【莉乃side】
「それでね~!美玖ちゃんは、潤から指輪をプレゼントされたんだって~!指輪って女の子の憧れよね!将来一緒に歩んでいく約束っていう潤の考え方もステキだし」
今、私たちは賢人とファミレスでご飯を食べているところだった。
先日潤と美玖ちゃんが旅行に行ってきたようで、その時のお土産と美玖ちゃんからお土産話を聞かされ、それを賢人に共有していた。
私はその話に大興奮ってわけ。
「まぁ……あのふたりが上手くいってるっていうのは俺にとっても嬉しいところだけど、俺だって指輪くらい買ってやれるけど?」
「分かってないわねー!そういうことじゃないの~!気持ちの問題だから」
きっと賢人はステキな指輪を選んでくれるんだろうけど、潤と美玖ちゃんのステキなところはお互いに、将来を約束し合った関係ってところだ。
信頼し合っているふたりならもう何も問題はないだろう。
「そうだ、賢人に言わないといけないことがあったんだった!」
私は伝えなきゃいけないことを思い出し、切り出した。
「何?」
「実はなんだけど……」
私は賢人話をした。
「はぁ!?キスシーンだ!?」
賢人の大きな声がファミレスに響き渡る。
「ちょっ、シー!」
なぜ賢人が大きな声を出したかというと、お仕事でドラマ出演のお話をもらって、その恋人役の人とキスシーンがあるお話にでることになったからだ。
賢人嫌がるだろうな、と思いつつも……私もやったことないことをやってみたくて、マネージャーにやりたいです!と伝えてしまった。
「それで、賢人に許可を取ろうと思って……」
「許可も何もねぇだろ。もう出るって決めたんだろ?」
賢人はぶすっとして不機嫌になった。
「それはそうなんだけど……一応言っておかないといけないと思って」
「嫌だけど?全然嫌ですけど?むしろ触れて欲しくもねぇのにキスなんてありえねぇじゃん」
「け、賢人……ごめんって」
こうなることは分かっていたんだけど、ここまで来ると賢人は拗ねモードだ。
「俺との時間はどんどん減ってんのに、他の男との時間はどんどん増えていくなんてなー」
「男って……仕事相手だし」
「分かってるよ。分かってる」
賢人はそういうと黙り込んでしまった。
シーンと静まり返る店内。
彼は自分にとって嫌なことがあった時、勢いで悪いことを伝えないように考える時間を作るようになった。
その間は、あんまり話しかけられないんだけど彼なりに頭の中を整理して、冷静になってくれる。
賢人はすごく大人になったと思う。
私と関わる人が年上の人も多かったりして「自分も大人にならなきゃいつ莉乃に愛想つかされるか分かんねぇし」と笑ってくれた。
でも、私の仕事のせいでたくさん我慢させてしまっているのは事実だ。
すると自分の中で気持ちがまとまったのか、賢人は喋り出した。
「……応援はしてる。莉乃の仕事が上手く行ってほしいし、俺が莉乃の足枷にはなりたくないから」
「賢人……」
「とはいえ、本当仕事モードにしろよ?」
「当然だよ!」
私は笑顔を作った。
ほら、こうやってね。納得して声をかけてくれるの。
きっと賢人じゃなきゃ私たちの関係は続かなかっただろう。
こうやって大人な賢人が隣にいてくれて、私はいつも安心してる。
それから食事が終わって、私たちはファミレスを出て賢人の家に行くことになった。
明日の仕事は午後からなので、賢人の家に泊まるつもりだ。
お泊りセットも賢人の家においてあって、来たくなったらいつでも来ていいと言われている。
私は家の中に入るとベッドに腰掛けた。
彼の部屋の雰囲気が妙に落ち着くのは、賢人の香りが部屋中に満ちているからだと思う。
「なんか飲む?お茶でも入れるか?」
彼が冷蔵庫に向かおうとしたのを、私は思わず袖を引っ張った。
「いいよ、後でで……今は、もう少しここにいて」
ぎゅうっと後ろから包みこむと、安心するんだよね。
「なんだよ急に……」
「好き」
賢人は一瞬驚いたような顔をしたけど、すぐに笑って私のことをぎゅっと包み込んだ。
「甘えモードの莉乃だ」
「いや?」
「ううん、すっげーかわいい」
賢人は私の頭をヨシヨシ撫でながら言ってくれる。
「でもさ、こうやってみんなの知らない莉乃の顔がどんどん色んな人に見られちまうつーのは寂しもんだな」
演技をする幅が広がって、女優として色んな面を見せる機会が増えてきた。
でも……。
「賢人に見せてる顔は、賢人以外誰にも見せないもん」
「本当かよ?」
「本当。大好きなんて心の底から伝えるの賢人だけだから」
それが彼氏の特別。
他の誰も知らない顔を賢人は知ってるし、賢人以外に見せるつもりはない。
「うちの莉乃ちゃんは可愛いね」
賢人が少し目を細めて私の髪に触れた。
彼の肩に頭を乗せると、賢人の体温が伝わってきて、なんだかほっとする。
私の居場所はここだけなんだって実感するなぁ。
「他の男に目移りすんだよな」
「目の前にドタイプのイケメンがいるのに目移りなんか出来ないし」
「ドタイプのイケメン?それは初めて聞いたな。ご機嫌取りで言ってるんじゃねぇの?」
「違うもん……」
「だとしたらよくねぇな……」
「どうして?」
「あんま可愛いこと言うと、襲いたくなる」
「どうせ後でまた襲うくせに」
「おい!」
賢人の反応に思わず笑ってしまった。
賢人が一番私のことを分かってくれる存在であることは間違えない。
ここは私の居場所なの。
1番ほっとして、肩を預けることが出来て、幸せを感じる。
「いつもありがと。賢人がいるから、頑張れるんだよ」
「そんなこと言ったら照れるだろ」
その温かさに包まれながら、私はふっと安心して目を閉じた。