しばらくして空野は電脳義肢の部門に復帰した。
空野の腕を買っていた大崎という男が部長になったのが主な要因だ。
空野としてもセクサロイドが勃起するかをチェックするかより、電脳義肢の仕事をした方が良いと考えた。それでもイヤなら転職すればいいと思いながらも義肢工房に通った。
待っていたのは前と同じ量産品の組み立てだが、前の部門よりは楽しめている自分がいて、やっぱりこれが好きなんだと再確認する。だがそこに熱意が生まれることはなかった。
空野にはこれと言った趣味もなかった。張り合いなどなくただ奨学金を返し、残りを貯金するだけの日々が続く。
つまらなそうに仕事をする空野を見て大崎は話しかけた。
「元気ないな。前はあんなに突っかかってきたのに」
「……諦めですよ。中小ならともかく大手だとオーダーメイドは高級なものじゃないとできない。できたとしてもハイカスタムばっかりです。それだと本当に欲しい人に届かないじゃないですか。でも給料は良いし、休みもある。だから諸々考慮しての諦めです」
「お前も大人になったな。悪い意味でだけど」
大崎は苦笑し、そして空野の肩をぽんと叩いた。
「まだ正式に発表はされてないけどな。今度うちで低価格のオーダーメイド品を作る部署ができるんだ」
「え?」
空野は驚いて顔を上げた。
「立ち上げに色んな部署から何人か連れてきて、最初は少人数で回してどれだけオーダーがあるか様子を見る。そこにお前を推薦しておいた」
「マジですか?」
「おう。よかったな。ようやくやりたいことができるぞ」
大崎は楽しげに空野の背中を叩く。
空野は入社してから初めて嬉しいと思えた。
同時に祖父の顔が脳裏に浮かぶ。価格が安いなら祖父も付けてくれるかもしれない。なにより空野自身からプレゼントできる可能性がある。
久々に希望が見えた空野は喜んで異動を快諾した。