りきりょう指標しひょうとしては、ランクBは普通ふつう魔狩まかりである。ランクCはよわ魔狩まかり普通ふつう一般人いっぱんじんで、ランクDはよわ一般人いっぱんじん≒どうして魔狩まかりやってるの?、である。

 だから、いる。たくさんいる。むしろ、ランクDの魔狩まかりなんているの?


「いるんだな、これが……」

 オレは、ちょっとかなしい気持きもちでつぶやいた。

 いや、でも、オレってば視覚系しかくけい特殊とくしゅ能力者のうりょくしゃだから。『スコーパ』だから。『スコーパ』としてなら、もっとランクがたかいはずだから。


古堂ふるどうさん! 時間じかんっす!」

 覚悟かくごめた。

 オレは、小袋こぶくろからてつ指輪ゆびわし、ゆびめる。

 は、ゴテゴテしたオモチャの指輪ゆびわである。力量りきりょうちか魔狩まかり同士どうしでの共闘きょうとう可能かのうにし、狭魔きょうませる魔法品マジックアイテムで、『刻印こくいん』とばれる。

「よっしゃぁ! いくぜ、ライバル!」

 古堂ふるどうも、小袋こぶくろから『刻印こくいん』をし、ゆびめる。


 二人ふたり一緒いっしょに、たかかざした。

 前触まえぶれもなく、空気くうきわった。


   ◇


 曇天どんてんみたいなくろそらしたしろ狭間はざまに、灰色はいいろ地面じめん灰色はいいろいしころだらけである。

 いしころだらけの地面じめんには、丸々まるまるえたさるみたいな、茶色ちゃいろの、背丈せたけいちメートルらずの狭魔きょうますわむ。

 あ、でも。可能性的かのうせいてきには、えた短毛たんもうか、せた長毛ちょうもうか。すわんでるのか、あし極端きょくたんみじかいのか、ってのもあるか。


 オレは、この世界せかいから狭間はざまえる特殊とくしゅ能力のうりょくちだから、見える。


 そうだ。オレはいま、こっちの世界せかいにいる。なぜか、狭間はざまにいない。

 古堂ふるどうも、こっちの世界せかいにいる。唐突とうとつ故障こしょうした家電かでんで、ゆびめた『刻印こくいん』をながめる。


 なにきたのかからない。でも、なにきたのかは、かる。

 しろ狭間はざまに、花柄はながら浴衣ゆかたおんなひとがいる。るからに、着飾きかざって花火はなび大会たいかい一般人いっぱんじんである。


 優先ゆうせん順位じゅんいたかい『刻印こくいん』で狭間はざままれなかった理由りゆうは、予想よそうがつく。

 狭魔きょうまは、その狭魔きょうまよりちょっとつよ人間にんげんえらんで狭間はざまむ。

 だから、オレ~古堂ふるどう力量りきりょう範囲はんいが、あのさる狭魔きょうま対象外たいしょうがいだったのだ。

 さる狭魔きょうましんじられないくらいによわくて、相対的そうたいてきにオレがつよすぎたのか。あるいは、かんじよりもつよくて、相対的そうたいてき古堂ふるどうよわすぎたのか。

 古堂ふるどうすくなくとも戦闘系せんとうけいで、オレよりはつよい。


「きゃぁっ?!」

 花柄はながら浴衣ゆかたおんなが、さる狭魔きょうま悲鳴ひめいをあげた。こしかしてすわんだ。


 状況じょうきょう分析ぶんせきしてる場合ばあいじゃなかった。

 でも、たすけたくてもたすけにはいれない。もどかしい。どうしようもない。


 オレは、える。見えるだけでしかない。

 狭間はざま狭魔きょうまおびえるひとと、この世界せかい花火はなび大会たいかいかれるひとたちと、同時どうじえる。世界せかいかべを、えもしないうすっぺらいなにかをへだてて、正反対せいはんたい光景こうけい同時どうじにある。


 さる狭魔きょうまが、さるみたいに細長ほそながうでで、足元あしもといしころをひろった。

「いっ、いやっ! だっ、だれかっ! たすけ」

 おんながパニックで、さる狭魔きょうまけ、つんいのまました。


 そうだ。それでいい。たたかえないなら、時間切じかんぎれまでつづけるのがベターだ。


 さる狭魔きょうまわず、ノッソリと緩慢かんまんに、うでだけのオーバースローでいしころをげた。石ころは、ゆるい放物線ほうぶつせんえがいて、おんな背中せなかたった。ガッ、といたそうなおとがした。

「はぇっ!? ひっ!」

 おんながうつせにたおれた。げるのをやめて、両腕りょううであたまかかえて、からだまるめた。


 さる狭魔きょうま足元あしもといしころをひろう。緩慢かんまんなオーバースローでげる。

 いしころがおんなたって、ガッ、といたそうなおとがする。

「ひっ! いやっ! いやっ!」

 いしころがたるたびに、おんなわめく。


 げもできないなら、急所きゅうしょまもってえるのもベターだ、とするしかない。不幸ふこうちゅうさいわいで、片手かたてつかめるサイズのいしだから、あたまにでもたらなければにはしないはずだ。

 狭間はざま滞在たいざい可能かのう時間じかんぎれば、時間切じかんぎれでこっちの世界せかいもどれる。すくなくとも今回こんかいは、なずにむ。


 さる狭魔きょうまいしころをげる。たって、おんなわめく。

 はやく! はや時間切じかんぎれになれ!

 なぜかオレが、焦燥しょうそうした。苛立いらだった。息苦いきぐるしかった。


   ◇


「いやっ! やめて! もうやめて!」

 よし! おんながこっちの世界せかいもどった。なが数分間すうふんかんだった。


大丈夫だいじょうぶっすか!?」

「おいおいなんだぁ? 怪我けがしてるじゃねぇか」

 オレと古堂ふるどうで、あつまる衆目しゅうもくってった。

「やめ、いや、もういやぁ……」

 両腕りょううであたまかかえて、からだまるめて、き、おびえ、ふるえていた。あかいアンダーリムの眼鏡めがねの、なが黒髪くろかみみにはな髪飾かみかざりをした、大人おとなおんなひとだ。


「もう大丈夫だいじょうぶっす。魔狩まかりギルドに保護ほごしてもらうっす」

 オレは、できるだけ平静へいせいに、力強ちからづよこえをかけた。

 おんなは、こえてるのかこえてないのか、オレのほうていなかった。ガチガチとらして、ふるえていた。

 一般人いっぱんじん狭魔きょうまおそわれたら、こうなって当然とうぜんだろう。オレがはじめて狭間はざままれたときも、きっとこんなかんじだったのだろう。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第67話 EP10-3 予期よきせぬ事態じたい/END

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