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第67話



 八話



 義手に触れたきっかけは祖父だった。

 俺が物心ついた時には既に祖父の左腕はなく、代わりに古い筋電義手を付けていた。本人から話を聞いたわけではないけど、仕事中の事故でなくしたらしい。

 祖父が筋電義手を付けるのは仕事の時くらいで普段はなにも付けてなかった。一緒に住んでいた祖父が物を運んだり、立ち上がったりするのを苦労しているところを見て、電脳義手があればいいのにと思っていた。だが値段が高く、祖父は必要ないと言うだけだった。

 俺はいわゆる機械オタクで、なんでもバラしては親に怒られていた。

 俺は構造が知りたかった。なにがどう配置されてどう動くのか。その機構が気になって仕方なかった。

 そんな性格と祖父の腕のことが組み合わされ、俺は当時最先端だと言われていた電脳義肢について学びたいと思っていた。

 親からしても食いっぱぐれない職は歓迎され、医大に新設された電脳義肢装具士学科に通うことになる。

 授業は正直つまらなかった。知ってることばかりだったし、実際に電脳義肢を組み上げるのは三年生からだ。そこまで待つのがイヤだった俺はアルバイトとして中小の義肢の会社に入り、そこで社員に混じって電脳義肢を組んでいた。

 組み立て自体は慣れれば誰でもできる。問題は構成だ。その人に合った構成を如何にして導き出すかが電脳義肢装具士には求められる。

 その設計力を俺は会社で学び続け、結果として大手メーカーから内定を貰った。

 大戦によって電脳義肢の需要は海外を中心に伸びていたため、そのメーカーは優良企業として認知されていたし、両親も喜んでくれた。

 だが待っていたのはつまらない日々だ。海外に輸出するのは主に量産品で、時折どこぞの金持ちからワンオフの依頼がくるくらい。それもベテランの装具士に仕事が回された。

 日本人向けの仕事もあるが、ほとんどが高性能化を目指した設計ばかり。他のメーカーとのスペック戦争に勝ち抜くことを上は至上命題としていた。

 なにかが違う。そう思っていた俺はあまりやる気が出ず、期待されていた裏返しで失望され、ドール事業へと異動になった。

 そこは最悪の現場だった。日本で需要が増えていたAI搭載の人型ロボット。通称ドールを組み立てる仕事だ。介護現場やセラピーなどに使う企業向けのものならまだいいが、俺が配属されたのは個人向けのドール工房だった。

 いわゆるセクサロイド。大人向けの高級性玩具だ。

 男性向けと女性向け、それぞれ注文が途切れることなく、会社としては稼ぎ柱の一つに成長しつつある部門だ。

 高度なAIを搭載して精密な動きができる電脳義肢と比べ、会話用のAIを搭載して簡素な動きしかできないドールは組み立てていてもつまらなかった。

 なにより仕事をしながら一体俺はなにをしているんだという自問が止まらない。こんなものを作るために技術を磨いてきたわけじゃなかった。

 十二歳くらいの女の子の体を組み立てている時なんて、俺は絶対ロリコンにだけはならないと誓った。

 それでも給料はよかったから仕事は辞めなかった。と言うより俺にはこれしかなかった。

 転職も考えたが、行き着いた先で理想の仕事があるとは限らない。そう思いながらも俺は仕事を続け、二年が経っていた。

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