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第74話 EP11-1 狭聖事件

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。十四さい中学生ちゅうがくせいで、えないメガネ男子だんしである。普段着ふだんぎティーシャツジーパンスニーカーで、こし廉価品れんかひん長剣ロングソードをさげる、一応いちおうしの魔狩まかりである。


戸塚とつかさん。ありがとうございましったっす。すっかりご馳走ちそうになっちゃったっす」

 まだあかるい夕刻ゆうこくに、オレは、地味じみなロングスカートの戸塚とつかあたまをさげた。


 オレと桃花ももか琴音ことね戸塚とつかで、近所きんじょ神社じんじゃ夏祭なつまつりにあそびにいった。戸塚とつか散々さんざんおごってもらって、オレのいえまえまでかえってきた。


 戸塚とつかが、れてあかかおまえ両手りょうてる。

「そっ、そんなっ、全然ぜんぜんっ。みなさんには、おっ、お世話せわになりましたしっ。おっ、大人おとななのでっ」

 今日きょう着飾きかざってない。あかいアンダーリムの眼鏡めがねをかけ、なが黒髪くろかみみをくろかみゴムでめてる。


「せっかくの夏祭なつまつりに、オレたちの引率いんそつまでさせちゃって、それももうわけないっす」

「そっ、それも全然ぜんぜんっ! もう、のぞみがかなったともうしますか、いっ、一歩いっぽを、せましたので!」

 戸塚とつかが、やっぱり、れてあかかおまえ両手りょうてった。


   ◇


 いえまえに、黒塗くろぬりの高級車こうきゅうしゃまる。ドアがいて、おとこりる。


 ながめにととのえたあわ金髪きんぱつで、やさしい微笑びしょうで、華奢きゃしゃで、女子じょしにもえそうな美形びけいの、高校生こうこうせいくらいの青年せいねんだ。

 高位こうい聖職者せいしょくしゃまとうような、多層たそう多段ただんのヒラヒラとした純白じゅんぱく祭服さいふくてる。おそろしいことに、『狭聖きょうせい教団きょうだん』の教主きょうしゅである。

 こしには、複数ふくすう能力のうりょくちの『オールマイティ』にしか使つかえない超常ちょうじょう武器ぶき光輝十字剣ライトクルセイダー』と、くろ革鞘かわざや菱形ひしがた大刃おおば短剣たんけんをさげる。


 ……情報量じょうほうりょうが! 情報量じょうほうりょうおおい!


「ちょうどおいできて、かった」

 教主きょうしゅが、オレに、はかなげに微笑びしょうした。

 オレにようがあるってことだ。ビビって、心臓しんぞうねた。こっちにようはない!


「げっ、現実げんじつの! はっ、はかなげなっ、びっ、美青年びせいねんふたたびっ、です! リっ、リアルの!」

 レースやフリルでカワイイけい浴衣ゆかた琴音ことねが、教主きょうしゅはかなげな美青年びせいねんっぷりに興奮こうふんした。

「じっ、実在じつざいしたんですかっ!? はかなげな美青年びせいねんっ!? もっ、妄想もうそう幻覚げんかくではなくてっ!?」

 呼応こおうするように、戸塚とつか興奮こうふんした。こぶしにぎって、気味ぎみ前屈まえかがんだ。


 二人ふたりとも、はかなげな美青年びせいねんに、ちょっと困惑こんわくされてる。


「なんか、よう?」

 桃花ももかが、オレのまえつ。教主きょうしゅにらんで威嚇いかくする。


 絢染あやそめ 桃花ももか魔狩まかりである。オレの幼馴染おさななじみで、十四さい中学生ちゅうがくせいで、桃色ももいろながかみで、華奢きゃしゃで、むねちいさい。

 ピンクで花柄はながら浴衣ゆかたて、にリンゴあめにぎって、こし自身じしんどうサイズの両刃りょうば大剣たいけんをさげる。


御用ごようがあればこそ、わざわざ御足労ごそくろうくださったにまっておろう!」

 野太のぶとこえで、黒塗くろぬりの高級車こうきゅうしゃから、なぜか、くろ司祭服しさいふく大男おおおとこりてきた。

 なぜか、って、運転席うんてんせきからりてきたから運転手うんてんしゅだとおもうけど。


 大男おおおとこ突然とつぜん司祭服しさいふくうえをはだけて、上半身じょうはんしん露出ろしゅつする。

教主きょうしゅさま不浄ふじょうけおって! この!、狭聖きょうせいさまあだなす邪教徒じゃきょうとどもめ!」

 二十歳はたちくらいのスポーツマンな角刈かくがおとこで、暑苦あつくるしいマッチョのポージングで威嚇いかくかえしてきた。


「ひっ、ひぃっ?! マッチョ! こわいです!」

「ひぃぃぃ~っ! マッチョいや~!」

 琴音ことね戸塚とつか涙目なみだめ悲鳴ひめいをあげ、った。

「おっ!? おぅ、まん」

 半裸はんら大男おおおとこにも、ちょっと困惑こんわくされた。


   ◇


 教主きょうしゅはかなげに微笑びしょうする。

本日ほんじつ狭聖きょうせいさまとの対話たいわに、遠見とおみ 勇斗ゆうとさんにっていただきたく、おまねきにあがりました」

 くまでもない。教主きょうしゅがオレに、それ以外いがいようなんてない。


 桃花ももか無言むごんで、浴衣ゆかたかたはだける。さては、大男おおおとこ対抗心たいこうしんやしたな?

「そういうのは、いいから」

 オレは冷静れいせいに、桃花ももかをとめた。

「あっ、あっ、絢染あやそめさんっ?! えてしまいます! えてしまいます!」

 琴音ことねが、ずかしそうにかおで、つよつぶって、桃花ももかをとめようと虚空こくうおどらせた。


ひと条件じょうけんがあるっす」

 オレは、ビビってふるえる人差ひとさゆびてる。

 教主きょうしゅが、微笑びしょうこたえる。

「もちろん、絢染あやそめ 桃花ももかさんも、ご一緒いっしょにいらしていただいてかまいません」

 だったら、異存いぞん懸念けねんもない。


   ◇


 ちがいはひとつ、マッチョの大男おおおとこ狭苦せまくるしくくるま運転うんてんしてたことくらいだ。

 オレと桃花ももか前回ぜんかいおなじ、質素しっそだけど真新まあたらしい、しろ施設しせつ案内あんないされた。来客用らいきゃくよう薄茶うすちゃいろのローブをあたまからかぶって、しろ廊下ろうかを、教主きょうしゅ信徒しんと挨拶あいさつながらあるいた。

 なが廊下ろうかたり、まどなにもない、くろはこみたいなイスがひとつだけある、くろせま部屋へやとおされた。


 くろせま部屋へやで、教主きょうしゅこしの『光輝十字剣ライトクルセイダー』が薄明うすあかるく周囲しゅういらす。

「ネジレさまが、これが最後さいご対話たいわとおっしゃいました。御満足ごまんぞくなされたのか、これ以上いじょう必要ひつようないと御判断ごはんだんされたのか、ひとはかれるはずもありませんが」

 はかなげに微笑びしょうする。

「ですから、ぼく最後さいごに、せいをおつたえできれば、とかんがえています」


 オレは、いや予感よかんがした。


 前触まえぶれもなく、空気くうきわった。


   ◇


 くろ狭間はざまに、しろ狭魔きょうまがいる。人間にんげん大差たいさないサイズで、人間にかたちで、白い粘土ねんどみたいな質感しつかんで、黒い空間くうかん片膝かたひざかかえてすわる。


 オレは、この世界せかいから狭間はざまえる特殊とくしゅ能力のうりょくちだから、見える。


 そのしろ狭魔きょうま『ネジレさま』は、ひとかたち粘土ねんどねじりにねじったようなをしている。白い表皮ひょうひ螺旋らせん凹凸おうとつが、頭頂部とうちょうぶからあし爪先つまさきまで、全身ぜんしんにある。


 せいらないなにかにせいおしえるって、できるわけないし、できるできない以前いぜんに、発想はっそうとしておかしい。それはもう、自分じぶんぬか、ソイツをころすしかない。

 そもそも対話たいわ成立せいりつしてるかもあやしいヤツ相手あいてに、そんな無茶むちゃかんがえる教主きょうしゅいのち価値観かちかんは、おかしい。自分じぶんいのち認識にんしきかるすぎる。

 教主きょうしゅは、実力じつりょくよりも評価ひょうかランクのほうたかい『オールマイティ』だ。てないつよさの狭魔きょうままれる可能性かのうせいたかく、いつ狭間はざまいのちとしても不思議ふしぎじゃない人生じんせいだから、さっするけど、おかしい。


 教主きょうしゅ片手かたてで、こしの『光輝十字剣ライトクルセイダー』をく。もう片手かたて同時どうじに、菱形ひしがた大刃おおば短剣たんけんく。

 光輝十字剣ライトクルセイダーが、ひかりのオーラをまとった。大刃おおば短剣たんけんが、闇色やみいろのオーラをまとった。

 問答無用もんどうむようで、ひかりやみ交差クロスに、ネジレさまりつけた。


 でも、おそい。よわい。気迫きはくが、覚悟かくごが、殺意さついが、全然ぜんぜんりない。


 教主きょうしゅやいばれるよりはるかにはやく、ネジレさまからドリルみたいに、ねじれた突起とっきがたくさんえた。がりくねりながら、教主きょうしゅ全身ぜんしんった。


   ◇


 狭魔きょうまたおすと、えて小石こいしわる。

 狭間はざま滞在たいざい可能かのう時間じかんぎれば、時間切じかんぎれでこっちの世界せかいもどれる。

 狭間はざま人間にんげんねば、ただ、死体したいがこっちの世界せかいもどされる。


 オレは呆然ぼうぜんと、くろ部屋へやたおれた教主きょうしゅつめる。あるろうとして、くびよこ桃花ももか制止せいしされる。


「……ふふっ。ふふふふふっ」

 教主きょうしゅが、滑稽こっけいとばかりにわらった。

 んでなかった。きてた。

「これは、ネジレさませいをおつたえできた、とかんがえていのでしょうか?」

ころすまでもなかっただけでしょ。なくてもかるわ」

 オレよりはやく、桃花ももかあきがおなくこたえた。

「ふふっ。そうなのでしょうね」

 教主きょうしゅさわやかに微笑びしょうした。ようやくかたりたふうに、れやかな笑顔えがおだった。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第74話 EP11-1 狭聖きょうせい事件じけん/END

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