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第20話:莉乃と僕の付き合ってた頃


【潤side】


先に帰ってしまった2人を吉田さんは見つめていた。


「話せなかった……」


吉田さんとアイツが話すのを莉乃は止めた。

抱きついて私の彼氏、だなんて言っていたがおそらくあれはアイツを助けるためのものだろう。


「莉乃ちゃんは……賢ちゃんのことも好きなのかな……」


きっと吉田さんは気付いてないと思うけど。

鈍感な彼女は放っておいて、莉乃は真剣に僕に向き合ってもらうため作戦に出たようだった。


まあ、本当にそれだけかは分からないけど。

お互いのいいところと悪いところ。


僕たちはそんなに出なかった。

でも向こうは……。


「よくあんなに言えたよな」

「え?何、有川くん?」


僕がボソっとつぶやいた言葉に吉田さんは反応した。


「別に何も」


教えてはあげないけれど。

帰ろうかな、そう思って視線をフェンスから手を離した時、吉田さんは言った。


「あの……さ!有川くんはどうして莉乃ちゃんの告白受け入れたの?」


さっきの話か……。

僕は莉乃と付き合っていた時の話をしたことがなかった。


「別に」


言うのもめんどくさいからそうやって誤魔化そうとしていたら彼女腹さらに続ける。


「有川くん……興味ない人にはちゃんと言うタイプの人でしょう?」「…………」


「私と初めて会った時も嫌いって言われた!キミと一緒にカップルするつもりないってはっきり言われたよ!……だから、どうして莉乃ちゃんはあんな風に言ったんだろうって気になったの。中途半端、なんて一番有川くんがしなそうなのに」


僕らはお互いのいいところ、悪いところを言う時、大したものが出なかった。

だからきっとお互いのことをよく分かってないんだと思った。


けど……そうでもなかったみたいだ。


「莉乃ちゃんのこと、本当は少し気になってたんだよね?恋愛に向いてないからって理由だけで別れたんじゃないよね?」


まさか鈍感な吉田さんからそんな言葉が出てくるなんて思わなかった。

きっと誰も知らないだろう僕の気持ち。


だって誰にも伝えてないから気付くはずもない。


「教えてほしい……私、もっと有川くんのこと知りたいの」

「僕は教えるつもりなんでないんだけれど」


そう答えたのに、彼女は屋上の床に座り僕の話を聞こうとした。


教えるなんて言ってないのに、もう聞く気満タンじゃないか。

最近、彼女は少し強引にいった方がうまく進むって気付いたらしい。


それから吉田さんは割と図々しくなった。

あながち間違いじゃないけど、なんかシャクだな。


まぁいいけど。


「あの時は……めんどくさいなって感情もあったけど、何度も何度も諦めず気持ちを伝えてくる彼女に、少しだけ心が動いたんだよ」


僕は過去の話をポツリ、ポツリとはなし始めた。

莉乃が告白してきたのは、僕と莉乃が一度も話したことがない時だった。


最初告白された時は、この人誰だっけ?

くらいにしか思わなかった。


当然付き合えるわけもなく、僕はすぐにお断りしたんだけど、莉乃が諦めることはなかった。


毎日僕の元にやってきて、一生懸命アピールして自分は何が出来る!なんていい出したり、自分と付き合うメリットを説明してきたり、アホなのかな?とか思ったけど、それは僕の性格を聞いてアピールしてきたのだと知った。


変だし、好きにはならないけど不思議な子。

そんな風に莉乃へのイメージが変わっていって、それから一緒に過ごす時間も増えていった。


「めんどくさい」とか、「ここに来ないでくれる?」とかいいつちあもその時間をそれなりに楽しんでいる自分もいた。


少し肌寒い中、屋上に座り離す僕ら。

そういや、あの時もこのくらい寒かったけっか。


「それで、ちょっと経った時見たんだよね。莉乃が女子に囲まれて暴言吐かれてるところ」


話を聞いていたら原因は僕だった。

僕に言い寄ることを、気に食わない女子たちが集団になって莉乃を囲んでいた。


『あんたさ、ウザいのよ!有川くんに付き纏って!有川くんが迷惑してるって気づかない!?』


『本当、どっか行けよお前』


ドンっと突き飛ばされて莉乃。


複数人から敵意を向けられているのに、莉乃は泣いたりしなかった。


『ふん、羨ましいわけ?自分じゃ話しかけにもいけないからって僻んでんじゃないわよ!』


『な、なに……コイツ!』


『あたしはあたしの意思で有川くんにアピールしてるの!好きな気持ちを伝えることの何が悪いの!?』


「あんなに女子に囲まれても、泣きもせず好きな気持ちを伝えることの何が悪いの!って言ってるのが単純にすごいと思ったんだよね。あんな目に合うならやめればいいのに。僕も莉乃の告白をずっと断ってるし、好きでいることのメリットはないじゃん。なのにあんなに堂々と言うから変なのってさ」


不思議と過去のことを思い出してしまう。

莉乃は僕が見た中で一番強い女子だった。


「その日の放課後もさ、何ごとも無かったかのように僕のところに来たんだよ。責められたことを武器にして同情を誘うでもなく、助けてほしいと言うんでもなく、まるで何もなかったかのように告白してきた」


これが莉乃なんだと思った。

彼女の強さとまっすぐさなんだと。


「その時さ、付き合うことを了承したのは」

「そうだったんだ……」


ずっと黙って話を聞いていた吉田さんはやっと口を開いた。


「別にその時に好きになったわけじゃない。ただ付き合ってもいいかもって思ったのはたしかだったんだ」


気持ちの変化は確かにあった。

彼女に対するわずかな気持ちも。


「でも、やっぱり僕に恋愛は向いてないと思った」


その言葉を言った時、吉田さんはこくんっと優しく頷いた。


「好きって気持ちを言ってほしい莉乃と、その気持ちがまだ分かってない僕はどうやってもうまく行かない」


遠くを見て考える僕。

そこで言葉をつまらせると、吉田さんは言った。


「それで……どう思ったの?」


普通の人なら僕は恋愛は向かないから、別れたんだって解釈するだろう。

でも吉田さんは違かった。


僕がその時どう思ったのか。


彼女はそこが気になるのか……。


「僕から気持ちを必死に聞き出そうとしている莉乃が可哀そうだと思った」


可哀想だという言い方はおかしいかもしれないけど、飾らないで言うとそういう言葉になる。


「僕は莉乃を好きになれないのに、一生懸命その言葉を聞こうとする。自分よりももっといい人に時間を使った方がいいと思った。もっとしっかり気持ちを表現出来る人に」


僕がそう言うと彼女は真剣な表情で言った。


「それ……すごく大切な理由だよ。ちゃんと伝えてあげればきっとこんなことにならなかったと思う」


そういうものか。

結果は変わらない。


僕は莉乃を好きになれなかったんだから。


「その言葉をね、好きな人に伝えられるだけで自分は大事にされてたんだって気持ちが救われるの」


吉田さんは手を重ねながら穏やかな表情をして言う。


「きっと……莉乃ちゃんも新たなスタートが切れると思うの」


また始まった。


吉田さんの得意なお伽話。

でも今日は少しくらいなら中断しないで聞いてやってもいいかと思った。


「大事な人ってさ、自分以上に大切になってほしいって思うでしょ?本当は自分の望むようにいてほしいって思うけど、けっきょくは相手が一番大事。自分のことなんて簡単に犠牲に出来るんだよ」


そんな人ばっかりだとは限らないけどね。


本当に平和志向な脳内だ。

ただ、彼女は自分のことには鈍感なクセに変なところで気付くことがある。


「でもさ……やっぱり有川くんは優しい人だね」


笑顔でそんなことを言う彼女。


「そう思う意味が分からない」


彼女の思考は全く理解が出来ないけれど……。


「そこ、段差、こけるよ?」

「きゃあ……っ」


──ドテンー!


「ほらみろ」


彼女の行動は理解出来るようになった。


最近では……転んだりしても、一人で立ち上がり自信満々な顔を僕に見せてくる。


「泣かないよ?」

「当たり前だろ、子どもじゃないんだから」


そんなんで泣かれたらたまったもんじゃない。

僕が泣くヤツは嫌いと言ってから泣かないようにしているようだった。


本当、アホだなって思うけど……まぁ前ほどは……いいか。


「ん?私の顔に何かついてる?」


ちらりと見た僕に彼女はたずねる。


「昼食べたおにぎりのゴマ、口に付いてる」

「へ……っ?やだ、恥ずかしい……!!」


バタバタと慌てる吉田さん。


「だから暴れるとこけるって……」


言ってるだろ、って言おうと思ったら、彼女が傾いたから僕は慌てて彼女を支えた。


「……っあ、ぶなか……」

「学習能力ないの?サル以下なの?」


ずいっと顔を近づければ、そういうのに慣れていない彼女は顔を赤くする。


「ご、ごめんなさい……」


はあっといつものようにため息をつき彼女を離す。

すると、素直な笑顔が向けられた。


「ありがとう」


まるで子どもみたいだ。


その笑顔には答えずに「帰るよ」とだけ言うと、彼女はさらに顔を明るくさせて元気に返事をした──。



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