二週間後。その日はずっと雨が降っていた。
黒瀬は珍しく一人でいた。今日は明里がいない。久々の孤独を寂しがる自分に黒瀬は少し動揺した。それほど最近はずっと明里と一緒にいた。
施設の中に明里はいなかった。今日は外で面会している。誰と会っているかまでは黒瀬も知らない。
だがなんとなくは予想できる。そしてその予想は職員同士の話から確信に変わった。
「こんなこと言っちゃだめなんでしょうけど、ちょっと残念ですよね」
「まあね。珍しく明るくて良い子だったから。誰とでも馴染んでたし、あの子の世話もしてくれてた。でも親と暮らせるならそれが子供にとって一番なのよ」
「でも許可出るんですか? 離婚したって言っても見過ごしてたわけですよね」
「こっちもギリギリの予算でやってるし、身寄りのない子供は増える一方だからね。言い方は悪いけど口減らしって見方もできるんじゃない」
黒瀬は本を読みながら彼らの話を聞き、そして覚悟をした。
もう明里とは会えなくなる。それは悲しいことだが、元に戻るだけでもあった。一番大事なのは明里の幸せだ。
黒瀬にはもう家族がいない。だが明里にはまだいる。その差は計り知れない。帰る場所があるならそれが一番だと黒瀬は思った。
なにより自分といれば明里に迷惑がかかる。どこかに移動するにも車いすを押してもらわないといけない。でなければすぐにバッテリーが切れて身動きが取れなくなる。
これでいい。黒瀬がそう思った瞬間、今まで築き上げてきた幸福が音もなく消えていった。そんな気がした。