【潤side】
今、僕は世間で言うイケてる部類?(かは知らないが)男たちに囲まれている。
もちろん、そんな趣味は無いのだけれど、どうやら向こうはお怒りのようで、鋭い目付きで僕を睨んだ。
「テメェ、そろそろいい加減にしろよ」
全くを持って意味が分からない。
この集まって来た男子は僕に何の用があるというのか。
派手な格好をして、チャラチャラしたところをみると、頭が悪そうで……どう頑張っても好きにはなれないタイプだ。
非常階段は僕の唯一リラックス出来るところなのに。
「お前が、いるせいで俺は彼女にフラれたんだよ!」
「俺もだ!!ラブラブだったのにお前を好きになったとか言って別れようって言われたんだよ」
……はあ、またそれか。
最近というか昔から、自分の女が僕に惚れたとかで、変な因縁をつけられて困っていた。
確かに告白された気はするけれど、もう記憶にもないし、誰だかも分からない。
しかも。
「それ、自分が悪いんでしょ?」
一切僕は関係ない。
たいてい、こういう奴は相手にしないんだけど、一人じゃないから何かしてくる気なんだと思う。
ま、負ける気はしないけれど。
「で?キミらは僕に何がしたいわけ?」
とりあえず、手っとり早く終わらせようとそう尋ねると、相手はニヤリと笑って言った。
「殴りたいに決まってんだろ」
まあ、そうだろうな。
「幸せな俺の人生を壊したんだから、それなりの覚悟はしろよ」
人生って大げさだな。たかが恋愛ごときで。
しかもキミにの人生ってそんなかな価値があるものかな?
「てかさ、人のこと責めて来たけどそれ、そういう彼女選んだキミが悪いんじゃないの?」
好きな彼氏がいても、平気で僕に移り変わったりするわけだし。
「てめぇ……」
僕の淡々とした態度に相手はイラついたのか声を荒げて胸倉を掴んできた。
でも僕もこうなったら止まらない。
「それ2キミたちに全く魅力がないから、すぐ飽きられちゃうとかね?」
「いい加減にしろよ、テメェのすかした態度がムカつくって言ってんだよ」
大きく振りかぶる手。
そのスピードは僕には遅すぎて、簡単に避けられることを確信した。
しかし……。
「ダメ!!!」
突然の叫び声とともに入ってきたのは、よりにもよって吉田さんだった。
「おい……危な……」
──バシンー!!
彼女を退かすことが出来ずに、もろに男の拳をくらう彼女。
彼女の身は小さくて、簡単に少し先まで転がってしまった。
何してんだ!
慌ててかけつけて、近寄ると彼女の顔は痛々しく腫れあがっていた。
当然だ。男の拳をもろに食らったんだから。
どう声をかけていいか分からず、手を差し出す。
すると、彼女は顔をあげて言った。
「へへ……っ、有川くん……守れた」
──ドキ。
なんだ?
今、心臓が胸を打った。
よほど彼女のことを心配したのかもしれない。
さすがの僕だって男が女子にパンチを喰らわせたら焦るに決まってる。
全く、そういうところがイライラするんだ。
なんで、こんなことするんだよ。
人がケンカしている所に入っていって、守ろうとするなんて、どう考えても無謀だってすぐ分かる。
「なんだよ、女殴っちまったじゃねーか」
あいつらは僕らの所にやって来てまた、拳を構える準備をした。
「そいつもお前のこと好きなやつか?いーねー!モテる奴はそうやって守ってもらえてよ」
「そうだね。少なくてもお前らの彼女はこんなことしないだろうね。こうやって自分を犠牲にして僕を守るなんてバカなこと」
僕の言葉に男たちは笑った。
「可哀そうだな、あの子せっかくコイツの代わりに殴られたのに、バカ扱いとか。よかったらこっちくる?顔可愛いし、彼女にしてあげてもいいけど?」
吉田さんに差し出した手を僕は思いっきり掴みあげた。
「バカはお前らだよ」
「痛てぇ……!」
「気付かない?こうやって守ってあげたいのはヘンに賢い女より、バカな方だってこと」
僕はそう言うと、掴んでいた手を上にひねり上げた。
「痛てぇ、痛てぇよ、やめろってば……」
「つかお前さ、しょぼいスピードで殴ろうとしたんだから止められること出来ただろ。平気で女殴ってんじゃねーよ」
小さい声で、低くそう言ってやると相手はいつもの僕と違うことに驚いて声をあげた。
「ひいっ、悪かった!分かったよ、もういいから」
「僕がよくないんだよね。なんかさ、珍しくイライラしてるんだ」
ジタバタしている男子を睨みぐっと引き寄せる。
そして、僕はそいつを思いっきり殴った。
──ドカー!
「…………っ」
相手から声にならない声が出され床に転がると、それを見て少しは満足出来た。
「これ、吉田さん殴った分ね。次、キミたちも相手してやってもいいけど、こうなるって覚悟しておいた方がいいよ」
僕の睨みは、効果てきめんだったようで、後の2人は何もせずに逃げていった。
殴られた男も頬を抑えながら情けない姿で帰っていく。
僕は彼女の方に向き直った。
きっとかなり痛いだろう。
冷やすのが先だったかもしれない。
感情的に行動してしまったことを悔やみつつ、彼女を抱き抱えると、すぐに保健室に向かった。
ラッキーだったことに、教師は会議中で中にいなかった。
いたら事情を説明しなければならない。
水で冷やしてハンカチをあて、その間に消毒液で消毒をする。
彼女の頬は何度見ても痛々しかった。
「痛い?」
「少しだけ……でもね、泣かなかったよ」
心配させないように笑顔を作っているのか、彼女のそういうところがやっぱり理解出来ない。
「泣いてもいいよ」
「どうして?」
「痛い時は無理して我慢しなくていい」
僕が言う、泣くやつがウザいのは涙を武器にしてるから。
自分自身が武器になって飛び込んでくるんだ。そんな人にまで泣くなって言うほど鬼じゃない。
「なんだ、そうだったんだ」
「なんで守ったの……」
「分からないけど、体が飛び出したの。もしかしたら有川くんがやられちゃうって思って思わずね」
シップを剥がして、彼女に張る。
すると彼女は目をパチっと瞬きさせた。
「僕一人なら避けられた」
「みたい……だね」
「そんな余計なことしなくていい」
「ごめんなさい……」
分かりやすくうつむく吉田さん。
「でも……」
僕は吉田さんの顔をあげさせた。
「守れなくてごめん」
「え?」
「吉田さんが吹き飛ばされた時、僕が殴られていればよかったって思った。あんな挑発しないですぐに殴られていればキミは入って来たとしても殴られなかったのかなって……」
あの時、よく分からない僕の感情が爆発したんだ。
彼女を殴られた時の怒り。
自分が守ってやれなかったことの悔しさ。
守ろうと思ったと聞いて、温かくなった心の気持ち。
僕には全く分からない感情が少しずつ生まれていた。
「いくら鈍感で無防備だからって危ないことはすんなよ……」
僕が頬に手を伸ばしてそう言った時、吉田さんの目から涙が零れた。
「え、」
「あ……いや……っごめんねっ!なんか嬉しくて気持ちがいっぱいになっちゃって……気づいたら涙が出たというか……痛いワケじゃないんだよ?」
何に言い訳しているのか分からない姿で、ポロポロと止めどなく溢れる涙。
それはいつもとは少し違って見えた。
「へへっ、殴られて喜んでるのもヘンだけど嬉しい時も涙って出るんだ……って思ったらなんかまた泣きそう」
鮮明で純粋で彼女の涙は、本当にキレイだった。
「泣きそうってもう、泣いてるじゃないか」
なんだか影響されそうになる。
それがきっと彼女のよさだ。
一生懸命で人の気持ちをしっかり考えようとして.自分の悪いところを直そうとする。
まっすぐで、純粋でその素直さが周りを巻き込んでいく。
「分かってきたかもしれない」
「えっ、なに!?」
「別に」
人のよさ。愛という意味。付き合うこと。
なんとなくどういうことなのか、僕にも分かった気がした──。