私たちの結婚式での『フルーティーズ』の期間限定の再結成は話題になった。
今、思えばあそこで三人娘に止めてもらえて正解だった。
現役と変わらない溌剌としたパフォーマンスで『フルーティーズ』の価値を落とさなかった三人。
あの状態の私が加わったら、質は間違いなく落ちていただろう。
下手したら大事故にもなりかねなかった。
マリアさんに関して被害届を出すことはしないものの、今、彼女は精神病棟にいる。
林太郎と義父が抵抗する彼女を説得したらしい。
一度は芸能界のトップに君臨したMARIA。
私にとって彼女が義母というより、芸能人。
そして『果物屋』の社長としては『フルーティーズ』の子たちのこれからを考えさせられた。
今、一時帰国している桃香はアイドルからパティシエへのセカンドキャリアをうまく築けている。
苺は、シンガーソングライターになり芸能人として成功しているが、倉橋カイトのスキャンダルで全てを失うところだった。
りんごは大学生活とタレントを両立していて、今の生活に満足しているらしい。
蓮を寝かせつけて、目を瞑りベッドに横たわっていると急に重みを感じた。
「林太郎? おかえり」
「きらり、俺、この一週間分の仕事全部終わらせてきた。だから、二人目作ろ?」
「はい?」
最近、彼は年下の武器を使い可愛くおねだりするのが得意だ。
確かに俺様でこられるよりは効き目がある。
でも、正直、腹の傷もまだ少し痛むし仕事の事で頭がいっぱいでそんな気にはならない。
しかも彼は一週間休みを取ったと言った。
私は新婚合宿の体力勝負の交わりを思い出す。
「二人目は、もう少し計画立ててからにしない?」
林太郎は少しムッとした。
「また、延期しようとしている。さては、俺に生活感を感じ始めて、男として見れなくなってるだろう」
全く明後日の方向の事を指摘されて私は黙りこくるしかない。
しかしながら、彼の母に刺された傷が疼くからまだ無理とは言いずらい。
「大丈夫、それについての対策はすでに練ってあるんだ」
「そうか、それは良かった」
私は再び目を瞑りこのままこの話を流してしまおうとした。
「やっぱりさ、結婚してもできる限りずっと恋人みたいにいたいじゃん? トキメキと非日常って大事だよな」
「⋯⋯そうだね」
私は彼への感情は恋から既に愛に変わっていた。
てっきり、林太郎もそうだと思っていたが、彼はまだ恋していたようだ。
「蓮がいると、どうしてもパパとママになっちゃうんだよな」
「⋯⋯うん」
正直、もう寝たいがまだ彼の語りは続いていた。
「パパとママになって何が悪いの。それが普通」と言いたいが、「なんで俺が普通に合わせるの?」と返ってくるとわかっているので会話を終了させる為にも適当に流す。
「蓮を預けて二人で旅行に行きたくない? 新婚旅行の時みたいにさ」
「⋯⋯それもいいかもね」
旅行をするなら蓮も一緒が良い。くるくる変わる表情を見ているだけで癒される。
だけれども、反論すると話が続いてしまうので適当に話を合わす。
「どこ行きたい? リクエストはある?」
「ピラミッドとか?」
私は頭に浮かんだ世界遺産を言っただけだった。
私は次の日、前夜適当に相槌をうち思いつきで発言したことを後悔することになる。
「きらり、朝イチでお義母さんに蓮を預けて来たから」
「何で?」
「二人でエジプト旅行に行くからだろ。朝食は飛行機の中で食べよ」
私の母は人懐こく頼ってくる林太郎を可愛いと言っていた。
自分の母親のことで悩んだだろう、彼が私の母と関係を築けているのは嬉しい。
それにしても、急な申し出を母も受け過ぎだ。
「えっと、私も仕事があるんだけど」
「大丈夫! 俺がオンラインでフォローするから、きらりは俺に集中して!」
私の頬を包むと軽くキスをして、連行する彼。
(できる限りずっと恋人でいたいか⋯⋯)
私は家族愛に変わってしまった気持ちが恋にまた変わるのか、少し実験してみたくなった。