六話
私は本当に欲しいものを手に入れたことがなかった。
いつもそうだ。子供の頃、大きなクマのぬいぐるみが欲しかった。だけど父親が私の誕生日に与えたのはラケットだった。
テニスが大好きになってからも神様は私が本当に欲しいものはくれなかった。
大きな大会では優勝できない。あと一歩のところまで行ってもその先へ行けなかった。相手の幸運やこちらの不運が栄光を妨げる。
好きな人ができた時もすぐに誰かが奪い去った。彼女がいたり、できたり、または転校したこともある。
そしてあの日、とうとう腕まで失った。
私の人生は欲しかったものの代わりを手に入れてきた人生だ。
クマの代わりにラケットを。優勝の代わりに好成績を。好きな人の代わりにテニスへ打ち込み、そしてプロになった。
周りから見れば成績も安定しているし、プロとして長くやれているのだから成功しているのかもしれない。
だけど私が本当に欲しいものは何一つ手に入れられてなかった。
分かってる。私には大きな壁は越えられない。だけど目の前の壁なら別だ。いつも粘り強い努力で乗り越えてきた。
でもそれはベスト16をベスト8にするような努力だ。トップはおろか、決勝にすら残れない。
いつの日か私は心のどこかで諦めていた。いくら頑張っても限界は超えられない。
どれだけ努力を重ねても才能には勝てない。
目標は次第に小さく現実的になり、そして見失われていく。
だけど新しい義手を手に入れてから自分の卑屈さに気付いた。
諦めたフリをしながら追っていて、追いながらも諦めている。自分が傷つかないように、自信を失わないように立ち回っていた。
だがそんなことをしている人間が勝てるわけがない。
勝利とは全てを投げ出した先にある。それがこの歳になってようやく分かった。
だから私は諦めない。もう諦められない。諦めることはいつでもできる。
今やるべきは後悔しないように行動することだ。終わった時に笑っていられるようにすることだ。
そこまで考えて私はようやく気付いた。
私が本当に欲しいものを手に入れられなかったのは自分から手を伸ばさなかったからだと。
何かを失うことで得たいものが得られるなら犠牲を払うべきだ。
今の私ならそれができる。どれだけ目を瞑っても終わりが近いことは明らかなのだから。