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第31話:気付いたらなぜか


【賢人side】


莉乃に別れを告げて、俺は美玖と合流する予定になっていた。


この間、最後の集まりの後……集合をして最後の日は元のカップルと向き合う。


その時に美玖とデートに行くことになっていた。

でも莉乃のやつ……なんかテンションが低かったな。


ここのところずっと低くて、何かを考えてるみたいにぼーっとしてた。


俺が声をかけるといつも無理に笑うみたいに笑顔を見せるけど、なんかいつもの莉乃っぽくなかった。


それほど有川の言葉を聞くことが怖いのかもしれない。


俺と莉乃はこの3カ月間で距離を縮めていったとはいえ、元々はお互い元のカップルに戻りたいという願望があった。


そのために即席カップルとして頑張っていたからな。


莉乃のこと元気付けてやりたいって思ってたけど、上手くいかなかったな……。


そんな後悔を残しながらも、待ち合わせ場所である下駄箱に向かうと、未玖はもう来ていて待っていた。


「悪りぃ、待たせたな」

「ううん、行こうか」


これから美玖とデート。

そこできっと俺たちの関係は答えが出ると思う。


「それでね、昨日のバラエティー番組は立て続けに面白くて~」

「俺も全部見てた」


校門を出て未玖と2人で歩いていると、何気無い会話をしてなんだか前に戻った様な気持ちになった。


つくづく思う。ケンカしたままにならなくて良かったと……。


美玖は俺にとって特別な存在であることに変わりはない。


「2人でどこか行くのは久々だよな」


「そうだね。学校の帰り道とかしょっちゅうね!ばったり賢ちゃんのお母さんと会ったりしてさぁ」


「冷やかしてくんだよな、うちの母親」


近くのショッピングモールに向かう。

その途中で莉乃と食べたラーメン屋の前を通った。


「あ、ここ……莉乃と食いに行ったとこだ」

「莉乃ちゃんと?」


「ああ、あいつさ、ラーメン屋なんて色気ないとか文句言うクセにさしっかり完食してんの。モデルのクセに大好きでさ、うまかったって言うのも小さい声で……素直じゃねーんだよな」


思い出すわ、色々。

莉乃は本当に素直じゃなかったけど、今ではそれさえもちょっと可愛く見えてきた。


最初は絶対コイツと仲良くなんか出来ねぇと思ったのに、案外仲良くできるもんだよなぁ。


「楽しそうだね」

「おう」


ショッピングモールについて色々見ていると、雑貨屋さんがありそこに未玖が入っていった。


美玖はこういう可愛いところ好きだからなぁ。


「わーこれ可愛い!」

「ふっ」


「どうしたの賢ちゃん?」


「いや、普通女子ってそういう女の子っぽいヤツ選ぶよなあ~と思って」

「普通?」


美玖が首をかしげる。


「いや莉乃のやつ、すげぇブサイクなの可愛いとか選んだりするんだよ。お前のセンスどうなってんだって思ってよ~」


俺がそんな話をしていると、未玖はくすりと笑った。


「どうしたんだよ?」


「ううん、ねぇ賢ちゃん!外のクレープ屋さんでクレープ買ってゆっくり話さない?」

「おう、いいな」


未玖が笑った理由が分からなかったが、俺たちはクレープを買って近くの公園に行った。


俺がチョコのクレープを買って、美玖がイチゴのクレープを買った。


いつもは半分ずつ食べくれべっこするけれど、今日はさすがにな……。


公園に行ってベンチに座る。


クレープを食べだすと、運悪く、近くに別れ話をしているカップルがいた。


「……もう、無理だから、ごめん」

「いやだ……別れたくないもん」


彼女の方……泣いてるな。

気持ちが変わって心が少し痛くなる。


そういえば、今頃莉乃は、どうしてっかな。


有川にこっぴどく言われて泣いたりしてねぇかな?


莉乃のこと泣かせてたら、許されねぇからな。


アイツは一途でまっすぐで、不器用だけど素直なやつなんだ。


守ってやりたいって思うほど……。


……ん?守ってやりたい?


いやいや、守るのは俺の仕事じゃねぇか。


仮でも付き合ってたからと言って、それは感情入りすぎだな。


今はもう、なんでもない関係なんだからそこまでする必要はねぇ。

でも莉乃の顔がチラついて消えなかった。


俺が莉乃のことを思い出し、不安になっていると、それを見た未玖は真剣な顔をして言った。


「賢ちゃん、別れよう」

「えっ」


ぱっと顔をあげると、美玖は穏やかな顔をしていた。


「賢ちゃん……私ね。本当に賢ちゃんは私にとって大事な人なの。1番特別な存在で自分よりも幸せになって欲しいって思ってる存在なの」


未玖……。

そんな風に思ってくれたのか。


「最初は、私の傷が原因で責任を持って付き合ってくれてるんだと思った。それが申し訳なくて、別れたいっていうのもあったんだけど……賢ちゃんと向き合ってきてそうじゃないことも分かったの」


俺は美玖のこと、責任とかで好きになったわけじゃない。

本当に美玖の人間性や性格に惹かれて好きになったんだ。


「だからね、ハッキリ言うね。だからこそ、私は賢ちゃんに近くにいちゃいけないんだって思ったの。だって私が賢ちゃんのことを、好きになれないから……気持ちに答えられないから……」


今までずっと美玖には言葉を濁されてきた。


食いつけば、押せば美玖のことだから俺を受け入れてくれるかもしれない。


そんな気持ちがあって、ずっと未練が消えなかったのかもしれない。


俺はずっとズルい恋愛の仕方をしていた。


でも今ここで、ハッキリと告げられた言葉を受け入れないといけないな。

遠くをみつめる。


「分かってたよ。未玖が俺を好きになれないってことは。頑張ってもたぶん無理なんだろうってことも、ずっと分かってた。ごめんな、ずっと離してやれなくて」


俺の言葉に美玖はブンブンと首を振った。


「私が悪いの。ずっと、自分の気持ちを伝えることに自信がなかった。賢ちゃんが私の側からいなくなってしまうのが嫌で……私も賢ちゃんのことを離してあげられなかった。ズルいのはお互い様、だね?」


美玖は歯を見せて笑った。


俺と別れてから、美玖が強くなった気がする。


自信のなさそうな表情も言葉もなくなって、はっきりと物事を伝えることが増えた。


きっと有川が美玖のことを変えたんだろうな。


俺には出来なかったことを……。


「これからは、友達として未玖には側にいてほしい」

「うん、私も同じ気持ちだよ」


俺たちは目を合わせて笑った。

するとその時。


「やだ……お願い、行かないで……」


別れ話をしている彼女が、彼氏に置いてかれ、泣き崩れているのが目に入った。


「莉乃……」


その瞬間、莉乃を思い出す。

莉乃もあんな風になっていたら。


早く駆け付けてあげてぇな。

アイツは強がりだけど、本当はすぐに泣くんだ。


泣き虫で、寂しがりやで強がりで……。


あの時、俺は莉乃に別れを告げた。


でも、一人にして大丈夫だったんだろうか。


うまく行かなかったら今の彼女みたいに……。


「賢ちゃん、もうデートはおしまいにしよう」

「えっ」


「莉乃ちゃんのところ行ってあげて」

「でも……」


「賢ちゃん、莉乃ちゃんがすごく大切な人になったんだね」


大事な人……?


「だって賢ちゃん、さっきから莉乃ちゃんのことばっかり考えてるでしょ?今日会った時、莉乃ちゃんの話をしてる賢ちゃんがすごく優しい顔してて、莉乃ちゃんのこと好きなんだなって思ったの」


俺が莉乃のことを好き?

いやいや、ちょっと待て、俺は別に莉乃のことを好きなわけでは……。


莉乃は友達で……。


「遊園地の時もさ、賢ちゃんが必死に莉乃ちゃんの名前呼んでるのをみて好きってこういうことなんだって思った。好きな人を守りたいって、ああいう時に出るんだなって」


「いや、でもそれは……」


違うって未玖に伝えようとしたけど、何も違くなかった。

確かに俺は、あの時莉乃しか見ていなかった。


本当だったら、前の俺だったらきっとすぐに未玖を見てたはずなのに、なんであの時俺は……未玖が一切目に入らなかったんだろう。


それは……莉乃が好きだから?

彼女を守りたいと思ったから……?


──ドクン。


その瞬間、胸が強く音を立てた。


なんだ、この音。なんで莉乃を想うとこんなに心臓が動いてるんだ?


「賢ちゃんも、割と鈍感だよね。自分のこと気付かないなんて」


鈍感……?

そんなことを美玖に言われる日がくるなんて思いもしなかった。


「ずっと一緒にいたから、わかるよ。賢ちゃんのこと。本当は賢ちゃん、莉乃ちゃんのことが好きなんだよ」


「……そ、っか」


俺は気付かないうちに莉乃のこと……。

未玖よりも心が動く、存在になってたんだな。


「いってあげて。それに賢ちゃんフラれてるかもって思ってるかもしれないけど、二人がより戻すってこともあるかもしれないよ?」


有川と莉乃がより戻す……?


全然考えてなかった。


でもそうか。美玖も有川によって変わったことがある。

だとしたら、有川だった美玖によって変わったってことだ。


人が変わったことで、有川が莉乃を大事にしたいと思う可能性もあるということ。


「……マジでやだ」


俺がポツリとつぶやくと美玖はふふっと笑った。


「賢ちゃん、今までずっと一緒にいてくれてありがとう。私たちは今日から一番仲のいい幼馴染ね!」


笑顔で言った未玖の顔はとても幸せそうで、俺はこれでいいんだと悟った。


「おう!」


本来はこうあるべきだった。

きっと前の俺だったら受け入れられなくて未玖を引きとめるだろう。


だけど今は違う。


これが一番いい選択なんだって彼女の言葉を聞いて、彼女の表情を見て思うことが出来た。


それはきっと3ヶ月のチェンジで特別な想いが生まれたからだ。


「俺行ってくる!」


自分にとって本当に大切な存在が出来て知る。


好きって、どういうことなのか。

その瞬間気持ちいい風がひゅっと吹いた。


「うお……」


その風は、色々あったものを取り除いてくれるみたいで俺の心はとてもスッキリしていた。


ああ、なんか莉乃に会いてぇ。


有川に色々言われて悲しんでたら、慰めてやりてぇし、うまく行って付き合ってたらどーすっかな。


それはその時考えるか。


とりあえず、会って顔みて思ったこと全部伝えてぇな。


アイツのことだからきっと「何言ってるのよ」って可愛くないこと言っといって、顔赤らめたりすんだろうな。


思えば確かにそうだった。


俺は莉乃のことを考えている時、自分では分らないほど顔が緩んでる。


「くっそ……なんで気付かなかったかな」


どうからかってやろうかとか今落ち込んでねぇかなとかそういうこと、無意識に考えちゃうのが恋ってやつなら俺のは紛れもなく、恋ってやつだ──。





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