娘の手術は無事に成功した。
切断された左腕と両足は元通りと言っていいほど精巧な義肢が装着されている。
子供の場合、成長と共に義肢を交換しなければならない。成長期の場合は一年に一度。足の長さもAIが予想した成長線に合わせて長くしていく。それもあり未来の左腕は右腕より僅かだが長く作られていた。
手術は終わり、手足も付いた。だが医者からの説明は未来に喪失感を与えた。
「もうてもあしもはえないの?」
その問いに大人達が優しく肯定すると、未来は泣きだしてしまった。
人の肉体より高性能だからとか、見た目も生身と分からないとか、生活していく上で不便がないとか、そういうことは慰めでしかなく、なにも解決していないことに気付かされる。一馬もまた娘の喪失感を深く理解できた。
子供だということもあり、リハビリはすぐに終わった。歩けるし持てる。それを理解すると未来は喜んだが、それも一時にすぎなかった。
自宅に戻るとあれだけ活発だった未来が一変して大人しくなる。外に行こうともせず、ずっと自分の手足を気にしていた。
「行きたいところはあるか? どこでも連れてってやるぞ」
一馬がそう言っても未来は首を横に振るだけだ。
「でもてもあしもないから」
失ったのは肉体だけじゃなかった。人を動かす上で最も重要な自信もまた事故は娘から奪い去った。
他の子と自分は違う。もう昔のように公園で遊ぶこともしたくない。ある人を見るとない自分が惨めになるから。未来は拙いながらもそう話した。
それを聞いて恵は涙を浮かべて娘を抱きしめ、一馬は「大丈夫だよ」と言いながらも娘の気持ちが誰よりも分かった。
自分は他人より劣った存在である。それを認めたくないから一馬は事故後も前と同じように山へと向かったのかもしれない。
そして理想と現実の違いを分からされ、楽しみさえも失ってしまった。
一馬は娘の柔らかく綺麗な髪を撫でながら顔を上げた。美しい青空が広がる。
その遙か向こうには最果ての島があった。