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第28話:僕の言い訳と本音

【潤side】


水に落ちた吉田さんを救い、岸にあがると僕らはビショビショになっていた。


「はぁ……本当、やってくれる」

「ご、ごめんなさい」


まぁ無事で良かったけれど、どーしてもこの人はなんらかのトラブルを連れてくるんだよな。


莉乃達も無事に岸に上がれたようだし、何ごともなくて本当に良かった。


「全くキミは、遊園地に来てもこうなわけ?」

「うう……自分でもビックリしてます」


今回のは倒れそうになった莉乃を、吉田さんが救ったものだったけど……。


「キミが行くと絶対巻き添えくらってさらにめんどくさくなるんだって、そろそろ自覚してよね」

「危ないと思ったらつい……」


そういう人なんだ、彼女は。

他人が危ないと思ったら、自分のことも考えず飛び出していく。


そういう考えにも、もう少し慣れてきた。


「本当にごめんね?」


別に……今はそういう所もメーワクだけど、嫌いじゃないと思ってるし。


「でもね……私、落ちたけど有川くんが飛び込んでるのをみてなんか安心しちゃった!」

「安心すんなよ」


「へへっ、だってさ、有川くん私が困ってる時、いっつも助けてくれるんだもん」


水に落ちて怖い思いしたはずなのに、あまりにも彼女がキレイに笑うから、僕は目を逸らした。


全く、調子狂わされるな。


「次はもう……助けないから」

「え……」


なんて、ウソだけど。

だって誰かが助けなかったら、彼女にはいくつ命があっても足りないだろう。


全く、僕も厄介な人と出会ったもんだ。


「そろそろ、乾燥機乾いたでしょ。合流しよ……」

「うん!」


そう言って外から戻ってきてみると、2人はいなくなっていた。


それだけじゃなく、乾燥した服もすっかりと消えていて……。


「あれ、賢ちゃんたちいなくなっちゃった!」

「先帰ったんじゃない!?」


「えっ、そんなことあるかな!?」

「まあいいじゃん」


2人のことは2人の好きにしたらいい。


それからお互いに別の場所で着替えをするともう一度集まった。


「あれ、上着着てなかった?」

「実は……なんか木の枝が引っかかったのか服が裂けちゃって……」


「寒くないの?」


今は肌寒い時期。

上着なしで外を歩ける気温ではない。


「まあ、気合いでなんとか……」


僕は彼女の言葉を聞くとはあとため息をついた。


気合いでどうにかなるものじゃないだろうに。


「行くよ、吉田さん」

「え?どこに?」


バックに入っているストールを彼女に渡して、首に巻きつける。


「わ、暖かい……」


そして手を引くと、吉田さんを近くにあるショップに連れていった。


そして、キャラクターのパーカーを手に取り、レジに向かってお金を払った。


「有川くん?それ着たかったの?」


誰が……。

ここのマスコットキャラクターなのか、よく分からないキャラがデカデカと印字されている。


商品を受け取り、タグを切ってもらって外に出ると、その服を吉田さんに渡した。


「これ、羽織れば少しはマシになるデショ」

「えっ、私のために……?」


「それ意外何があるの」

「そっ、そか……!私のために……あ……お金……」


ゴソゴソバックを漁る彼女に僕は笑顔で言う。


「いいよ、最悪記念ってことで」

「うう……なんか申し訳なさ過ぎて……」


「早く、風邪引く前に着替えてくれない?」

「はい!ありがとうございます!あ、着替えてくるからちょっとだけ待ってて」


吉田さんはしゃきんっとすると、急いでどこかに向かってしまった。


全く、羽織るだけなのにどこに向かったんだ。


そう思っていると、しばらく時間が経ってパーカーを上から羽織った吉田さんが戻ってくる。


少し大きめのものを買ったためか、ダボっとしているけれど暖かそうだった。


「そ、それでね。あの……これ」


そう言って恥ずかしそうにさっきは持っていなかった紙袋を僕に渡す。


「これ、何?」

「あけてみて」


紙袋の中を見てみると、吉田さんが着ているパーカーと全く同じパーカーが中に入っていた。


ご丁寧に赤という色まで同じだ。


僕はそれを見てうげ、という顔をした。


「あの、お礼です……」


なんでそうなる。

しかし吉田さんの目はキラキラしていて、顔に着て欲しいと書いてある。


僕は全然こういうの、趣味じゃないんだけど……。


「はあ……」


仕方ないので紙袋をあけて着替えてみることに。


「これは間違えたな」


柱の鏡にうつる自分を見て眉をしかめた。


キャラクターが大きくプリントされている。


よく見ないで買ってしまったため、こんな恥ずかしい服だとは思わなかった。

しかも全身柄だし。


目立ちすぎだ……。


眉をひそめていると、彼女ははしゃぎながら言った。


「有川くんっ!!すっごく可愛いよ!!パンダのパンちゃんがいっぱい!!こんなの着て過ごせるなんて幸せだねっ!!!」


……うるさい。

これのどこがいいんだか僕には全く理解出来ない。


「しかも有川くんとお揃いだー!!すごく嬉しいっ」


キミが勝手にお揃いにしたんだろ。


まっいいか。

こんなに喜んでるなら、着てやらないこともない。


「ねぇねぇ、せっかくだから乗り物乗らない?」


「さっき莉乃を押した男……まだ捕まってないって言ってたけど」


「それはそうなんだけど、有川くんがいてくれたら安全に遊べそうだし……」


僕をボディガードかなんかと勘違いしてるのか?


「せっかくお揃いだから少しだけ……お願い」


手を合わせて頼み込む吉田さん。


仕方ないか。

僕は人目を気にしつつ、この服で過ごすことにした。


それにしても……。


「有川くん!コーヒーカップ乗ろう」

「わーあのカップルお揃いのパーカー着てて可愛い〜!」


「あのカップル、ラブラブ」


目立つ。


「ねぇ、これ恥ずかしくないわけ?」


吉田さんに聞くと、彼女は嬉しそうに言った。


「全然っ!!なんかね……ふふっ、今一番幸せっ」


また、嬉しそうな顔をする。

あんなに怖いことがあったのに、それを忘れたみたいに、まるで僕のことを信頼し切っているようで、呆れた。


呆れたんだけど、そんな表情を見てるのも悪くない。

それに、意外と楽しいと思っている自分もいる。


なんなんだろう、この子は。

本当に不思議だ。


僕は吉田さんみたいな性格の人は好きじゃないのに、なぜか一緒にいることが出来る。


「じゃあ次行くよ、コーヒーカップ」

「うんっ!」


僕はそう言って、彼女の手を取りつないだ。

だってそうでもしないと、彼女はすぐにはぐれそうだから。


ただはぐれないための手段であって、手を繋いだわけじゃない。


そんな風に心の中で言い訳をする。


この子にだったら、僕の時間を使ってもいいかもしれない。


僕は漠然とそんなことを考えていた──。




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