目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第25話:遊園地のチケット

【未玖side】


「よしっ、たいぶ治って来た!」


鏡を見て、1週間前に殴られた頬を確認すると、だいぶ腫れが引いて今は分からないくらいになってきた。


最初は両親に隠すのも大変だったんだけどね。派手に転んだって言ってなんとか誤魔化した。


「未玖~ちょっといい?」

「はぁい」


準備万端でもう家を出ようと思っていた時お母さんが私を呼んだ。


「はい、これ」


お母さんは何かのチケットのようなものを私に渡した。


「ん?何……これは?」

「遊園地のチケット」


遊園地のチケットが2枚。

お母さんの手から渡された。


「気づいてないとでも思った?あんた賢人くんとケンカしてるでしょう?」

「え……っ」


「バレバレよ、家にも来なくなっちゃったし最近一緒にいるところ全然見ないし」


そりゃ、そうだよね。

急に一緒にいなくなったらお母さんだって気付くよね……。


「ずっと一緒にいた幼馴染なんだから、これ誘って早く仲直りしなさいね。あんた達はさ、幼馴染でも特別仲良しだったんから、ここで関わりなくなっちゃたらお母さんも寂しいわよ」


「うん……」


そうだよね。

小さい頃から家族ぐるみで仲良くて、色んな所に行って、他の幼馴染よりも仲が良かった私たち。


賢ちゃんは特別な存在だ。

このまま賢ちゃんと気まずいまま終わるのは嫌だよ……。


私はチケットを持って学校に行くことにした。

とはいえ、賢ちゃんと今の状況で遊園地に行けるわけないし……。


だからといってお母さんがくれたチケットを無駄にすることは出来ない。


今日はみんなで集まる日だ。

その時に言ってみようかな?


お互いのカップルを交換するのは残り、2週間になった。


最初は長いと思っていた3ヶ月がもうあっという間に終わろうとしてるんだなあ。

でもこんな時に、遊園地のこと言ったら、また周りのこと考えてないって言われちゃうかな。


『キミさ、何考えてんの?』


うう……。有川くんに言われかねないかも……。


不安を抱えたまま放課後がやってきた。

私は屋上に行くと、一番最初に来ていた有川くんに話しかけた。


「お待たせ」

「今日は昼、僕のところに来なかったんだね」


「あ、えっと……悩んでることがちょっとあって……」


そう、本当は有川くんに相談したいって思ったんだけど、やっぱりここは自分で決めるべきだと思って昼休み中は、どうするべきかずっと考えていたんだよね。


「まぁ静かでよかったけれどね」


そうだよね……。


すると、屋上のドアが開き2人が屋上に入ってきた。


──パチ。

その瞬間、賢ちゃんと目が合う。


けれどふいっと逸らされてしまった。


うう、そうなるよね……。

あれから賢ちゃんとは話もしていないんだから。


今日、謝るタイミングあるかな?


また声をかけても避けられてしまったらどうしよう。


そんなことを不安に思う。

そしてお互いが向かい合い、話を始めようとした時、賢ちゃんは言った。


「あのさ、ちょっと提案なんだけどいいか?」


その言葉にみんなきょとんとしながら賢ちゃんを見た。


「俺さ、朝母親から未玖とケンカしてるだろって言われて……仲直りしろって遊園地のチケットもらったんだけど」


え……!!遊園地のチケット?賢ちゃんももらったの?


私は驚いて口をポカンと開けた。


「でもさ、こうやってカップル交換してるのに美玖と2人で行くのもあれだしさ、4人で行かねぇか?2人分の金なら払うし、もうカップルを入れ替えるのも残りわずかだろ?最後の思い出だと思ってさ」


私も言わないと……!


「あ、あの!」


すかさず私も入って、今朝母親からもらったチケットをみんなの前に出した。


「私も朝……遊園地行って来いって渡されたの……」


私と賢ちゃんの母親はすごく気が合って、考えることが似ていたり、同じタイミングで同じことを思っていることが多かった。


「すごい、同じ遊園地……」


莉乃ちゃんがつぶやく。

だからまさか2人して、同じところの遊園地のチケット渡してたなんて思いもしなかった。


「まじで!?これ、ちょうどいいな。そしたら全員で行けるじゃん」


良かった……。

それならこれはもう確定かもしれない。


そんなことを思った時。


「ちょっと……!勝手に決めないでよ」

「そうだ、僕だってまだ行くなんて一言も」


莉乃ちゃんと有川くんは反論した。


「いいじゃん。もうこんな機会ねぇって。後少しで終わるんだしさ、ただで遊園地行けるって思ったら得だろ?」


賢ちゃんの言葉に、莉乃ちゃんは考えてから「まあ……それは」と、言葉をかけた。


有川くんも何も言わなかったけど、たぶん了承してくれたと思う。


彼が何も言わないのは、分かったという証だ。


「じゃあ今週の日曜日、朝9時に駅前集合な?」


その日の、集合は遊園地に行くことが決まって解散した。


「帰るよ」

「あ、うん……」


帰りがけ、有川くんに言われ思わずついてきてしまった私。

賢ちゃんとまた話せなかった……。


どうしよう。

遊園地もギスギスした関係のまま行くことになっちゃうのかな?


私が有川くんと歩いていると、後ろから賢ちゃんが声をかけて来た。


「未玖!ちょっと話したいんだけどいいか?」


賢ちゃん……!

来てくれたことが嬉しくて、思わず頷くと、有川くんは言った。


「それなら僕は先に帰るよ」


きっと私のこと、考えてくれたんだと思う。

それを口に出したらまた、平和なお花畑って言われちゃうかもだけど。


そして有川くんが去っていく。

すると、賢ちゃんが私の隣に並んだ。


「ごめんな……」


静かな声でつぶやく賢ちゃん。


え?謝るのは私の方なのに、どうして賢ちゃんが!?


「自分勝手なことしたなって思ってさ。幼馴染って大切な関係を俺の方から崩して無理やり崩して付き合ってくれたのに、なんで好きになってくれないんだって逆切れして……俺、まじで最低なことしたと思う……」


うつむきながら言う賢ちゃん。

でも……そんな風になんか、思ったことないよ

「本当、ひどいやつだよな……」


違う。賢ちゃんはひどい奴なんかじゃない。


「違う……よ。私にとっての賢ちゃんは、いつも守ってくれて、鈍感な私にも笑顔でいてくれる優しい人だよ……どんな時もソバにいてくれて呆れないでくれて……それで、それで……いっつも優しいの。ひどいところなんて一つもないよ」


目に涙をためながら必死で訴える。

だって悪いのは私だから。


小さい頃からずっと一人だったのを救ってくれたのは賢ちゃんだったから、そんな大切な人を傷つけたくなくて、離れたの。

それなのに……いつも傷つけてしまう。


「そんなこと……言わないで……っ賢ちゃん全然悪くな……」


涙でつっかえて言葉が出なくて、目の前の景色もボヤボヤだ。

こんなところでこんなに泣いて、ため息ついて呆れて帰ってくれればよかった。


イジメられてる時も、少しは自分でやれよめんどくさいって言ってくれれば良かった。

そしたらこんなに、大切な人にならなかったかもしれないのに。


「大切なの……っ、賢ちゃんは……私の大切な人なの……」


ずっと一緒にいた大切な人だから、もう口なんて聞かなくていいやって思えない。


「こんな私でも……っ、賢ちゃんと仲良くしていたい気持ちは変わらないの……」


私の目から涙が零れた時、賢ちゃんはつぶやいた。


「そういう所、好きになったのかもしんねぇな」


え……?


「小さい頃からさ、まっすぐで天然だけど、一生懸命人のこと考えようとすんじゃん?俺、そんな未玖に救われたんだ。自分が辛い時に、自分と同じように考えてくれるヤツがいるって本当に幸せなことだよな……」


「賢ちゃん……」


「美玖はさ、俺が美玖を怪我させたいことがきっかけで一緒にいると思ってるのかもしれないけど、そうじゃないんだ。ずっと前から俺が美玖の側にいたかったからいたんだ。だから自分が迷惑かけてるとかは思わないでくれよ?」


そう、だったんだ……。

賢ちゃんが私と一緒にいたのは責任感からじゃなかったんだ……。


なんだか、心がほっとして軽くなった。


「どんな関係であれ、幼馴染であることは変わらない。解消なんて言ったけど、そんなの出来るわけねーよな」


そう言って私にハンカチを差し出す賢ちゃん。

そういえば、いつも私が泣いた時、賢ちゃんがこのクマのハンカチを差し出してくれたっけ。


「クマさん……」

「好きだろお前?」


「へへっ……もう子供じゃないもん」


にっと笑う賢ちゃんはもう、昔の賢ちゃんに戻っていた。


「お互いにどんな気持ちを持っていても、もう幼馴染を解消するなんて言わない。それは最後2週間経っても同じだ」

「うん!」


元気に頷いた私は賢ちゃんと並んで昔のように話をしながら帰った。


「ただいま~」

「お帰り。仲直り出来た?」


「うん、遊園地のチケットのお陰で」


賢ちゃんと昔よく行った遊園地。

今度は4人でのいい思い出が出来ることを信じて私は自分の部屋に戻った──。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?