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第22話:腐れ縁

【莉乃side】


「莉乃ち~ん、彼女と別れた~慰めて」

「私そういうのじゃないって言ってるでしょ?」


朝から珍しく私のクラスにやってきたのは、隣のクラスの水沢大将だった。

彼は昔からの友人でモデル活動をする時の事務所が一緒で仲良くなった。


最近は全然あってなかったけど。


昔から元気有り余ってて、うるさくてぶんぶんと私の肩を振って頼ってくるけど本当に朝からめんどくさい……。


「だってよ~莉乃も別れたんだろ?ちょうどよくね?」


どこから聞きつけたのかって、まあ……ウワサだろうけど潤と別れたことを知った大将。


「俺も別れたから慰め合おうぜ~」


なんてのんきにそんなことを言っていた。


「てか、あんた彼女と長かったんじゃないの?なんで別れたのよ」

「んー?フラれたって感じ?」


フラれた割に、けろっとしながら言う大将。


「うるさすぎて嫌われたんじゃない?」


そうやってからかうと、彼も負けじと私をけなしてきた。


「じゃあお前もその理由でフラれただろ?」


ムカつく……。


お互いの性格をよく知ってるため、会えば的確なことを言われて言い合いばっかりだったけど、なんだかこの会話も久しぶりな気がする。


「なあ、莉乃もモデル活動復帰しようぜ」

「いやよ」


私は今、モデルの活動を休止していた。


みんなの前に出て取り繕った自分を見せるのが私にはあっていなくて、やめたいと雑誌の編集長に言ったんだ。


でももう少し考えてみてほしいと言われ、私は活動休止という形をとることにした。


今もいつ復帰してもいいように一応体型維持はしてるんだけど、正直モデルに復帰するつもりはなかった。


大将とそんな話をして、笑っていると、私の教室に賢人がやってきた。


「莉乃~教科書貸してくんね?」


朝から賢人がうちの教室に来るなんて珍しい……。

そう思っていたら、賢人は国語の教科書を借りに来ただけだった。


「全く、しょうがないわね!汚さないでよね」

「わーってんよ。って……大将じゃん。何してんの?」


教科書を賢人に貸した後、賢人は大将を見るとそう言い放った。


「え、知り合い?」

「まぁちょっとしたな。つかお前らこそ仲いいの?」


大将がよって手をあげて挨拶する。


「仲いいってわけじゃないけど腐れ縁。小中高って一緒でモデル仲間なの」


私が淡々と答えると、大将は私の肩に寄りかかってきて言った。


「仲いいだろ~?本当お前、照れ屋なんだから」

「…………」


その言葉は無視するとして……まあ実際のところ、私と大将は小さい頃から一緒にいる仲なのよね。


昔はしょっちゅう一緒に遊んでたりしたから、同じ事務所に声をかけられた時も嬉しかったっけ?


でもお互い相手が出来たり、私がモデル活動をやめてからは、ぱったりそういうのもしなくなった。


だから今日話したのも久しぶりなんだよね。


「つか、俺はお前らの関係性聞きたいんだけど」


大将がそんなことを言い出す。

いや、賢人との関係を説明するのは難しすぎるでしょ!?


どう考えても他人に理解されるようなことでもないし……。


私が困っていると、賢人は言う。


「別に。なんだってよくね?」


賢人はそっけなく言い放った。


……何?あんまり仲良くないの?

それとも言いたくないだけ?


なんだかむっとして、不機嫌そうに見える賢人。


「じゃあな」


彼は話もそこそこにしてすぐに帰っていってしまった。

最初来た時は機嫌悪くなさそうだったのに。


「何、あんたたち仲悪いの?」

「いや?なんか機嫌悪かったな、賢人。前一緒にいた頃はすげー優しいやつだったんだけど」


またなんか嫌なことでもあったのかな?


「てか、お前らはなんで仲いいんだよ」

「それはまぁ……色々訳ありなのよ」


私が言葉を濁すと、大将はちょっと真剣な顔をして言った。


「付き合ってるわけじゃねぇよな?俺の莉乃ちゃんは、そんなチャラいことしねぇよな?」


「あんたのになった覚えはないし……まぁ本当に付き合ってるわけじゃないけどね」


賢人があんな嫌な顔したんだから、今は言わないでおいた方がいいだろう。

私の言葉に大将はなぜか嬉しそうな顔をした。


「やった~!これからはフラれたもの同士寂しい時はなぐさめてな?」


はあ……。

本当、フラれた仲間が欲しいんだろうけど、調子いい奴。


チャイムが鳴り、大将が戻っていくと私は教科書を出して授業の準備をした。

ちょっと、懐かしかったな……。


潤を好きになった頃はよく大将に相談してたっけ?


まぁいっつも「やめとけ」って止められたんだけど。

でも私が奇跡的に付き合えて大将に報告したら、良かったなって言ってくれたんだよね。案外いいところはあるのよ。


その後すぐ大将にも彼女が出来て話す機会も減ったけど……元気そうで良かったわ。


今日は寝てしまうこともなく、授業を乗り切ると昼休みの時間になった。


「久しぶりに賢人のクラス行こうかな」


女子にイジメられ、呼び出されたあの日以来、賢人は私のクラスに来てくれるけど、今はだいぶおさまってきた。


ウワサぐらいなら全然気にしないしね。


教室を出て、賢人のクラスに向かおうとすると、廊下でばったり大将にあった。


「莉~乃」


大将が自分のクラスからひょこっと顔を出して呼んでくる。

そういえば、ここって大将のクラスか……。


「一緒に飯食おっ」


ビニールの袋を持って嬉しそうに誘ってくる大将。

ずっと彼女と食べてたから、一緒に食べる相手がいないのか。


「莉乃の好きなリンゴジュースも買ってきたぜ」


袋から出してニコって笑う彼を見る。

断りづらいけど、賢人と食べているから断らなくちゃ。


「えっとね……そのことなんだけど」


私が断ろうと口を開いた瞬間。


──グイー!


「莉乃は俺と一緒に飯食うからダメ」


後ろから勢いよく肩を引かれた。


聞きなれた声が聞こえてきて振り返る。

するとそこにいたのは、賢人であった。


賢人……?

学校で珍しく私の肩を抱く。


しかし、それを見た大将は眉をひそめた。


「は?何、それ?」


その行動を見た大将はケンカを売られたと思ったのか、賢人のことを睨みつける。


ちょっと……なんでこんなにバチバチしてるのよ。


賢人も負けじと睨み返して言う。


「リンゴジュースなら俺も買ってきたし、つーか、コイツの好きなリンゴジュース、30%じゃねーかんな。こっちの100%のヤツだから」


リンゴジュースのパーセント、なんで賢人知ってるの!?


「なっ、おジョーサマ?」


勝ち誇った顔でニヤと笑って聞いてくる賢人。

確かに、合ってるんだけど……お嬢様じゃないし!


大将を見るとすごい不機嫌な顔をしている。


「そーいうことだから。行くぞ莉乃」

「あ、おい!ちょっと待てよ!」


大将が後ろで声をかけるも、おかまいなしに賢人は私の手を引っ張って屋上まで進んでいった。


「ちょっと……どうしたの?なんか今日の賢人ヘンだけど」


屋上までつき、ようやく手を離した賢人は言った。


「別に……これやる」


ぽいっと、さっき言っていたリンゴ100%を手渡してくる。


「いつもこんなのくれないじゃん……」

「気分がのったんだよ」


ふいっと顔を逸らしながら、購買で買ったパンを食べ出す賢人。


私も仕方なくお弁当を開いた。


やっぱり大将のこと、好きじゃないのかな?


…………。


しばらく、沈黙で何も話さすに食べていると、彼は小さい声でつぶやいた。


「……仲良くね?」


え?


「大将。ボディータッチとか激しすぎだろ。莉乃にめっちゃベタベタ触ってたし、お前が有川以外に仲いい男子いると思わなかったんだけど」


もぐもぐと口を動かしながら、でもちょっと拗ねた口調で言う賢人。


……もしかしてふてくされてる?


「見えたんだよ、大将がリンゴジュース買ってるとこ。絶対莉乃のとこ行くんだろーなって思った。だから俺も急いで追いかけた」


そうだったの……!?


知らなかった。


「しかも……お前普通に断る気なかったただろ」

「断る気はあったけど……」


だって賢人と約束してるんだし……。

それよりも引っかかるのはさっきの言葉だ。


『見えたんだよ、大将がリンゴジュース買ってるとこ』


この言葉にいつもは買って来ないリンゴジュース。


もしかして……!


「だからリンゴジュース買ってきたの!?私が大将のところに行っちゃうの止めるために!?リンゴジュースで対抗しようと!?」


「……ば、違えーから!」


賢人の顔はみるみるうちに赤くなった。


「だって今自分で言ってたじゃん」

「違えーよ、別に……たまには買ってきてやってもいいかーって思っただけで、対抗してるわけでは……」


慌てている賢人が可愛い。

その言い訳無理があるんですけど。


「ふぅん?」


その顔は耳まで真っ赤になっていて、私はニヤニヤしながら彼を見ていた。なんか今日の賢人、可愛いかも。


すると、彼は小さくつぶやいた。


「……妬いたら、悪りぃかよ」


頭をかいて顔を隠す賢人。


「仮にせよ彼女なんだから、別にいいだろーが」

「全然いいよ~♪」


だって私もなんだか嬉しいし。

いつも見せない賢人の表情。その表情があの子に対してではなくて、私に対しての顔だったからすごく嬉しい。


「なあ。」

「え、何っ……?」


「まだ3カ月経ってねぇんだから側にいろよ……」


真剣な顔。

まっすぐな瞳で見つめられる。


──ドキン。


ちょっ、その顔は反則でしょ……。


なんだか胸が大きく音を立ててしまう。


──ドキ、ドキ、ドキ。


あれ、おかしいな。

ドキドキが止まらないや。


リズムよく音を立てる心臓は、今の私にはとても温かく感じた。




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