しばらくすると軽トラが芽衣を迎えに着た。そこから小柄で目つきの悪い男が顔を出す。
「お持たせしました。ちょっと忙しくて。乗ってください」
「……よろしくお願いします」
芽衣は怪しく思いながらも軽トラに乗り込み、揺られながら丘を登り、工房へと辿り着いた。空野は軽トラのドアを閉めて話しかける。
「あんまり時間がないんですってね」
「はい。大会はすぐですし、練習もしないといけないんで」
「分かりました。もうできてるんでさっそく付けちゃいましょう。杏。案内して」
空野が黒瀬を呼ぶと猫のテイルを抱きながらやってきた。黒瀬は芽衣を見るとニコリと笑う。
「お疲れ様です。遠かったですよね?」
「そうでもないです。飛行機からフェリーまですぐだったんで」
「あ。そっか。海外でプレイしてるんですよね。すごいなあ。ほらテイル。プロのテニスプレイヤーさんだよ。こんな人滅多に会えないんだから匂い嗅いどいた方がいいよ」
テイルは芽衣を眠そうな顔で見つめ、それからあくびをした。芽衣は苦笑する。
「私なんか全然ですから。テニスしている人がギリギリ知ってるかってレベルですよ」
「でもパラリンピックに出られそうなんですよね? それってすごいですよ」
「まあ、出られたらそうですね……」
芽衣の笑顔が陰った。もちろん黒瀬が皮肉で言っているわけではないと分かっている。それでも自分よりすごい存在が世界ならまだしも日本にもたくさんいる現状、自分のことを素直に褒められるわけがなかった。
それより芽衣は黒瀬の両腕と両足が気になった。外装も付けずに抜き身のままだ。
「あの、それって生まれつきですか?」
「えっと、そんな感じです。こうなるまで色々あって」
「そう……ですか……」
「気にしないでください。毎日色々と付け替えるんでこっちの方が安く付くんですよ」
「へえ。そういう使い方もあるんですね」
「テニスの時もそうですよね? AI規制があるから」
「そうですね。でも付けてたら日常生活くらいは送れるんでみんなあまり取り替えません。食事一つ取ってもトレーニングですから」
「なるほど。やっぱりプロのスポーツ選手はすごいなあ」
黒瀬の目が輝く。本気で尊敬してくれていた。これだけ褒められると芽衣も少し嬉しくなってくる。
この島も悪くないのかもしれない。そう思った芽衣だが、滞在時間は限られていた。