深夜の丸の内は静かだった。
人通りは皆無だ。ガラスのないビルがそびえ立ち、時折除染のために詰まれた瓦礫が並んでいる。昼に降った雨が水たまりを作り、そこには東京駅と三日月が映っていた。
追っ手のことも考えて二人は赤色の線が引かれた道を選んだ。まだ除染は済んでないが、それはところどころだ。瓦礫に触れでもしない限り直ちに影響はない。
明里は黒瀬の車いすを押しながら呑気に笑った。
「どこに行こっか? やっぱり綺麗な海なら南の方だよね。沖縄ってとこがいいらしい」
「沖縄がどこにあるか知ってるの?」
「ううん。でもずっと南に行けばいつかは着くと思う。人って行きたいところに行き着くって言うし、世の中そういう風にできてるんだよ」
あまりにも無計画だった。だがだからこそ抜け出すことができた。あれこれと考えれば不安が邪魔をして身動きが取れなくなっていただろう。
ヒッチハイクをしようにも車はどこにも走ってないし、自動運転の無人タクシーに乗るお金もない。二人はあてもなく神奈川方面に向かって歩いていた。
食料は施設の炊飯器から米を取ってきて握ったおにぎりが二つだけ。水は持ってきたコップに除染済みの公園から水道水を汲んで飲んだ。
一時間。二時間と歩くが子供の足では一行に進まない。それでも二人は夜に身を隠しながら歩いて行く。
途中で睡魔が襲い、公園にある屋根の下に置かれた正方形のベンチで身を寄り添った。明里は黒瀬の体を優しく抱きしめる。
「杏ちゃんの体はすごく好き。だってあたしを傷つけないから」
少し肌寒かったが、お互いの体温が温めてくれた。二人の少女があてもなく歩く。それは恐ろしいことのはずだったが、思ったより心の中は清々しかった。