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第70話 EP10-6 閑話 狭魔討伐報告書 後編

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


 くろそらしたしろ狭間はざまに、灰色はいいろあめ土砂降どしゃぶる。灰色はいいろ地面じめんには、すうセンチ、うすみずまる。


 琴音ことねほのお魔法まほうは、あめよわめられる。麗美れみこおり魔法まほうは、みずかたまりみたいなひる狭魔きょうまにはきがわるい。


 あめはげしくはだつ。雨音あまおとはげしくる。うす水中すいちゅうもぐったひる狭魔きょうま姿すがたは、えない。

 二人ふたり、しばししずかにつめう。現状げんじょうすじえない。


琴音ことね御姉様おねえさますこしのあいだ時間稼じかんかせぎをおねがいしてよろしいですか?」

「もちろんです、麗美れみちゃん。まかせてください」

 麗美れみ琴音ことねも、ひとみ不安ふあんはない。自信じしんちた微笑びしょうと、たがいの信頼しんらいだけがある。

「ありがとうございます、琴音ことね御姉様おねえさま!」

 麗美れみ小柄こがらからだ力強ちからづよく、古木こぼくつえ頭上ずじょうかかげた。


世界せかいおお静寂せいじゃくよ! 万物ばんぶつじるひつぎよ!」

たけり、のぼり、ち、ふさぎ」

 二人ふたり詠唱えいしょう呼応こおうするように、ひる狭魔きょうまうす水面すいめんかんだ。二人ふたりかってぐに、サメの速度そくど水面すいめんけた。


「ファイアウォール!」

 琴音ことね魔法まほうで、ひる狭魔きょうま進路しんろに、うす水面すいめんからほのおかべきあがる。

 ひる狭魔きょうまは、ほのおかべきらっておおきく迂回うかいする。


 迂回うかいしたひる狭魔きょうま進路しんろに、さらにほのおかべきあがる。それもおおきく迂回うかいしたさきに、さらにべつほのおかべきあがる。

 ひる狭魔きょうま迂回うかいしながら、それでも徐々じょじょ二人ふたりちかづく。あめたれてふと透明とうめいからだ水紋すいもんえがき、赤黒あかぐろ突起とっきならくちけ、うす水面すいめんけ、ついに、間近まぢかにまでせまる。


 麗美れみ魔法まほう詠唱えいしょう完成かんせいするまでの時間稼じかんかせぎが目的もくてきだから、問題もんだいはない。


いまこのすべてをつつとどめよ! クローズド! セレニティ!」

 麗美れみが、古木こぼくつえりおろし、うす水面すいめんてた。水面すいめんこおった。氷結ひょうけつが、周囲しゅういへと瞬発的しゅんぱつてきひろがった。

 同時どうじに、ひる狭魔きょうま進路しんろほのおかべきあがった。

 水面すいめん広範囲こうはんいこおらせれば、こおり魔法まほうきがわるかろうが、みずっぽいからだろうが、一緒いっしょくたにひる狭魔きょうままで拘束こうそくできるはずだ。


 バシャンと水音みずおとをさせて、ひる狭魔きょうまねた。うす水面すいめんからて、たかほのおかべをもした。おおきくくちけ、二人ふたりおそいかかった。


 こおった水面すいめんから、土砂降どしゃぶりのあめけてこおりはしらつ。何本なんぼんつ。

 こおりはしらから、あめつたってこおりくさりびる。何本なんぼんびて、ひる狭魔きょうまからみつく。


 こおりくさりがガチャンとって、ひる狭魔きょうま空中くうちゅうまった。二人ふたり手前てまえで、こおりくさりでグルグルきにされ、うごけなくなった。


 こおりはしらから、あめつたって屋根やねひろがる。神殿しんでんのように二人ふたり頭上ずじょうひろおおって、あめさえぎる。


 勝敗しょうはいは、けっした。


   ◇


 ひる狭魔きょうまが、拘束こうそくするこおりくさりをガチャガチャとらしてよじる。いつまでもしばっておけるわけではないが、すぐにはけられない。


 琴音ことねが、つばさかざられた片手かたてづえおおきなむねまえかまえ、しずかに詠唱えいしょうする。

白熱はくねつさかり、まり、つつみ」

ややかなるかべよ!」

 麗美れみあわせて詠唱えいしょうはじめた。


「ビャッ!」

 気色悪きしょくわるおとで、ひる狭魔きょうま口吻こうふんから粘液ねんえきが、琴音ことねけてされた。

「アイスウォール!」

 わずかにはやく、こおりかべがそそりった。粘液ねんえきこおりかべにブチけられて、ジュワーッと悪寒おかんのするおとこおりかした。


 魔法まほう氷壁ひょうへき琴音ことねまもった麗美れみが、微笑びしょうほこる。

おく毒性どくせい吐瀉物としゃぶつなんて、ベタベタでしてよ。それでこおりくさり一本いっぽんでもかしたほうが、まださき可能性かのうせいがありましたのではないかしら?」


 氷壁ひょうへきくずれ、琴音ことね姿すがたせる。

 ズブれのかみ衣装コスチュームからみずしたたらせ、微笑びしょうして、おだやかに魔法まほう詠唱えいしょう完成かんせいさせる。

やすらかにきよ。ヒート、クレイドル」

 ボッ、と空気くうきはじけて、ほのおひる狭魔きょうまつつんだ。


 くるま一台いちだいほどのおおきさのほのおなかで、ひる狭魔きょうまねつ紙切かみきれのように藻掻もがく。くろけて、はいとなって、くずれて、る。


   ◇


 昼間ひるま雑踏ざっとうに、快晴かいせい青空あおぞらから小石こいしちてくる。

 魔法まほう少女しょうじょスタイルの琴音ことねが、それを華麗かれいにキャッチした。パシンッ、と心地好ここちよおとひびいた。


 狭魔きょうまたおすと、えて小石こいしわる。


「ブラボー! コォトォネサァマ! ブラァボー!」

「ファンタスティック! ミラコゥ!」

 雑踏ざっとうのモブども……もとい、人々ひとびとから次々つぎつぎと、拍手はくしゅ喝采かっさいがあがった。

 きりふかもりおく、ひっそりとうつくしくほこり、数多あまた宝石ほうせきすらかす白銀はくぎんかがやきを薔薇ばらにもたとえられる琴音ことね御姉様おねえさままぶしさをまえにそこらの雑草ざっそうおのれ凡庸ぼんようさを平伏ひれふすのは不可抗力ふかこうりょく朝露あさつゆさえも白銀はくぎんかがや一滴ひとしずくうすめてってんだほうが、……いけないいけない、おもわず早口はやくちになってしまった。


 麗美れみ笑顔えがお琴音ことねる。

「お見事みごとでしたわ、琴音ことね御姉様おねえさま! わたくし、微力びりょくでもおやくてましたで、きゃっ!?」

 琴音ことねやさしくほおれて、麗美れみはビックリした。くちびるせられて、赤面せきめんした。


「そっ、そんなっ、琴音ことね御姉様おねえさま!? こっ、こんなところで!? たくさんのひとに、られていますわ」

 困惑こんわくする麗美れみに、琴音ことね凛々りりしい微笑びしょうこたえる。

「ふふっ。せつけてやればいいさ。わたしと麗美れみなかで、られてずかしいことなんて


   ◇


 さすがは琴音ことねいもうと弟子でしだ、とおもいながら、オレは報告書ほうこくしょをソッとじた。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第70話 EP10-6 閑話かんわ 狭魔きょうま討伐とうばつ報告書ほうこくしょ 後編こうへん/END

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