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第22話

 こうして俺は両足を失った。

 俺を助けるには挟まった両足を切断する以外になかった。

 ロボットによる切断が行われ、止血が済むとドローンが山岳救助隊の施設まで運んだ。そこでAIと遠隔操作による手術が行われたらしい。

 意識が戻った時には麓の病院にいて、目を開けると妻が泣いていた。

 両足を太ももの真ん中から失ったことを聞かされた時は少し驚いたが、それよりも安堵していた。あのままだと確実に死んでいた。

 通報が一分遅れていれば俺はこの世にいなかっただろう。

 今の技術があればなんとかなる。楽観的だが俺はそう思っていた。

 そして確かにそうなった。

 保険に入っていたおかげで手に入った電脳義足はバイオジョイントの手術こそ痛みがあったが、それが済んだあとに始まったリハビリはスムーズに進み、元通り歩けるようになった。

 いや、元通りどころじゃない。ほとんど疲れない。

 建築現場の現場監督という仕事柄、歩いての移動が多い。だが復帰してから仕事での疲れがほとんどなくなっていた。

 前は夜になれば体のあちこちが疲れていたのに今は平気だ。家まで歩いて帰れと言われてもイヤじゃない。一度歩いてみたが、五キロの道のりがあっという間に感じた。

 例えるなら体を補助するパワードスーツを常に着けている感覚だ。いや、それ以上に楽だった。

 最新のテクノロジーはすごいなと思ったが、同時に不安も感じた。

 そしてその不安は的中した。妻の反対を押し切って再度挑戦した登山で俺は恐るべきスピードを持って踏破してしまった。

 麓を朝に出て頂上に着いたのが昼前。キャンプの用意もしてきたがおやつの時間には麓に戻ってきた。

 そしてやはりほとんど疲れない。そのせいか頂上からの景色も感動しなかった。なにかネットで流れている絶景映像でも見ている気分だった。

 俺は足を失い、そして得て、最も好きな趣味を失った。

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