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第21話:初めての告白

 【未玖side】


みんなで集まってから3日が経った。

私たちがそれぞれのパートナーを入れ替えてから、もう1カ月半が経っていた。


「約束の時間はあと半分……」


これで何かが変わるんだろうか。


「吉田さん、僕に荷物持たせてぼーっとしないでくれる?」

「あ、ごめん……!」


有川くんとは少し仲良くなれた気がするけれど、賢ちゃんとは逆に気まずくなってしまってばかりだ。


『美玖、最低だな……』


あの時から1度も口を聞いてない。


賢ちゃん……まだ怒ってるのかなあ。


「そこ、段差」

「あっ、ありがとう……!」


有川くん、最近私の次の動きを予想して注意してくれてる!?


有川くんは彼が過去の話をした時から、私と一緒にいる時間を受け入れてくれている気がする。

きっと莉乃ちゃんとしっかり向き合うって決めたんだと思う。


私も……賢ちゃんとしっかり話して賢ちゃん離れしないと。

昇降口を出て、有川くんと校門に向かって歩く。


すると。


「未玖ちゃ~ん、また明日な~!」


ふわっとした茶髪の御堂順平くんが手を振ってきた。


「あ、バイバイ……!」


慣れない手で横に振ると彼は笑顔になる。


「誰、あれ?」


しかし有川くんは眉をひそめて言った。


「あ、えっとね、お友達……!最近よく話しかけてくれて一緒にいるんだ」


クラスで1人でいる時、急に話しかけられて、最初はビックリしたけど人柄がいい彼に私もすごく話しやすいなって思った。


実際クラスには友達がいないし、一人で移動するのが寂しかったんだけど、今は彼がいてくれる。


「あれが友達?」


しかし有川くんは何かが気に入らなかったらしい。


「やめなよ、胡散臭そうだし、またロクなことが起こらないよ」


有川くんは彼のことを否定した。


「あのね、見た目は少し派手だけど、すごくいい人なんだよ優しくてよく笑って……」

「やめた方がいい」


弁解しようとしても、有川くんはそれの一点張り。

きっと何もしなくても色んな人が寄ってくる有川くんには分からない。こうやって相手から来てくれる嬉しさが。


御堂くんははじめて私に声をかけてくれた人だもん。


仲良くなりたいの。


「私は大丈夫だから」

「あっそ、キミが僕の忠告を聞く気がないならそれでいいけど」


あまりいい雰囲気ではないまま、私の家の前までついてしまった。

そして、有川くんは到着するなり「じゃあ」と言ってすぐに帰ってしまった。


「あ、ありがとう……!」


そう言っても彼は振り返らない。

御堂くんの話……そんなに悪かったかな……。


次の日──。

朝学校に行くと、さっそく御堂くんが話しかけて来た。


「未玖ちゃん~昨日のさ、テレビみた?」


おしゃべりな御堂くん。

こんな友達がいたら、毎日本当に楽しいだろうなって思う。


「うん、お笑いがやってたよね!私も見てたよ」

「やっぱり?俺と美玖ちゃん、すっげぇ話し合うじゃん!」


御堂くんにそう言われ、私は嬉しくなった。

いつも友達が出来ても、仲良くしていくうちにみんなが離れていく。


『なんかさ、美玖とは話し合わないって言うか……』

『わかる。何考えてるか分からないよね〜!』


友達はいつも私のこと、そんな風に話してた。


だからしっかり伝えないと!


「御堂くんと一緒にいるとすごく楽しいよ!」


こういうことはしっかり伝える。

もう失敗したくないから。


そう思って言葉にすると、彼は顔を赤らめて言った。


「すっげぇ嬉しい……俺さ、未玖ちゃんと話したいってずっと思ってたからさ。でも幼馴染がいて近付けなかったし」


賢ちゃんのことかな?


「本当はもっと一緒にいたいんだよね。放課後とかも。なあ放課後いつも一緒にいるヤツって美玖ちゃんの今の彼氏?」


御堂くんは、大切な友達。

友達にだったら有川くんとの関係を言ってもいいのかなって思ったけど、それはまだ言わないでおこうと思った。


「違うよ、有川くんとはただ訳があって一緒にいるの」

「マジか~良かった~!!じゃあさ放課後、俺と一緒に帰ろうよ!」


御堂くんはぱあっと目を輝かせて言ってくれる。

嬉しいけれど、有川くんの顔がフラッシュバックする。


「えっと……それは……」

「彼氏じゃないなら、わざわざ一緒に帰んなくてもよくね?今日は俺と一緒に帰ろっ」


急に強引になった御堂くんに焦りながらも、確かに友達なら一緒に帰ったりするよね。と自分の中で問いかけた。

それに……いつも一緒にいたら、有川くんに迷惑かもしれないし……。


なんて考えたら、御堂くんの誘いを断ることが出来なかった。


「決まりな、あいつに言っといて?」


……どうしよう。

でも別に有川くんとは一緒に帰ることを約束しているわけじゃない。


今日一緒に帰るだけならいいよね?


次の日は断ろう。

私はさっそく昼休みになると、それを伝えに非常階段に向かった。


有川くんの後ろに立って深呼吸する。

そしたらまだ何も話してないのに彼は「なに、吉田さん」と聞いてきた。


なんて私がいるって分かったの?エスパー?


……じゃなくって!

のんきな考えを振り払い、思いきって伝える。


「あ、あのね……今日だけ、今日だけ御堂くんと一緒に帰ることになりました」

「……あっそ」


しかし、有川くんの返事は素っ気ないものだった。


そ、そうなるよね。

別に有川くんは私と帰りたいわけじゃないし……。


「ごめんね」


それでも一応謝ると、彼は私に視線を向けることなく言った。


「別にキミと帰ろうが、帰らなかろうがどうでもいいけど。約束してるわけじゃないし」


で、ですよね……。


「でも知らないから。僕、忠告はしたんだから、キミに何があっても守らないよ?」


守る……?


「大丈夫だよ、友達とただ一緒に帰るだけだし、御堂くんも男の子だから、何か危ないことがあったらきっと……いだ……っ!」


有川くんに迷惑はかけないよって伝えようと思ったら、彼は無表情で私のおでこにデコピンをしてきた。


「鈍感」


……え?


「鈍感ちゃんには構ってられない」


有川くんは、それだけ言って教室に帰ってしまった。


「痛……」


私のおでこはジクジクと痛んでいた。


そして放課後──。


「未玖ちゃん帰ろうぜ~!」

「うん」


私は御堂くんと一緒に教室を出た。

校門を出て、家の方に歩いていると御堂くんは言う。


「せっかくだしさ、どこか寄って帰らない?」

「うん!!」


初めて友達と、寄り道。

いつもは賢ちゃんと一緒に放課後帰っていたから、友達と過ごすってことがなくて、しかも友達もいないから……こういうの憧れてた。


「あそこのお店、タピオカ美味しいって有名だから」

「行きたい!」


いいなぁ。こういうの。

私も高校生になったらこういう生活が送りたいって思ってたのになかなか叶わなかったなぁ……。


私たちはタピオカを頼むと、近くのベンチに座った。


「うわっ、これすごく美味しい!!」

「だろ?俺のおススメだから」


ニコッと笑う御堂くんに言う。


「ありがとう!こういうの初めてだからすごく嬉しい」


すると、御堂くんは少し声を落として言った。


「あのさ、前から気になってたけど、なんで未玖ちゃん学校で1人なの?」

「え、あ……友達……出来なくて」


クラスが同じな彼はいつも私が一人でいることを知っている。


「こんなにいい子なのに友達出来ないってあり得ないよ」

「いい子じゃないよ、勇気を持って話しかけようとはするんだけど……みんな逃げて行っちゃって」


何回も頑張ろうと思って、自分から話しかけに行った。

だけど周りは受け入れてくれなくて……。


「それってウワサのせい?」

「あー……っと、分からないけど」


幼なじみの賢ちゃんを色目使って独占して、今度は有川くん。

私の行動とか仕草がぶりっこに見えるみたいで、卑怯なんだって。


トイレに入っている時に聞こえてしまった。

そんなウワサが周るとみんなは関わりたくないと思う。


そんなの当然だ。


「関わってみたら全然違うって気付くのに、みんなもったいないな」


御堂くんのつぶやいた言葉は単純に嬉しかった。


「御堂くんがそう思ってくれるだけで十分だよ」


一人でも自分を認めてくれる人がいるだけで、こんなに嬉しいんだって気がついたからもう、欲張るのはやめようって思う。


あれ、でも1人ではないか。

賢ちゃんも分かってくれているし、それに有川くんも……。


いや、有川くんは違うか。私とは性格が合わないってずっと言ってるもんね!

なんだか、しんみりしちゃったな。


その雰囲気を変えようと明るい話題を出そうとした時。


──ぎゅう。


……え?


私の手は御堂くんによって繋がれた。


「御堂くん?」

「俺がいるし、何かあったら俺に頼ればいいじゃん。俺だったら絶対未玖ちゃんのこと守るよ」


「あ、ありがとう……!」


友達ってこんなことまでしてくれるのかな。

戸惑いながらもお礼を言うと彼は語りだした。


「ずっとさ、見てたんだ。1年生の頃からいいなって思ってて……話そうと思ったんだけど、アイツが隣にいたから、出来なくてやっとこうやって話せて本当に嬉しいんだ。俺さ……」


繋がれた手の力が強くなる。

なんか、違うかも。


これは絶対に友達の雰囲気じゃないって気がついた。


「未玖ちゃんのこと……」

「ちょっと待って!あの、私は御堂くん、すごく大切な友達で……」


「俺はそんな風に思ってないよ。未玖ちゃんもそうだから楽しいとか、俺と一緒にいれて嬉しいとか言ったんだろ?」


違う、違うのに。

御堂くんは聞いてくれなくて、私の手を強引に引っ張った。


「きゃ……っ」


御堂くんの胸の中に包まれる。

それは胸の温かさなんて全然なくて、嫌悪感しか抱かなかった。


「俺と付き合ってほしい」

「や、離して……!」


思いっきり抵抗するけど、私の力は弱くて彼の胸に収まるまま。


やだ、気持ちわるい。


そう思った時。


「ほら、みろ。だから言ったじゃないか」


その耳に聞き覚えのある声が届いた。

声のする方を振り返ってみると、そこにいるのは……。


有川……くん?


ぱっと顔をあげると、確かに彼で私の心は無意識に安心した。


「御堂くんだっけ?離しなよ、嫌がってるのに抱きしめて告白とか相当ダサいよ?」


有川くんの言葉に彼は、かっと顔を赤くしてキレた。


「あ?なんだよお前、やんのか?」

「いいね、面白そうだ」


やんちゃそうな彼と、勉強ばかりしている有川くん。

勝敗は明らかについている。


ケンカなんてしたら有川くん負けちゃうよ……っ。


どうしようと焦っていると、御堂くんは余裕が出て来たのか、有川くんを挑発した。


「お前バカだな~、つーか未玖ちゃんお前と付き合ってないって言ってたけど、ここに来ちゃうお前も相当ダサいんじゃねーの?」

「そうだね、僕も自分が今一番ダサい行動してるって思ってるよ。でもいいじゃん守るために来たんだし」


彼がそう言った瞬間、御堂くんは殴るために手を振りかざした。


その手のスピードは速くて……。


絶対によけられない!


私はぎゅっと目をつぶった。


いやだ、有川くん……。

しかし、次に目を開けた時、立場が逆になっていた。


「痛い、痛いってば!!」


え……有川くんが彼の腕を掴んでる?


「ま、ダサいって言っても、キミほどじゃないさ、守れもしないクセに俺が守るとかそんなこと言わないしね」


有川くん……!?


「どうする?僕は平和主義だからなるだけ野暮なことはしたくないんだけど……」


ぎろっと睨みつける有川くん。

本当に平和主義なのかは分からなかったけど……。


「わ、分かった……!もうしないから!!近づかないから!」


彼の脅しは強烈だったみたいで、御堂くんは降参するとでもいうように両手をあげた。

そして有川くんが手を話したのを確認すると、怯えながら逃げていった。


もう近付かない……か。

そこまで言わなくても……。


友達がまたいなくなってしまう寂しさを感じていると、彼はこっちに向き直って言った。


「あんな目にあってもまだ友達でいたいとか思ってるんじゃないだろうね」

「へっ、あ、いや!思ってません!」


見破られた……っ!

やっぱり有川くんは心が読めるのかもしれない。


「僕も普通のヤツならあそこまでしないけど、あいつ悪い情報しか聞かないから友達にするにもやめておいた方がいいって言ったんだよ」


えっ、そうだったの!?


知らなかった……。


有川くんは闇雲に否定していたわけじゃないんだ。


「ちゃんと人の忠告は聞きましょうね?」

「はい……」


一度は有川くんの忠告を聞かなかったんだから、今回はしっかり聞かなくちゃ。


「ごめんね……けっきょく迷惑かけちゃって」

「本当だよね、キミが側にいるようになってから、僕はめんどくさいことに巻き込まれてばっかりだ」


うう。反論することが出来ない。

全くその通りだもん。


「で、でもさ……有川くんが偶然ここにいてくれて良かったよ。じゃなきゃ今頃……」

「偶然ね?」


有川くんが意味深に言う。


ま、待って……有川くんが偶然このタピオカ屋さんの前を通ることってある?


周りに本屋さんがあるわけでもないし、ショッピングモールも、コンビニもない。


あるのは有川くんの家とは真逆の住宅街だけで……。


「もしかして、不安になって、付いて来てくれたってこと?」


御堂くんが、俺が守るって言ったことも知っていたし、偶然通りかかった訳じゃない……?


「さあね」


しかし有川くんは教えてくれなかった。


「言ったろ、僕も相当ダサいことしてるって」


え、それって、もしかして……?


有川くんにもう一度聞こうと思ったら、彼はタピオカ屋さんの前に並び始めた。


「定番のやつ1つ、彼女が払いますので」

「は、はい!もちろんです!払います……!」


ビシっと背筋を伸ばしてお金を払うと有川くんは言った。


「550円で毎回守ってもらえるんだ、高くないだろ?」

「う、うん……!」


タピオカ代の550円。

それで有川くんが助けてくれるんだ。確かに安いものだね。


「ありがとうございます」


お礼を言った私はその時、気付かなかった。

彼が〝毎回”と言ってくれていたことに──。




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