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第13話

 練習が終わると二人は原付で商店へ向かった。

 島には商店が一つしかないが物が不足したり高価になったりすることはまずない。

 それは島民が入っている配送ドローン組合のおかげだ。月千円ほど払えば一日一度、本土と同じ値段で商品を持ってこられる。

 テクノロジーが進歩して最も恩恵を受けたのがここのような辺境だ。買い物はネット、配送はドローン、イベントはVR、仕事もオンラインで問題ない。

 黒瀬が前もって注文していた品を受け取るのを見て、都会育ちの奏は複雑な気分だった。

「便利な世の中ね」

「あはは。まあね。でもだからこそ大切なこともあるんだよ」

 黒瀬は背負っていたリュックに品物を移し替える。ほとんどが食品や日常品だ。たまに空野が注文したパーツが紛れている。

 店の中にも商品はあり、奏はそれを見ながら黒瀬に問うた。

「大切なことって?」

「人の営みだって。テクノロジーはそれを豊かにするものであって、人の存在価値を下げるものじゃない。ダメなんだよ。便利すぎると。心が貧しくなる」

 ハッとする奏に黒瀬ははにかんだ。

「って先生がよく言ってるんだ」

 奏は少し目を伏せ、小さく息を吐いた。

「……それが難しいんじゃない」

「ね。人って便利だとどうしても頼っちゃうし、怠けられるだけ怠けちゃう。だからアナログって大事なんだよ。農業もそうだし、ピアノもそうでしょ?」

「……そうね」

 奏は納得しながら自分の両手を見た。アナログと最新テクノロジーが同居している。

 ピアノは、人の演奏はどこまでもアナログであるべきだと奏は思っていた。人はそう単純じゃない。0と1で全てを割り切れないのだ。だが今はそうとも言ってられない。

 そのことに抵抗を覚えながらも奏はそれ以外に思いつかなかった。


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