マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます
第71話 EP10-7 こうしてこうしてこう
この世界の隣には、『狭間』と呼ばれる世界がある。
狭間には、『狭魔』と呼ばれるモンスターが出る。
狭魔を倒す、『魔狩』と呼ばれる人間がいる。
◇
オレは、遠見 勇斗。十四歳の中学生で、冴えないメガネ男子である。普段着のTシャツジーパンスニーカーで、腰に廉価品の長剣をさげる、一応、駆け出しの魔狩である。
久しぶりに、魔狩ギルドのトレーニングルームにいる。薄汚れた白い衝撃吸収材に覆われた大部屋で、体育館くらいに広い。
「努力、特訓、友情、勝利、あるのみよ!」
仁王立ちで腕組みして、桃花が声を張りあげた。
絢染 桃花は魔狩である。オレの幼馴染みで、十四歳の中学生で、桃色の長い髪で、華奢で、胸が小さい。
いつもの私服、ノースリーブにミニスカートにスニーカー姿で、腰に自身と同サイズの両刃の大剣をさげる。
「ははははははいっ! がっ、頑張りまっ、ますっ!」
赤いジャージの戸塚が、ド緊張して、選手宣誓のポーズで答えた。
戸塚 美幸は一般人である。赤いアンダーリムの眼鏡をかけ、長い黒髪の三つ編みを黒の髪ゴムで留める。オドオドした琴音が大人になった感じの女の人である。
「お、おう!」
オレも他人事じゃないので、緊張気味に答えた。
まさかの、オレと戸塚で、狭魔討伐を共闘することになった。
一般人を危険に晒すなどあるまじき! 代わりに戦ってこそ魔狩の存在意義! 魔狩と一般人の共闘などと本末転倒、支離滅裂、言語道断である!
と、本来ならばなるところを。
代わりに戦う魔狩が、一般人同然の中学生=子供である。『大人一般人』と『ほぼ一般人子供魔狩』に大した戦闘力の差もない。何より、その大人一般人に、共闘の強い希望がある。
平たく言えば、オレが一人で討伐を試みるリスクが、共闘で戸塚が負傷するリスクより高い、と判断されたわけだ。
オレもそう思う。諸手を挙げて賛成する。共闘助かる。
◇
「戸塚さんは一般人だから、攻撃の反復練習ね」
桃花が、人の頭くらいの大きさの薄汚れた白いボールを、戸塚の前に置く。
「腰の細剣を握って、ボールに突き刺して」
「はっ、はいっ!」
戸塚が、地味な柄を握って、腰の細剣を抜く。地味な鞘の縁に剣先を引っ掛けて、細い刃がビヨヨンと揺れる。
「あっ、あっ!? えっ、うっ?! とっ、とあぁっ!」
素人丸出しのフェンシングスタイル擬きで、ボールに細剣を突き刺した。弾かれるみたいに細い刃が撓って、細剣が手から跳ねて、床に落ちた。
……分かる! 最初は、だいたいそうなる。
ビックリした戸塚が、慌てて細剣を拾う。
「すっ、すみません! もっ、もう一回」
「逆手に両手で持ってみて。こう、振りあげてから、振りおろして、突き立てる感じ」
桃花が、戸塚の細剣の扱いを指導する。
手取り足取りできるなら、桃花は実技の説明が上手い。
「いっ、いきますっ!」
戸塚が逆手に握った細剣を、ボールに振りおろす。
剣先が数センチ、浅いながらも突き刺さった。勢い余った戸塚の両手が滑って、細剣を放した。
「痛い! 手が痛いです!」
戸塚が半泣きで桃花に訴えた。
それも分かる。
「そうよ。剣を刺すって、手が痛いの。簡単じゃないの」
桃花が教官っぽい真顔で頷く。ボールから細剣を抜いて、戸塚に差し出す。
「はい。じゃぁ、もう一回ね」
さすがは桃花だ。大人相手でも一切の譲歩がない。スパルタ絢染だ。
◇
「オレも、攻撃練習でいいよな?」
オレは、自分用の薄汚れた白いボールを準備しながら聞いた。
「動きの鈍そうな狭魔だったから、二人で挟み撃ちがいいと思うんだよな。少しでも腕力のあるオレがメインで」
「ちょっと待って」
オレの前に立った桃花が、オレのボールを握る。
「不慣れな人が接近戦になると、興奮して何も考えられなくなるわ」
「あ~、分かる。オレも初めてのときは、突くことしか考えられなかった」
と言っても、これがオレのまだ二回目なわけだが。
桃花が、片手で掴める大きさのボールがたくさん入った白いカゴを引き寄せる。
「だから、勇斗は防御に専念ね。戸塚さんを全力で守る係ね」
「……え?」
オレは困惑した。考えた作戦は、二人で挟撃で、狙われた方は防御で、狙われてない方が攻撃して、適宜切り替えて、だった。根本から否定された。
「はい。構えて」
桃花が、片手で掴める大きさのボールを、片手で掴む。緩く振りかぶる。
オレは慌てて、練習用の長剣を腰の高さに構える。
「はい。防御して」
投げた。何の前置きもなく投げた。桃花は口頭の説明は最悪だ。
練習用の長剣で、緩く山なりに飛んでくるボールを打ち落とす。思ったより重くて、長剣が暴れて、手から放れる。床に落ちる。
「……これ、思ったより、難しくないか?」
オレは、手が痺れて、呆然として、桃花に訴えた。
「そうよ。投げられた石から身を守るって、簡単じゃないの。戸塚さんまで守らないといけないから、勇斗には、かなり難しいわよ」
桃花が教官っぽい真顔で頷いた。
実戦経験の多い桃花がそう言うなら、そうなのだろう。どうやら実戦ってヤツは、オレが想定していたほど甘くはないようだった。
マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます
第71話 EP10-7 こうしてこうしてこう/END