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第30話:寂しさと悲しみ

【莉乃side】


遊園地ダブルデートを終えて1週間、私たちは少し距離があるまま過ごした。


「莉乃飯行こうぜ」

「うん、」


ご飯を食べる時とか、帰る時は普通だけど少し顔が近くなったりすると……。


「わり……っ」


賢人は顔を逸らした。


賢人がキスしそうになったあの時は私も……目をつぶって彼を待っていた。


なんであんなことしたのかは分からない。

でも賢人ならいいやって、その時は思ってしまったんだ。


私たちお互いに好きな人は違う人なのにね。


「今日は集合の日だな。最後の……」

「そうだね」


今日はカップルを入れ替えて、最後の集合の日。

最後の報告をして、その3日後に私たちは本来付き合っていた相手のところに行って話し合うことになっている。


そこで全てが決まる。


少し寂しいな……。


最初は3カ月もあるって思ってたのに、賢人と一緒にいた日々はあっと言う間に過ぎ去っていった。


そしてもう、この日が来ちゃうのか。


「でもさ、どんな形になろうが俺らは一生懸命やって来たわけだし頑張ろうぜ」


賢人がそうやっていう。


頑張ろうって言うのは、賢人は美玖ちゃんとより戻せるように、私は潤とより戻せるように頑張ろうってことだよね……。


もうとっくに無理なことは分かってるのに、応援し合う。


なんだか虚しい行為だなと思った。


「そうだね」

「じゃ、また後で」

「うん」


お昼の時間。

私たちは教室前で解散をして、それぞれのクラスに戻っていった。


そして放課後がやってきた。

私たちは4人は屋上に再び揃った。


「やあ」

「よっ」


「久しぶり」

「久しぶりだね」


この4人で集まるのは、あの遊園地以来だ。


「で今回はどうするの?また状況報告?」


もうすぐ終わるから、お互いのカップルの状況報告はあまり意味がないだろう。

すると潤の言葉に賢人は言った。


「今回は3日後、どうするか本来のカップルで話し合おうぜ」


そっか、やっぱり賢人は美玖ちゃんと話がしたいのね……。


「そうだね」


未玖ちゃんも賢人に合わせるように頷くと、潤も頷きはしないけど納得したみたいだった。


そして私は潤のところへ、賢人は美玖ちゃんの元に向かって話し合いをする。

すると彼は言った。


「僕は僕なりにこの3カ月間、向き合ってこれたと思ってる。莉乃が納得する答えも出せると思うし、その答えは適当な気持ちで出した答えじゃない」


潤……。

潤がこんなにハッキリと告げてくれるのは珍しかった。


「あとは3日後の放課後、ここに集合しよう。その時に僕の気持ちを全部伝えようと思ってる」


「うん」


潤の気持ち。

はじめて聞くな……。


しっかりと私のことを見てくれているから、きっと彼の言葉は本物だろう。


あの時言った私の言葉で、少しでも彼は変わってくれたなら嬉しいな。


「僕の方の話は終わりだ。莉乃の方はある?」

「ううん。私も3日後にはっきり伝えるね」


「分かった」

「それじゃあまた3日後ね」


私たちの話し合いはすぐに終わった。


賢人はどんな話し合いをしているんだろう。


気になるな……。


賢人が終わるのを屋上の入り口で待っていると、少しして彼は戻ってきた。


先に美玖ちゃんがやってきて、屋上を出て行く。


すると、私の前にやってきた賢人は言った。


「よっしゃー!!なぁ、俺未玖とデートすることになった!」

「えっ」


屋上を出ると、嬉しそうにそう言う賢人。


デート……。


そっか。

話し合いって、そういう話し合いをしてたんだ……。


私、てっきりどう別れるかの話し合いをしているんだとばっかり思ってた……。


なんだ、全然違うじゃん。


賢人は美玖ちゃんとより戻したいんだ……。


「放課後、ショッピングに行こうってなって、なんか昔みたいに戻ったみたいで、すげぇ嬉しいわ」

「そっか……」


「なんか久々すぎて緊張してくるわ」

「良かったね」


笑顔でそう言ったけど、しっかり笑顔が作れているか分からない。


おかしいな。

賢人が嬉しいの……私も嬉しいはずなのに。


なんか今、泣きそう──。


「私、用事あるから先に帰るね」

「えっ、待っててくれたんじゃねぇの?」


「いや報告しとこうと思ってただけだから。それじゃあ」


私は、逃げるように賢人の前から立ち去り、すぐ家に帰った。


賢人、嬉しそうだったな。


当然か。

大好きな美玖ちゃんとデートに行けるんだから。


美玖ちゃんの方も、潤のことが好きなんじゃないかと思ってたけど、それは私の気のせいだったんだ。


ふたりはカップルを入れ替えたことで、本当の気持ちに気づけたんだね。

いいことじゃない。


賢人が一番望んでる方向に話が進んだんだもの。


ああ、いやだ……。


「賢人が離れていくなんて嫌……っ」


思わず出てしまった言葉。

心のモヤモヤの原因はもう分かっている。


だけど私には何かを変える行動は起こせないから……。


目の前の事実を受け入れるしかない。


「ああ、なんで今……気づいちゃったんだろう」


今気づくならもう遅いから、気づかない方が良かったな。


こんな気持ちになるなら、賢人とカップルなんてしなきゃよかった……。


それから私は自分の気持ちを隠したまま、賢人と最後の3日間を過ごした。


賢人はいつもと変わらず元気で、私だけが時間が経っていく寂しさを感じていた。

そして、本来のカップルと話し合う日──。


「じゃあな、莉乃。今まで本当にありがとな?」


私たちは早めに集まって屋上で一度会ってから、お互いのところへ向かおうとしていた。


「色んなことあったけどさ、本当に……お前がいて良かった。ありがとう」

「ううん、こっちこそ本当にありがとう」


最後に笑顔を作る。


すると、賢人は鼻をかきながら言った。


「なんか一生の別れみたくなっちまうな。でもさ、お前とはさ……これからもダチとして一緒にいてぇから堅苦しいのは無しにすっか!」


ダチとして……。


嬉しそうに笑う賢人。


「うん……そうだね」


きっと未玖ちゃんとのデートが楽しみなんだろう。


「じゃあ行ってくるな」


賢人が私に背を向ける。

その瞬間、一気に寂しさは襲ってきた。


“行かないで”


そう思ってしまって、思わず賢人の服の袖を掴む。


ダメよ、何してるの……。

こんなことしたって何も変わらないのに。


「ん?どした?」

「う、ううん。い、行ってらっしゃい」


私の気持ちは強引に閉じ込めて笑顔を送った。


「おう、」


うつむいて賢人が去るのを見ないようにする。

すると。


「莉乃」


彼はまだ私の目の前にいた。


「顔、あげろよ」


私の顎に手をあてて、ぐっと上を向かせる賢人。


「ここんとこ、元気なさすぎ」

「え、」


「気付いてないとでも思ったか?お前のことならなんでも分かんだよ」


──ドキ、ドキ、ドキ。


「有川と最後の話し合い不安なんだろうけど、俺たち頑張って来たんだからよ自信持て!絶対に伝わるから」


バカ……。

なんでも分かるなんて言って、全然分かってないじゃない。


私が落ち込んでいる原因は潤なんかじゃないのに。


まぎれもなくあんたのことだって言うのに。


最後に声かけてくるなんてズルすぎる。


「別に……あんたにそんなこと言われなくても平気だし」


「でた、莉乃の強がり。それ、お前の悪いとこな?」


たった、3カ月なのに思い出がありすぎて、涙が出そう。

ただカップルをやめるだけ。


それだけなのに、寂しくて私の視界は滲んだ。


「いいから早く行きなさいよ」


だから私は、顔を背けてあえて強い口調で言った。


「おう、行ってくる」


もう行ってらっしゃいは言えなかった。

賢人が屋上から消えていくのを見て涙がポロポロこぼれた。


「賢人……」


彼の前では泣いてばっかりだったけど、最後に涙を見せずに済んでよかった。


ひゅっと風が吹く。


そういえば、彼と初めて会った時もこんな風が吹いていた気がする。


あーあ、恋って本当に残酷なんだね。

きっと私は相手が誰でも両想いになることはないんだろうな。


そういう星の元に生まれて来ちゃったのかも。


それならもう、しょうがないよね。


自分の幸せはもういいから……。



「幸せになって、ね……」




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