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第27話:助けたいと思ったのは

【賢人side】


遊園地デートを始めて3時間くらいたった。


どうなるんだって思ってた遊園地デートは、なんだかんだ楽しめていて、改めて見ても不思議な感じだ。


前の彼女と今の(仮)の彼女と一緒にいるなんてな。


本当、頭がやべぇとしか思えねぇ状況だが、まあ……いいか。


昼飯も食い終わり、ゆっくりしていると、莉乃と目が合った。


そういや、コイツの服装……割とタイプなんだよな。


モデルやってるだけあってか、服のセンスがよくて、しかも意外にも着なそうなワンピースとか着てきて……それが似合ってるから、なんつーか、いつもと違って見えるんだよ。


可愛いとかは言わねぇけど、なんつーの?


ちょっとソワソワするんだよな。


つか、俺ら……。

4人で一緒にいるわけだから、もっとアピールしてかなきゃダメなんじゃねーの?


前みたいに有川から美玖を強奪していかないと、この遊園地デートの意味ねぇよな?


普通に莉乃と楽しんじまってるけど、これでいいのか?


そんなことを考えていると、莉乃は言った。


「楽しいね、なんか」

「ああ」


「私、こういうところ行くの初めてなの」

「まじで?」


「うん。モデルの活動もしてて忙しかったし……友達もなかなか出来なかったから」


そっか。

莉乃にも色々あったんだな。


こうやって彼女の気が強いのも精一杯虚勢を張っているのかもしれない。


莉乃が楽しんでいるなら、まぁこれはこれでいいか。


有川と未玖もイチャイチャするというよりは、遊園地の哲学を必死に聞く、先生と生徒のような関係だしな。


今日半日、こうやって4人で行動出来ると思わなかった。


意外と仲良く出来るもんだな……。


そうやって関心していると、未玖が言った。


「見てー!ボートが見える!」


岩の壁から下を覗き込むと、ボートに乗った人たちが優雅に景色を楽しんでいた。


そういえばボートの乗り物、1回だけ乗ったことあったな。


「へぇ~こんなのもあるんだ」


未玖の隣で感心する莉乃。


「あれ4人で乗らないか……」


そう提案しようとした時、莉乃の体がぐらりと揺れた。


おい、ちょ……嘘だろ!?

体制を崩した莉乃はボート側へ体が落ちていく。


「きゃっ!」

「莉乃ちゃんっ!!」


とっさに未玖が莉乃の手を掴んだが、重力に負けて未玖まで落ちて行ってしまった。


「や……ったすけ……」


──ザパーンー!!


嘘だろ……。


「ちっ、」


隣で舌うちする有川は、すぐに水の中に飛び込んで行った。


コイツ……。

俺も後を追うように水の中に飛び込むと、溺れている莉乃が目に入った。


「莉乃!!!」

「賢……人っ」


「掴まれ、俺の手に」


精一杯手を伸ばすが、莉乃は体をバタバタさせていて届かない。


このままじゃ莉乃が溺れちまう。


「おい、莉乃!こっち見ろ!俺の顔を見ろ」


そうやって叫んだ瞬間、下を向いていた莉乃は顔を上げ、少し体が浮いた。


「賢、人……」


今がチャンスだ!


──ぎゅー。


俺は莉乃の体をしっかり支えて、岸まで連れて行った。


良かった……。

未玖を探すと、少し離れたところで有川が岸まで連れて行っていた。


2人とも無事か……良かった。

ほっとして莉乃に目をやると、彼女は小さく震えている。


そしてぎゅっと俺の腕にしがみついている。


「大丈夫だったか?」


そう問いかけた瞬間。


「…………ちょっ!おま……っ」


莉乃のワンピースが透けていることに気がついた。


「着てろこれ」


ビショビショのパーカーを掛けて隠してやると、莉乃は小さくつぶやいた。


「ありがと」

「大丈夫ですか!?」


やがて係の人がやって来て、俺たちを救護室に連れて行った。

事情を説明する時に気付いたが、莉乃は誰かに背中を押されたらしい。


おそらく押した犯人は朝、揉めたあいつらしかいないだろう。


防犯カメラが設置されていて犯人が写っていたようで、警察を呼んで探すと言っていた。


その後、俺たちは、乾燥機のある場所に連れて行ってもらい、代わりの服を貸してもらった。


服が乾くのをしばらく待っていないとな。


俺と莉乃は2人で座って待っていた。


有川はじっとしているのが耐えられないのか、外の空気を吸ってくると俺たちに伝えた。


美玖も有川と一緒にいたかったようで、有川の後を追いかける。


──ガタン、ガタン。


「災難だったな」

「本当……」


2人きりの空間に乾燥機の回る音だけが響く。莉乃は体育座りをしてうずくまっていた。


さっきから口数は少なく、うつむきがちだ。


よほど溺れたのが怖かったんだろう。


「怖いか?乾燥し終わったら帰る?」

「ううん……」


そういう割に、莉乃はさっきから元気がない。


この空気のまま、また遊ぶぞとはならないだろ。

また沈黙になった時、彼女は小さい声で言った。


「私……死んじゃうかと思った」

「は?」


「潤が水に飛び込んで、賢人が水に飛び込んだのも見えた。溺れていたけど、頭は冷静に物事を考えてた」


莉乃……?


「2人が水に飛び込んだ時……潤も賢人も未玖ちゃんのこと助けるんじゃないかって思ったの。私……一人ぼっちで溺れて死んじゃうんじゃないかって思った」


あの時、そんなこと考えたのか……。


「必死に呼ぶ声も届かなくて、伸ばす手も誰も救ってくれない。そんなことを思ったら、どんどん体が沈んでいくのが分かった」


莉乃は俺が、未玖の方を救うって思ってたのか。


「だけど、その時賢人が俺をみろって言ってくれて、助けてくれて……本当に安心したの……っ」


手がまだ震えてる。


本当に怖かったんだろう。

俺が未玖の方を助けてたかもしれないことに。


とっさの判断で2人とも美玖の方に行ったら助からなかったかもしれないもんな。


でも、これだけは伝えておかないといけないことがある。


「でもさ莉乃……俺さ、落ちた瞬間も飛び込んだ瞬間もお前しか見てなかったぜ」

「え?」


「莉乃が落ちて、俺も飛び込んだ。その時の俺の視界はお前でいっぱいだった」


莉乃に向かってまっすぐ泳ぎ手を伸ばした。


はやく、助けなければと。


無意識に発された言葉は「莉乃」という言葉で、美玖ではなかった。


「俺はお前が落ちた瞬間から、お前のことを助けるために飛び込んだ」

「賢人……」


見捨てるなんて絶対にしない。

俺が助けるのは、俺が大事にしたいのは──莉乃だ。


「心配すんなよ。お前……今は俺の彼女だろ?助けないわけねーじゃん」


ぎゅっと彼女を引き寄せて、頭をポンポンと叩く。

すると莉乃は少し赤い顔をして言った。


「ありがとう……賢人そういうところ……大好き」


──ドキンー。


心臓がドキ、ドキとリズムを刻む。


あれ……なんだこのドキドキ。


この心がポカポカするようなドキドキは……。

顔をあげた莉乃は俺を見る。


気付けば至近距離で、莉乃と目が合っていた。

濡れた髪、少し赤い顔、照れた表情すべてに目が逸らせなくなる。


「莉乃……」


ポツリとつぶやくと、そっと近付く顔と顔。

莉乃がゆっくりと目をつぶる。


そして俺はその唇にそっとキスを……。


いやいやいや!!

キスはまずいよな。


俺、何しようとしてんだよ……。


こんな雰囲気に流されて、ダメだろ。


「悪りぃ……なんかヘンな雰囲気になった」

「あ、う……ん」


その瞬間、乾燥機が終了の合図が流れた。


なんだか気まずいまま服を取り出すと、俺たちは別々に分かれて服を着た。


服を着終わっても、なんだか気まずい雰囲気は続いていて……。


お互いに目を合わせては逸らしたり、心がむずがゆい気持ちになった。


「風邪ひいたらあれだしな……帰るか」

「うん……」


けっきょくまだ、犯人も捕まっていないこともあり俺たちの遊園地はここで終了になった。


帰り道もふたりで帰りながら、モヤモヤと莉乃のことを考えちまった。


『2人が水に飛び込んだ時……潤も賢人も未玖ちゃんのこと助けるんじゃないかって思ったの。私……一人ぼっちで溺れて死んじゃうんじゃないかって思った』


そんなこと思ってたのか……。

なぜか莉乃にそんなこと思わせたくないと思ってしまった。


俺が助けるから、しっかり信じて待っていて欲しい。


そうやって伝えて莉乃を安心させてやりたかった。


なんだんだ、この気持ちは……。


俺は美玖のことが好きだったはずなのに、どうして莉乃のことを一番に見てしまうんだ……。


ワケわかんねぇよ──。



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