目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

番外編.4

お店を出たところで、嶽丸の会社のシステム部の人たちらしき集団に出会ってしまった。


「あ…由香さん?」


その中に混ざるのは、散々嶽丸に「タコ」呼ばわりされた中沢由香さん。



「…だから、俺の奥さん!マジのマジ!」


からかわれている嶽丸の背後に、由香さんは私の腕を取って引っ張ってきた。


そして挑戦的な目を向けられる。



「…今でも私、嶽丸先輩のこと好きですからね?」


「…え?」


「…ニューヨーク、私も行っちゃうかもしれませんよ?」


こちらの出方を見るような言い方…

私はぐっと唇を引き締めて、由香さんをまっすぐ見た。


「嶽丸は…」


すごく大胆なことを言おうとした。

ちょっと前の私なら言えなかったようなこと。



「私のことしか見えてないし、私のことしか愛さないから。私と嶽丸の間には、1ミリも隙間がないから絶対に入り込めないよ?」


「ほほぅ~…?」


なぜか笑みを浮かべる由香さん。


「嶽丸に言っておくし!…もし、由香さんが来ても、絶対に会わないでって。そうすれば嶽丸は私の言うこと聞くもん!だって私にメロメロなんだから!」




…ん?




「美亜…大胆発言?やるじゃん~!

…でもその通りだぞっ!」


いつの間にか皆が私と由香さんを囲んでいて、嶽丸が一歩私に近づいて抱き寄せる。


見ると由香さんは全然悔しそうな顔なんてしてなくて、逆に清々しい笑顔。


「サイコーです!美亜さん!さすが、出張を勝手にぶっちぎって、後輩の私を置いてきぼりにして、嶽丸さんが会いに行った人だけのことはあります!」


いつの間にかパチパチ拍手をされて、「おめでとう…!」の声と指笛が鳴らされた。


真っ赤になって両手を頬に当てるけど、嶽丸が構わず抱きしめるから…

もっと赤くなった気がする…!


……………………


賑やかに見送られ、私は嶽丸に連れられてホテルの部屋に入った。




「覚えてる?…この部屋、前に泊まったのと同じ部屋な?」


もちろん覚えてる。

ホテルに到着して、エレベーターに乗ったときから気づいていた。



今ならわかる。

あの日は、私にとっても大切な日だった。



嶽丸と、幼なじみの垣根を越えた夜。





私はあの時からずっと…自分で思うよりずっとずっと…嶽丸に惹かれていたのかもしれない。








…部屋に入った途端、花の香りがした。




薄暗いライトが、少しずつ明るくなって…嶽丸に導かれて行ったベッドの上に、大きなバラの花束が置いてある…



「赤と迷ったんだけど…美亜には白いバラの方が似合うと思ったから」




大きな大きな花束。

…数えなくても、わかる。

本数は多分、108本。


その意味は…





「美亜、俺と…結婚してください」





悔しいほどカッコいい嶽丸が、私の前に立って、手の甲にキスを落とす。




「…はい。こんな私でよかったら…」





差し出された大きな花束を受け取って、嶽丸は私に優しいキスをくれた。



そしてどこから出したのか…左の薬指に、ピンクダイヤが輝く指輪をはめてくれる。



「これ…」


「うん。虫除けね?」



ねぇ…っ!せっかくいい雰囲気なのに…!



「俺のもあるんだわ。美亜のとペア」


つけてくれる?と言われて、その長い薬指に、私のより少し幅広でシンプルなプラチナの指輪をつけた。


「そっちも虫除けだね!」


「もちろん。そのつもり」



俺モテるからさー…

なんて言うから…


泣き笑いの笑顔で見上げれば、私を子供みたいに抱き上げる嶽丸。



「でもさ!虫なんか絶対につかない!…言ってなかったっけ?俺、美亜じゃなきゃダメだって」


ベッドに座った嶽丸のひざにまたがる格好で座り、正面から嶽丸を見つめる。


「…どういうこと?」と聞いてみれば…


私が座る位置を少しずらして、その昂りを感じる場所に当てる。



「美亜にしか、こんな風にならない…」




吐息まじりに言った言葉が…始まりの合図…。


優しいのに長い長いキス。

角度を確かめるように啄むように、繰り返されるキス…


私は、今日のこの日を、絶対に忘れない…



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?