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第72話 EP10-8 戸塚って人

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。十四さい中学生ちゅうがくせいで、えないメガネ男子だんしである。普段着ふだんぎティーシャツジーパンスニーカーで、こし廉価品れんかひん長剣ロングソードをさげる、一応いちおうしの魔狩まかりである。


「よし、桃花ももか。ここらで休憩きゅうけいにしようぜ」

 オレは、うすよごれたしろ衝撃吸収材クッションゆかたおんだまま、桃花ももか提案ていあんした。

「ぜっ、ぜぇ、ぜぇ。そっ、そうですね。わっ、わたしもっ、す、すこつかれ、うぇっ、げほっ、げほっ」

 あかいジャージの戸塚とつかも、ゆかすわんで、たおれそうにうつむいて、くるしげに咳込せきこんだ。


 魔狩まかりギルドのトレーニングルームにいる。狭魔きょうま討伐とうばつ共闘きょうとう訓練くんれんで、二人ふたり桃花ももかのスパルタをけている。


勇斗ゆうと戸塚とつかさんも、まだ一時間いちじかんってないわよ。たったそれだけの基礎きそ練習れんしゅうで、よくそこまでボロボロになれるわね」

 桃花ももかが、しんじられない、とあきがおで、不思議ふしぎそうにこたえた。

 運動不足うんどうぶそくのインドアを、桃花ももか同列どうれつかんがえないでほしい。


「まぁ、いいけど。ちょっとはやいけど、ギルドの食堂しょくどうでおひるにしましょ」

 桃花ももかが、いきじりにかたすくめる。

「や、やったぜ、ぜぇ」

「きゅっ、休憩きゅうけい、うれ、うれしいです。はぁ、はぁ、えほっ、えほっ」

 オレも戸塚とつかも、いきえによろこんだ。


   ◇


「こっ、ここっ、ここはっ、わっ、わたしがっ、ごち、ご馳走ちそうします。おっ、大人おとななのでっ」

 食券売機しょっけんばいきまえで、戸塚とつか財布さいふひらく。ほそゆび絆創膏ばんそうこうだらけである。

「やった! アタシ、カツどん特盛とくもり!」

「ありがたく、ご馳走ちそうになるっす」


 カウンターで食券しょっけん料理りょうりえて、ひとフロア使つかったひろ店内てんないせきえらぶ。四人掛よにんがけのしろいテーブルがたくさんならんでいて、正午しょうごよりまえだから閑散かんさんとしてる。

 ビルのボロい外観がいかんはんしてキレイな内装ないそうで、一般いっぱんにも開放かいほうされてるから、昼食時ちゅうしょくどきには混雑こんざつする。真新まあたらしいビルがいにあるわりにはやすくて美味おいしい、ってのもある。


 オレは窓際まどぎわのテーブルにめて、ラーメンをく。いたくてつかれてふるえる。おなじくふるえるひざしろいイスにすわる。

「いただきます」

 わせてから、ばしる。一口ひとくちすする。あつい、くちなかきずみる。


戸塚とつかさんは、ちゃんとべて、すこしでも筋肉きんにくつけたほうがいいわ」

 桃花ももかが、戸塚とつかのサンドイッチを指摘してきした。

「わっ、わたしはっ。しょ、少食しょうしょくなのでっ」

 戸塚とつかが、狼狽うろたえながら弁明べんめいした。弁明べんめい余地よちがないくらいにはすくない。

「はい。これべていいわよ」

 桃花ももかが、自分じぶんのトンカツを一切ひときれ、戸塚とつかのサンドイッチにえた。


 桃花ももか面倒見めんどうみがいい。戸塚とつか雰囲気ふんいき琴音ことねてるから、尚更なおさらだ。

 桃花ももかともだちがすくない。琴音ことね数少かずすくないともだちである。


 とう琴音ことねいたっては、『わたしが戸塚とつかさんのバトルコスチュームをつくります!』と宣言せんげんしていた。


   ◇


 オレはラーメンをすする。あさからはげしく運動うんどうして、はらってる。

「なぁ、桃花ももか。オレの知識ちしきだけだと机上きじょう空論くうろんになっちまうからさ。実戦じっせんさいしてのアドバイスをくれ」

 べながら、はなしした。


「えっ?! アドバイスをくれ!? アタシにはアドバイスくれないのに!?」

 桃花ももかが、わざとらしく、おどろいたふうまるくした。

桃花ももか、まだって……、いや、アドバイスはつぎまでにかんがえておくから、たのむ。オマエ以上いじょうたよれるヤツなんて、いやしないぜ」

 ここは我慢がまんだ。いまは、おがんででも桃花ももか助言じょげん必要ひつようだ。


 桃花ももかが、うれしげにほおあからめ、満足まんぞくげにかえる。

「ま、まぁ、そこまでうなら、かんがえてあげなくもないわよ?」

 相変あいかわらず、こっちが心配しんぱいになるくらいにチョロい。


 桃花ももか真顔まがおになった。

 オレも、真顔まがおった。

勇斗ゆうとおおきな怪我けがもなく狭魔きょうまてたのは、共闘きょうとうした古堂ふるどうさんが冷静れいせいだったからよ」

かる。古堂ふるどうさんは『スナイプ』で、狭魔きょうまからはなれてたからな。オレは、接近戦せっきんせんになって興奮こうふんしてた」


今回こんかいは、勇斗ゆうと冷静れいせいでいなきゃいけないわけ。勇斗ゆうと古堂ふるどうさんやくで、戸塚とつかさんが勇斗ゆうとやくね」

「なるほどな。戸塚とつかさんは接近戦せっきんせん興奮こうふん状態じょうたいになるから、オレは攻撃こうげきしないことで冷静れいせいたもつわけか。むずかしくないか?」

 オレと桃花ももかで、戸塚とつかる。戸塚とつかがオドオドする。

「がっ、がっ、頑張がんばりますっ!」

 ナイスな意気込いきごみだ。挙動きょどうは、がグルグルとまわって、をワチャワチャときがなくて、不安ふあんだ。


むずかしいわよ。興奮こうふんしてるひとが、こっちのこえこえてるかもからないもんね」

「そのてん古堂ふるどうさんはやっぱすごいよな。あの状態じょうたいで、的確てきかくに、簡潔かんけつに、オレのくじけたこころなおした」

 桃花ももかが、ちょっとだけ不満ふまんそうにする。けずぎらいの桃花ももかは、なぜか、たまに古堂ふるどうにまでライバルしんやす。

今回こんかいは、勇斗ゆうとが、それをするの。ちっちゃいころからあそんでもらってた古堂ふるどうさんとおなじことを。戸塚とつかさんに的確てきかく言葉ことばをかけるために、戸塚とつかさんのことをよくらなきゃいけないわけよ」

 オレと桃花ももかでまた、戸塚とつかた。戸塚とつかが、やっぱりオドオドした。


   ◇


 猶予ゆうよすくない。戸塚とつかり、戸塚とつか必要ひつようなにかをつかまねばならない。

戸塚とつかさんって、中学生ちゅうがくせいころは、どんなかんじだったっすか?」

 オレは、とりあえず、ストレートにいてみた。同年代どうねんだいころ情報じょうほうがあれば、なにかるかもれない。


 戸塚とつか狼狽うろたえて、両手りょうてかおまえる。

「どどどどんなってっ。ひっ、一人ひとりほんんでるだだけのっ、じっ、地味じみなじょっ女子じょしでしたのでっ」

 イメージそのままだ。くまでもなさそうだ。


将来しょうらいゆめってあるっすか?」

「ゆっゆめべるほどのものはっ。こここれで、ちょっとだけでもつよっ、くなれればとっ」

「じゃあ、きなものはなにっすか? 趣味しゅみとか」

「しゅっ、趣味しゅみっ?! そそそそんなっ、ちゅっ、中学生ちゅうがくせいおとこせていいものではっ」

 戸塚とつか狼狽うろたえて、赤面せきめんして、こえ裏返うらがえした。


 琴音ことね大人おとなになったかんじのおんなひとだ、とオレは理解りかいふかめた。くまでもないような、でもヒントになってそうで、根拠こんきょはないけど楽観的らっかんてきになれた。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第72話 EP10-8 戸塚とつかってひと/END

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