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第63話

 二週間後。その日はずっと雨が降っていた。

 黒瀬は珍しく一人でいた。今日は明里がいない。久々の孤独を寂しがる自分に黒瀬は少し動揺した。それほど最近はずっと明里と一緒にいた。

 施設の中に明里はいなかった。今日は外で面会している。誰と会っているかまでは黒瀬も知らない。

 だがなんとなくは予想できる。そしてその予想は職員同士の話から確信に変わった。

「こんなこと言っちゃだめなんでしょうけど、ちょっと残念ですよね」

「まあね。珍しく明るくて良い子だったから。誰とでも馴染んでたし、あの子の世話もしてくれてた。でも親と暮らせるならそれが子供にとって一番なのよ」

「でも許可出るんですか? 離婚したって言っても見過ごしてたわけですよね」

「こっちもギリギリの予算でやってるし、身寄りのない子供は増える一方だからね。言い方は悪いけど口減らしって見方もできるんじゃない」

 黒瀬は本を読みながら彼らの話を聞き、そして覚悟をした。

 もう明里とは会えなくなる。それは悲しいことだが、元に戻るだけでもあった。一番大事なのは明里の幸せだ。

 黒瀬にはもう家族がいない。だが明里にはまだいる。その差は計り知れない。帰る場所があるならそれが一番だと黒瀬は思った。

 なにより自分といれば明里に迷惑がかかる。どこかに移動するにも車いすを押してもらわないといけない。でなければすぐにバッテリーが切れて身動きが取れなくなる。

 これでいい。黒瀬がそう思った瞬間、今まで築き上げてきた幸福が音もなく消えていった。そんな気がした。


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