目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第26話:いつもと違う

【莉乃side】


いつもより少しオシャレして髪をウェーブになるように巻く。

そして白で花柄のワンピースにベージュのカバンを合わせて家を出ると、私は待ち合わせの場所に向かった。


オシャレしたのは別に賢人に見せるためじゃない。


潤もいるし、初めて出かけるわけだし……ちょっとくらいは頑張ろうかなって思っただけだから。


もちろん潤はもう待ち合わせの場所に来ていた。


10分前集合は当たり前の彼だから、きっと少し前に来ていたんだろう。


潤らしい……。


「おはよっ」

「……おはよう」


潤の服装はシンプルなVネックに紺色のジーパンだった。


彼らしくてよく似合っていた。


きっと付き合ってた頃にデートとかしていたら、私服姿の潤を見て、心の中でキャーキャー言っていたんだろうなぁ。


そう考えると、今は割と落ち着いたと思う。


会話も自然と出来るようになったし。前は大好きでいっぱいいっぱいだった私。

今、それはない。


「遅くない?あの2人」


珍しく潤が問いかけてくる。


「マイペースなのよ。だから遅れてくるんじゃない?」


幼なじみだし、一緒に来るって線もあるか。

この間、仲直りしたって嬉しそうに私に伝えてきたしね!


「悪りぃ、待たせたな」

「ごめんなさいっ!」


そんなことを考えていると、2人は走ってやって来た。


やっぱり……。

想像通り2人で来たわね。


まあ、こうやって4人で遊園地行くのにギスギスされても嫌だし……仲直りしてくれたのは良かったけど。


合流して潤があの子に文句を言っている時、賢人がこっちにやってきた。


「よっす」

「おはよ」


ちらりと服装を見てみる。


柔らかなブルーのニットベストに、白いシャツ。

そのシャツの袖はゆったりとしたラインを描いていて、少しダボっとして見える。


その反面、ボトムスはダークカラーのスラックスで、全体をきゅっと引き締めていた。


足元は真っ白なスニーカー。

気負い過ぎないラフなコーディネート……。


なんだか想像していた賢人と違うかも。


雑誌でよく見るモデルみたいだし……。


賢人ってこんなオシャレな服着るんだ。


──ドキン、ドキン、ドキン。


「ま、まぁ様になってるんじゃない?」


私が目を逸らして言うと、賢人は笑った。


「ふっ、なんだそのほめ方。素直にカッコいいって言ってもいいんだぜ?」

「カッコいいとは思ってないし」


「あっそー!じゃあ俺も言わない」

「言わないって何がよ」


「かわいいって思ったこと」

「えっ」


私は突然の賢人の言葉に固まった。


か、かわいいって私のこと……!?


ウソ。

賢人がそんなこと言ってくると思わなくて赤面する私。


「あーあ、言っちまったし」


なによ、それ。

そんなのずるすぎるでしょ。


「行こう」


潤がそう促すと、美玖という子がコクコク頷いて隣を歩く。


私たちも後に続くように2人の後ろを歩いた。なんか、急に恥ずかしくなってきたんだけど。


賢人が急に変なこと言うからよ!もう!


遊園地の入口までいくと、私は賢人からチケットを渡された。


「ありがと」


ってか今思ったんだけど……これどうやって周るの?まさかずっと4人一緒に?

賢人も潤も仲良くはないし、私もあの子とは全然話したことないのよね。


どう考えても気まずいまま一緒に周ることになると思うけど……。


中まで入っていくと、賢人は言った。


「なぁ、莉乃!!しょっぱなはジェットコースターだろ?」


え?そうなの?

すると、美玖という子が言う。


「賢ちゃんはいっつもそうだよね」

「僕は最初は違うのがいい。初っ端からジェットコースターってバカしか乗らないって言うからね」


「お前……っ!怖いんだろ〜それで乗らないように誘導してんじゃねぇの?

「そんなわけないだろ」


あれ?意外と……大丈夫かも?

これ、遊園地マジックってヤツ?


まぁせっかく楽しい場所に来てるんだから、細かいこと考えるのはやめよ。


「よしっ、ジェットコースター行くわよ!!」


私は賢人の腕を引っ張ってジェットコースターの列に並んだ。


私たちが並んだのを見てしぶしぶ列に並ぶ潤と美玖ちゃん。


潤が案外素直で笑ってしまった。


そして乗った結果……。


「うう……なんでこんな小さい遊園地なのに」

「なめすぎた」


私と潤はジェットコースターにやられていた。


「ここ、意外とすごい絶叫なんだよね」


慣れているのか、2人はケロっとしている。


「少し休むか」


賢人はそう言うと私を座らせた。


「飲みもん買ってくる」

「僕も行く」


「お前、でも……」

「動いてた方がいい」


そう言うと2人は、自販機まで飲み物を買いに行った。


大丈夫かな……。あの2人。


「莉乃ちゃん……あのっ!!」


すると、ずいっとあの子が寄って来た。


「な、なに……?」

「ごめんなさいっ!」


え……?


「色々無神経なこと言って、傷つけて……本当にごめん」


眉を下げながら謝ってくる彼女。


「本当はね……仲良くしたかったの。莉乃ちゃんみたいな自分の意見をハッキリ言える女の子すごく憧れで……」


「何よ、色々言い過ぎって言いたいの?」


私がそんな意地悪を返せば、動揺したようにブンブンと首を振る。


「ち、違うの……本当に憧れで……」


その純粋な瞳は嘘をついているようには見えなかった。


きっとこの子は常にこうなんだろうな。


大人になるに連れて、周りが狙ってやっていると勘違いされてきたんだろう。

私も、賢人は騙されてる……なんて私もヒドイこと言った。


そんなはずないのに。


こういう子は、本当に心から人を見てるのに。


「私の方こそ……ごめん。ヒドイ言葉言って……」


「ううん!これから……莉乃ちゃんと仲良くしたい……です」


恥ずかしそう言うと、彼女は手を差し出していた。


私もその手を取って握手する。


これで仲直り。


私も友達とかあんまりいないし、こういうのが正しいかは分からないけど……。


そう思った瞬間。


「やっほー!お二人さん、俺らと一緒に回らない?」


金髪のチャラチャラした男子が声をかけて来た。


「丁度男2人で寂しかったんだよね~」


私の隣に一人の男が座り、もう一人は未玖ちゃんの方に座りだす。


「あ、あの……」


案の情、彼女はパニックになってしまっていた。


「一緒に周らないから。触らないでくれる?」


男の手を払いながら、2人にいうと、彼らはこっちを見てにやっと笑った。


「そういう気の強い女嫌いじゃねーな」


そして肩に手を回して引き寄せる。


「ちょっとやめてって……」


私が振り払おうとした瞬間。


──ボカッー!


男は吹っ飛ばされた。


「痛てぇ!何す……」

「どけよ、バカ」


賢人……。

飲み物を両手に持ちながら睨みつける彼。


すると彼は言った。


「言っとくけど、気強い女、嫌いじゃねーのはお前だけじゃねーから」


え……なに、それ。

一人の男が転がっているうちに、もう一人の男を潤が絞めていたのか、もうすでに片付いていた。


「行こうぜ」


賢人が声をかけると、潤もぱっと手を離して歩きだす。


なんか……。

なんか……隣にいる賢人にドキドキする!


──ドキ、ドキ、ドキ。


「お前さ、前科あんだからああいうのやめろつったろ?すぐ俺ら呼べよ」

「前科?」


潤が尋ねる。


「コイツ、男でも強気で行くとこあるからさ……」


ダメだ。なんだろう、今日の賢人。

いつもと違く見える。


私服だから?

制服じゃないからいつもと雰囲気が違って……。


「聞いてんのかよ!莉乃」


すると急に賢人が覗き込んで来たから私は思わず、彼を突き飛ばしてしまった。


「き、聞いてるわよ!うるさいわね!」


──ドンー。


「痛って!んだよ、お前。可愛くねぇな」


……やってしまった。

微妙な雰囲気のまま、私たちは飲み物を飲み休憩する。


潤と未玖ちゃんは何だか色んな話をしていたけれど、私と賢人は沈黙のままだった。


賢人……怒ってるし。


そりゃあ助けてもらったのにその態度は怒るけど……。


「もうさ、次行こうぜ」


ふいっと私から顔を逸らし立ち上がる彼。

こんな明らかな態度しなくってもいいじゃん!!


「次、あれ行こうぜ」


すると賢人はすぐ近くにあったお化け屋敷を指さして入口まで先に行ってしまった。


もう……!なによ、せっかく楽しんでるっていうのに嫌な態度とってきて……!


気まずいまま、間庭家屋敷の入口までいくと、中から叫び声が聞こえて来た。


えっ、そんなに怖いの?


てか……私、お化け屋敷苦手だった……。


でも賢人のせいで言いそびれちゃったし、どうしよう……。


今更行っても、待ってられるような雰囲気じゃない?


「私たち先に入るね?」


未玖ちゃんの言葉に賢人が頷く。


「うん、こっちの方が面白そうだ」


わくわくしている潤と一緒に入っていく2人は中に消えていった。


潤はこういうの(科学的に)分析するのが好きだからな……。


残された私たちは顔を見合わせる。


しかし。


「早く来いよ」


未だに怒ってる賢人は、それだけ言って先に中に入ってしまった。


「ちょっと待ってよ……!」


慌てて中に入ったはいいけれど、中は真っ暗だし、血のついた壁が見えるし……。

こ、怖すぎる……。


やっぱりここ、入りたくないよぅ。


「け、賢人……?」


ちゃんといるわよね?


確認するために大きめの声で賢人の名前を呼ぶ。


私の声は完全に震えていた。


「ね、ねぇ!どこ?」


賢人からの応答はなかった。


ちょっ、まさか先行っちゃったわけ!?


辺りを見渡しても、真っ暗で何も見えない。


ヒドイよ、いくら怒ってるからって……こんなの。


「いやだ……っ、どうしよ」


お化け屋敷は昔から苦手なんだ。


暗くて怖くて、そんな中に一人なんて、絶対に……。


「ウワアアア」

「キャーー!!!」


お化けが脅かしてきて私は叫び声をあげた。


──カクン。


腰を抜かしてしまって走ることも出来ず、その場にうずくまる。


「やだ……っ、怖いよ、賢人……」


お化けに脅かされた私はついに泣き出してしまった。


「……っ、ぅ」


ひどい。ひどいよ。

私を置いていくなんて……。


こんなお化け屋敷になんて入りたくなかったのに。


「賢人のバカぁ……!」


うずくまって、ぐすぐす泣いていると誰かに声をかけられた。


「莉乃」

「賢人……?」


声ですぐに賢人だと分かった。

彼がここにいると分かった瞬間、ほっとする。


「な”んで先行くのよ!!」


私は立ち上がって言った。


「いや、先行ったのお前だろーが。俺は待ってたのにお前がてんぱって走って先行ったんじゃんか」


なんだ……賢人はずっとここにいたんだ。


暗くて見えなくて一人でパニックになって歩いて行ってしまったんだ。


「でも意外だったわ。お前お化けとか倒してそうなのにな」

「倒してそう……って何よ」


涙声だから威力はあまりない。

今回は賢人の方が優勢だ。


「じゃあこれから先も一緒に行ってほしいなら、素直に言えよ一緒に来て下さいってな?」

「き、来て下さい……」


屈辱すぎて小さい声で伝えるが、賢人はさらに意地悪をする。


「聞こえねぇー」

「さっきのまだ怒ってるでしょ」


「そりゃ、ちょっとは怒ってもいいだろ」


ぐっと黙った私は、見えないながらも彼を見て言う。


「戸惑っただけだもん……」

「あ?」


「だから!戸惑っただけ!!賢人がいつもと雰囲気違うから、それであんなこと言うから戸惑っただけだもん!お礼だって……ちゃんと言おうと思って……」


──グイー!


「何それ、照れたってこと?お前めっちゃ可愛いじゃん」


ぐいっと賢人に引き寄せられて温もりに包まれる。


ちょっ、なにこれ……。

抱きしめられてるんだけど!?!


「そういうの早く言えよな嫌だったのかと……思うだろ」


小さくつぶやいた言葉になぜかきゅんとして、今が暗くて良かったと思った。


賢人は安心させるように私を抱きしめた後、手を繋いでくれた。


「これで怖くないだろ?」


なんてどんな顔して言ってるのか、分からないけれどなんとなく想像がついた。


ああ、ここが暗くて良かったな……。


だって暗く無かったら、私の顔が真っ赤になってることバレちゃうもん。


それから、ふたりでお化け屋敷を歩いて行ったけど怖くなくなった。


脅かすお化けに目もくれず、ドキドキを抱えたまま、出口までたどり着くと外のまぶしさに目を細めた。


やっと出てこれた……!


出る瞬間に離れてしまった手を名残惜しく思いつつも、出た先には潤と美玖ちゃんがいた。


「お化け屋敷は、脅かすポイントがしっかりあるんだ科学的には……」


潤は案の定、怖くなかったみたいで、未玖ちゃんにお化け屋敷のポイントを話していた。


普通の人だったらうんざりしてしまうと思うけど、彼女も彼女で真剣に聞いているし……なんだかんだ相性良かったりする?


前はそんな風景を見ているだけで、心がモヤモヤしていたのに、今はしない。


それよりも……。

ちらっと賢人を見る。


すると、目が合ってまたドキっとした。


「莉乃の弱み発見出来たからよかったわ」


にっと歯を見せて笑う賢人。


──ドキン、ドキン、ドキン。


賢人がいつもと違く見えるのはなんでだろう?


服装?それとも場所?


それとも……。

まだ気付かない何か……?




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?