この世界の隣には、『狭間』と呼ばれる世界がある。
狭間には、『狭魔』と呼ばれるモンスターが出る。
狭魔を倒す、『魔狩』と呼ばれる人間がいる。
◇
オレは、遠見 勇斗。十四歳の中学生で、冴えないメガネ男子である。腰に廉価品の長剣をさげる、一応、駆け出しの魔狩である。
中学生が学校にいるのだから、制服を着ている。男子は黒の学生服、女子は赤いスカーフのセーラー服である。
ついに、夏休みが終わってしまった。色々とあった。長いようで短かった。
死んだ目で自席に座る桃花を横目に見る。
絢染 桃花は魔狩である。オレの幼馴染みで、十四歳の中学生で、桃色の長い髪で、華奢で、胸が小さい。腰には、自身と同サイズの両刃の大剣をさげる。
終わったといっても、今日は始業式だけで帰れる。生徒のほとんどが帰り支度をして、教室から出始めている。
「おい! おい、遠見! テレビのワイドショーに、狭聖教団の教祖ってのが出てるぜ!」
オンゲ仲間の一人でもある男子生徒が、オレの前にスマホを突き出した。
おいおいおい!、あんな儚げな美青年をお茶の間に晒したら入信希望者が殺到しちまうだろうが!、と内心で動揺しながら、オレは興味なさげに画面を見る。
「へ、へぇ~。狭聖教団って、あれ、カルトだっけ?」
カルトとか、マイナーとか、限定とか、割と人の興味を惹くものだ。狭聖教団も、大した規模の組織でもないのに、知名度だけはある。
『審判の刻が来たのじゃ! 不浄な人類は、狭聖様の御手で裁かれるのじゃ!』
ワイドショーのスタジオで喚き散らす老人が、画面に映る。
すっかりシワシワの顔で、縮んだみたいに小柄で猫背な体に、高位の聖職者が纏うような多層多段のヒラヒラとした祭服を着る。祭服は純白で、悪趣味に派手な金糸の刺繍がされて、胸に紋章がある。白と灰色と黒の交じり合うシンプルなデザインの、『狭聖教団』の紋章である。
「……え? もっとこう、高校生くらいじゃ」
オレは困惑した。儚げな美青年ではなくて、卑屈で性悪そうな爺が映っていた。
「そりゃ、遠見、教主だぜ。こっちは、教祖だぜ」
「へぇ~。詳しいんだな」
オレは、狭聖教団をほとんど何も知らない。怖くて意図的に距離を置いてたから、仕方ない。
◇
司会の芸能人が、全く信じてない半笑いで聞く。
『その、狭聖様の裁きとは、具体的にはどのようなことでしょうか?』
教祖が、司会者を指さし、怒鳴る。
『真剣みが足らん! 裁きは裁きじゃ! 神聖なる御意思を、世俗に塗れた人間ごときが知れるか?!』
オレ個人の感想としては、いかにもカルト宗教だ。根拠も具体性もない。そのくせ、上から目線で大袈裟だ。
『それってさぁ、よくあるエセカルトじゃん?』
ゲストの一人が口を挿んだ。発言に遠慮がない、で売り出し中の新人アイドルだ。
名前は、橙 アカリ。オレンジ色の髪をツインテールにした女子で、気の強そうな顔立ちで、中学生で、ランクBの魔狩でもある。キュートなアイドル衣装の腰には、銀鞘の細剣をさげる。
アカリが、露骨な蔑みの視線を教祖に向ける。
『人の不安を煽って、お金を集めようってんでしょ? 狭聖なんて呼んでも、狭魔は大昔からいるし、今さら裁きも何もないわ』
『こっ、こっ、こっ、このっ!、小娘がぁっ! 狭聖様を蔑ろにする不信人者にこそ! 裁きが下ると知れっ!』
教祖が怒りに顔を真っ赤にして、怒鳴り散らした。
橙 アカリは、アイドルに疎いオレでも知ってる。同年代で同じ魔狩のアイドルなんて、興味を持たないわけがない。
あ。教祖が倒れた。血圧があがりすぎたのだろうか。
スタジオが騒然となって、『しばらくお待ちください』のテロップが表示される。
◇
「……早く帰って、バトロイしようぜ」
「よし。新マップで試したいことあるから、詳細をメールで送っとくな」
オレも、帰り支度を始めた。正直、しばらくは冒険は遠慮したい。平和な日常から外れたものには、係わりたくない。
マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます
第75話 EP11-2 教祖/END