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第23話:幸せになるためには

【賢人side】


「なあ、大将ってなんで彼女と別れたのか知ってるか?」


大将と仲の良いダチの海斗。

俺は彼にそう尋ねた。


一年生の頃、俺と同じクラスで、もともと大将と面識があったのはコイツがいたからだった。


「あー大将な……。知ってるけど言っていいんかなー」


そんなわけありなのか?


「周りは大将がフラれたつってるけど違えーよな?」


これは俺の直感だけど、たぶん大将は彼女をフったんだと思う。


「今日の朝さ、アイツから言われてなんとなくピンと来たんだよな」

「なんて言われたの?」

「渡さねぇから、って言われた」


俺がそう言うと海斗は「あー」と言いながら頭をかいた。


「ま、お前の思ってる通りだと思うよ。莉乃ちゃんと一緒にいるから、触れない方がいいと思ってたけど……」


やっぱり大将は莉乃を狙ってたのか。


「莉乃が別れたのを知って別れたってことか?」

「そんな感じ。昔から相談はされてたんだけどさ莉乃ちゃん、有川しか見えてないの知ってたから付き合ったって聞いた時、大将も諦めて他の女と付き合ったらしいけど別れたって聞いたらな……火付いたんじゃね?」


大将の言動を見て全てが繋がった。


……そういうことか。

だからアイツは莉乃に対して近かったり俺にも睨んできたりしたんだな。


「つか、俺も大将からどういう関係なんだって聞かれてるんだけど?」


海斗は俺と大将に挟まれていて、まあ……なんとも気の毒だ。


「まぁ、そうだよな。別に俺のこと言ってもいいけど」


大将のことを聞いてしまったからには、こっちも言わなくちゃフェアじゃない。

でも……カップルを交換してるって聞いたらどう思うんだろうな。


「つかさ、賢人は莉乃ちゃんのことどう思ってんだよ?」


海斗の言葉に俺は考える。


「どうって別に……同じ気持ちを持った同士ってだけだろ」


「その割には固執してねぇ?大将のこと聞くのもそうだけどさ、ちょっと莉乃ちゃんに気があるんじゃねぇの?」


「んなことねぇよ」


協力して一緒にいたら情だって多少湧くだろ。大将は前から友達っていうのもあって気になってただけだし……。


海斗の言葉を否定して、席につく。


でも彼の言葉が頭から残って消えなかった。


俺は授業が始まってもそのことを考えていた。大将はずっと莉乃のことが好きだった。

でも莉乃はそのことに気づいてない。


気づいたら……何て返事をするんだろう。


相手にフリ向いて欲しい同士の俺たちが一緒にいるよりも、莉乃のこと、好きなヤツと一緒にいた方が幸せなんじゃないか。


昔、自分が莉乃に言った言葉を思い出した。


『お前はさ好きなやつのこと、こんなに一途に思える奴なんだからもっと思ってくれることを幸せだって思えるやつと付き合った方がいい』


莉乃のことを好きな大将だったらきっと愛されることに喜びを感じるはず。

それだったら……大将の恋を応援してやった方がいいのか?


気づけば授業も終わり、昼休みになっていた。


約束だしな……。

行かないと莉乃もうるせぇし、行くか。


モヤモヤとした気持ちのまま莉乃の教室に向かいのぞきこむと、やっぱり大将はいた。


「今日はちゃんとリンゴ100%だぜ?莉乃ちゃん」

「だから、別にそういうので釣られてるんじゃないんだってば!」


あきれた顔をする莉乃。


「だいたいなんなのよ~彼女と別れたからって私のところ来るとか都合よすぎ」


莉乃は相変わらず気づいてない。

大将はずっと莉乃が好きだったことに。


教室のドアからのぞき見していると、大将は真剣な顔をして言った。


「そうだよ。都合よくなるように行動したんだから当たり前だろ」

「え?」


真剣な表情になった大将を見てふとアイツは、莉乃がずっと好きだったことを言おうとしていることに気がついた。


たぶん、言う。

あいつは莉乃に言うだろう。


"好き"だって。


「……俺さ実はさ」


ここは引き返すべきだ。

莉乃だって有川にフラれて傷ついてる。


そんな中、大将みたいな側にいてくれる存在があった方がいいに決まってる。

そう思ったはずなのに……。


「莉乃!飯行こうぜ!」


気付けば俺は慌てて止めに入っていた。


「賢人!」


なにしてんだよ……俺。

なんで止めたんだよ。


明らかに邪魔をした。

自分がなぜか焦っていた。


「お昼いく?」


莉乃の言葉に我に返る俺。


「あ、ああ」


なんて情けない返事をすると。


「おい、ちょっと待てよ」


大将は俺の肩を掴み睨んできた。


「お前、今邪魔しようとしたよな。俺が大事なこと言うって知ってて入ってきただろ」


事実だから、何も言うことが出来ない。

しかし、黙っているとイラついたのか大将は俺の胸ぐらを掴んで言った。


「莉乃のこと、好きでもねーくせに邪魔しやがって……ムカつくんだよ!」


──ボコー!!

力強い拳が当たり、殴られたんだと知る。


「賢人!」


俺はその勢いで床につくように倒れこんだ。


痛てぇ……。

けど気づかれていたんなら、これくらいされても仕方ねぇと思う。


大将にとって俺は掻き乱す存在でしかないからな。


「賢人……っ、大丈夫?」


心配してかけつけてくる莉乃に大将は言う。


「莉乃、そんなヤツ庇うことねぇよ!コイツお前のこと好きでもねーのに一緒にいて優越感に浸ってんだ」


きっと朝話した話はさっそく海斗から大将に伝わったんだろう。


確かに、好きではねぇって言ったけど……そういうんじゃなくて。


莉乃はそういうのじゃなくて……。


「あたしが好きなの……!それだったら何も問題ないでしょ?」

「え?」


「好きだから賢人と一緒にいるの!それの何が問題なの?」


莉乃は突然、驚くことを言ってきた。


「相手が好きじゃなくたって一緒にいてくれるならそれでいい。それよりも私は、好きな人を傷つけられたことが今一番許せない。」


真剣に俺のために怒る莉乃。

コイツはいつも、一生懸命で人のために全力になれるヤツだった。


一緒にいるうちに、莉乃には幸せになって欲しいと心から思った。


お前の愛をしっかりと受け取ってくれて、その愛をもらえることが幸せだと思うヤツ……。


そいつと付き合った方が莉乃は幸せになれるんじゃないか。


「莉乃……悪りぃ。今俺、本当に邪魔したんだわ」


そう思ったら、俺は口を開いていた。


「ごめんな」


それだけを言って莉乃の差し出された手を取らず、一人で教室を出て行く俺。

……たぶん、俺の選択はこれで合っているんだと思う。


莉乃と大将が上手く行けばいい。

莉乃は今、過去の恋愛としっかり向き合ってる。


きっと、その気持ちを消化出来る日が来るはずだ。

だから、その後彼女を支えてやれる存在が必要なんだ。


けど……。


「なんだ、これ」


一人屋上にやってくると、胸がチクチク痛くなった。


意味分かんねぇ。

俺、莉乃に意外と依存してたりすんのかな。


それとも同じ仲間がいなくなってしまった寂しさか?


「なんて、どっちでもいいわ」


何だっていい。

今の俺はなぜか心に穴が開いてしまった気持ちになった。


パンを食べず、外を眺める。


今頃告白されてんのかな、とか告白されたら少なからず意識するんだろうなとか、それとももう付き合っちまうか、なんて俺の心はそんな思考で埋め尽くされていた。


「たった2ヶ月だけど、まぁいい思い出だったな」


俺が小さくつぶやいた時。


「賢人!!!」


ガチャンと音を立てて屋上のドアが開いた。


「勝手にどこ行ってんのよ!バカ!」

「は、ちょ……なんでお前ここに来てんだよ」


「なんでじゃないわよ、勝手なこと言って本当ムカつくんですけど」


なんで怒ってんだよ……。


「あのさ、大将のやつ……」

「聞いたわよ、全部。あの後、場所移動して聞いた。大将……ずっと私のことが好きだって」


やっぱり、告白されたんだな。


「ビックリはしたけど、誰かさんが逃げるせいで気になって素直に驚けなかったわよ」

「悪りぃ」


素直に謝ると.莉乃はバシっと俺を叩く。


「言ったでしょ、今は私あんたが好きなの。だから……大将と付き合うなんて言ったりしない」


まっすぐ見られる目に居心地が悪くなり、目を逸らした。

わかってる、莉乃のやつは"仮"のことを言ってるって。


「それに……もともと大将のことは友達としか見られないしね」

「そうなのか?」


「腐れ縁って言ったじゃん」


そっか……。

なんだそっか。


莉乃の言葉を聞くと、胸のチクチクも自然と収まっていく。


「はい、こっち向いて手当てするから……」


すると、莉乃は救急箱を持ってそう言った。


「それって……」

「そう、あの子が渡してくれたのよ。いきなりだったら、お礼だけ言って持ってきたけど……」


莉乃が手に持っていたのは未玖の消毒セットだった。


「見てたのかもね?殴られてた所」

「そっか……」


ーーその恋はワケあり。


それは絶対に忘れてはいけない事実。

そのワケあり恋の中で変わっていく気持ちがある。


「俺もこんな風に思うことがあるんだな……」


最後にどんな結末が待っているのか。

それは誰も知らない。


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