特にやりたいこともなかった空野だが、久々の休暇を使って実家に帰ることにした。
実家から出る時はまだリニアの速度も遅く、自動運転のバスやタクシーも珍しかったが、田舎ほど普及していてあっと言う間に帰ることができた。
久々に会うと両親は喜んだ。空野は実家でゆっくりしながら気になることがあった。
「爺さんって今どうしてるの?」
「お爺ちゃんならまだ元気よ。畑しながらロボットの修理なんかしてるわ。壊れたのを安く買ってきてそれを直して使ってるの。あんたの性格はお爺ちゃん譲りね」
母親は楽しそうにそう言った。
空野は地酒を飲みながら片手がない祖父を思い出し、会いたくなった。
翌日。空野は実家の車を借りて同じ市内に住む祖父を訪ねた。畑でロボットが水を撒くのを見ている祖父は随分小さくなったように見えた。だがまだまだ元気そうだ。
祖父は孫の帰省を喜んでくれた。空野は筋電義手すら付けてない祖父の左腕を見つめた。
「今の時代。手首からなら百万もあれば電脳義手が付けられるようになったんだよ。一人だと色々不便だろうし、そろそろ付けてみれば?」
祖母は既に他界し、祖父は一人で暮らしていた。作業用のロボットはいるが、生活は色々と大変だろう。空野はそう思っていた。だが祖父はかぶりを振った。
「俺はこのままでいいよ」
「いや、でもさ」と食い下がる空野に祖父はない腕を見せた。
「なんだかんだで気に入ってんだ。ないってこともさ。見ようによっちゃあるんだよ。俺はこの手でお前の父さんを育てた。そんで息子はお前を育てた。手なんかなくてもやれたんだ。その誇りがこれにはある」
空野はハッとした。自分の中で燻っていたものの答えがそこにあった気がした。
祖父はぶっきらぼうに続けた。
「便利さだけが救いじゃない。本当に必要なのは生きがいだったりするもんさ。機械はそれを与えちゃくれない。それを与えるのはいつだって命だ。分かったらお前も土に触れろ」
祖父にそう言われ、空野は野菜の収穫を手伝った。久しぶりに触った土は軟らかくて温かくて、命の香りがした。
その晩、実家に戻った空野は家族で祖父の野菜がたっぷり入った鍋を食べたあと、本当は自分がどうしたいか、自分になにができるのかを考えた。