「ダメ! これ以上は絶対しちゃダメに決まってるでしょ。私達友達だよね」
「でも、子供欲しいんでしょ。俺と子供作れば良いじゃん」
ようやっと林太郎を押し返したが、またキスされそうになる。私は必死で彼の口を手で塞いだ。
「林太郎は友達と子供作るの? もしかして隠し子とかいる?」
セレブな男は隠し子がいるパターンが非常に多い。所謂、認知はするけど家柄が釣り合わなくて結婚できないパターン。
林太郎は私の手を掴み、指を絡ませベッドに押し付ける。
「いないよ。ただ、俺は全ての願いを叶えてあげたいくらい、きらりの事好きなだけ」
「私、子供欲しいなんて一言も言ってない!」
私の言葉に林太郎が目を瞬かせる。
「日本人らしく行間を読んだつもりなんだけど⋯⋯」
「全然読めてない! 0点!」
私の言葉に少しムッとした林太郎は私の上からどくと、部屋を出て行った。
(なに? 私、悪くないよね)
リビングまで行くと、ワイングラスに赤ワインをドボドボ注いで飲む林太郎がいた。
「ボジョレーヌーボ?」
もう、今年もあと少しかとボジョレーヌーボを見てしみじみする。
「全然美味しくないけど、きらりもどうぞ」
差し出されたワイングラスを手に取り、口に含む。疲れているせいか酔いがまわる。
「お酒って、楽しい気分で飲まないと美味しく感じないと思うよ」
「楽しいよ。きらりといると苦しいと思う時もあるけど楽しい」
「苦しい?」
「きらりの気持ちが分からなくて苦しい」
林太郎の言葉に私は混乱した。私は割と何を考えているか分かり易いと言われる。
「私も林太郎の気持ちが分からなくて困る時がある。お互いもっとちゃんと気持ちを口にしよう」
彼の気持ちは本当によく分からない。私の事を好きだと言ったり、好きではないと言ったり散々混乱させられた。子供の話をしただけで、子作りをしようとしてくるのも意味不明。
「友達は難しい。きらりと結婚して子供が欲しい」
「ええっ? それは無理だよ」
唐突な彼の言葉に驚くしかない。林太郎に惹かれたり、ヤキモチ妬いたりもした。それでも、あまりに彼の言動ややっている事がぶっ飛んでいて結婚なんて考えられなない。そもそも、彼が結婚なんて言っているのは雄也さんの影響に見える。実際は彼自身も結婚のイメージなんて湧いてなさそうだ。
20代半ばで女は結婚を意識しても、大抵の男はまだまだ遊びたいと考える。
雅紀との14年の恋愛が最悪な形で終わった今、林太郎のように気分屋の男と恋愛する気はない。
雄也さんは年齢的にも結婚を本気で考えている感じがして、気まぐれではないと分かるから安心。
「別に俺の気持ちを言えって言ったから言っただけ」
林太郎が空いたワイングラスにまたワインを注ぎ出す。このワインおそらくアルコール度数がそこそこ高い。既に一杯でクラクラしてるのに、注がれてしまったワインを飲むしかない。
「ふうっ」
二杯飲んだら、既に顔が熱い。
彼がまた空になったワイングラスにワインを注ごうとするのを手で制した。
「ちょっと待って、もう無理」
「でも、きらりにもっと正直になって欲しいから」
「いや、私。酔うとペラペラ喋るタイプじゃなくて寝ちゃうタイプなの」
ワインに自白剤でも入ってない限り、酔って本音をペラペラ話し出したりはしない。ただ、睡魔に襲われる。そして、林太郎はかなり酒に強そうだ。全く余裕で水のようにガブガブワインを飲んでいる。
私はボンヤリとした頭で、母に自分は酔わないのに人を酔わせてくる男には気をつけろと言われたのを思い出していた。
「とにかく、飲んで。きっと、きらりの身体は心より正直だよ」
「えっ?」
私はこの時になって、林太郎が私にガンガンワインを注いでいる理由が分かった。
(こいつ酔った勢いで、ヤッてしまおうとしてる!?)
「わ、私、今日はもう疲れたから寝るね。バイバイ。それから、絶対林太郎とは友達以上にはならないから! 子供の思い付きには付き合ってられません!」
私はそう言い捨てると自分の部屋に足早に戻った。私はかなり危険な男と同居していたようだ。