奏が戻ってきたのは七時ちょうどだった。
追いかけていた猫が島にある小道をぐるりと一周し、朝食の時間ぴったりに帰ってきたからだ。
今皿に入れられたキャットフードを食べている猫は空野の家に住んでいるテイルだ。
並べられた朝食を食べながら奏は優雅に動くテイルの銀色の尻尾を見つめていた。
「猫にも付けられるんですね」
空野は黒瀬が作った煮物を小皿に取り分ける。
「付けるだけならなんでも付くよ。動かせるようになるにはリハビリがいるけど」
「させたんですか?」
「勝手にしたよ。猫にとって尻尾は姿勢の維持と感情を伝えるための大事な器官だ。日常的に使おうとし続けたんだろう。時間はかかったけど今じゃ普通に使えてる。猫好きは多いからな。サイトに載せてると月に一件ぐらい注文が入るんだ。バイオジョイント手術さえしてもらってれば日帰りで済むし、中々良い収入源になってくれたよ」
空野はハムを一切れテイルの皿に入れてやった。テイルはおいしそうにがっつく。
奏はこの猫に少し親近感が湧いた。立派に尻尾を使いこなしている。猫にできるなら自分にもできるはずだ。そう思うと希望が見えてきた。
黒瀬が島で採れたゆずとハチミツのジュースをコップに注いで奏に渡した。
「お散歩どうだった?」
「楽しかったわ。自然の中を歩くのって気持ち良いのね。小鳥も見たし、綺麗な花もたくさん咲いてた。あと自販機があったけど現金しか対応してなくてびっくりしちゃった」
二時間ほどの散歩だったが、新しい発見が多くて時間はすぐに過ぎていった。その分体は疲れていて、お腹が減っていた奏は黒瀬が作った料理をたくさん食べた。