side.嶽丸
「なんかわりぃな。俺らも一緒でさ!」
「ほんとは渡米する前に会いたかったのに、嶽丸が美亜との時間を邪魔するなって言うから、仕方ないよね?」
美亜が俺の帰国を連絡したらしく、健と朱里が空港にいて驚く。
「何でもいいけどさ…美亜は?」
到着したってメッセージを入れてるのに既読もつかない。
愛する俺が半年ぶりに帰ってきたというのに、なんちゅー薄情な女…
まぁ、そういうとこも好きだけど。
「美亜は迎えには来ないと思うぞ」
健はそう言って、俺の手からスーツケースを奪う。
がぁぁぁん…と音がしそうなほどショック…
愛情に差がありすぎなんじゃねぇか?
「とりあえず、長旅でお疲れでしょ?
…いい店予約してんのよ!」
「…朱里ちゃん。キャラ変えた?…なんか風俗にでも連れていかれそうなんだが」
ふふ…っと笑う2人が不気味だ。
そして連れて行かれたレストラン。
いったい…いつになったら美亜に会えるのか…
何度目かのため息の後、それは…突然目の前に現れた。
「嶽丸…おかえりなさい」
背後から聞こえてくるのは、愛してやまない女の甘い声。
…いや、マジで甘い。そして優しい…
この生声を、俺がどれほど聞きたかったか…!
「…えぇっ?なになになに…?何ごと?」
振り返ってのけぞった…
のけぞって…椅子から落ちそうになった。
「…嶽丸?…美亜だよ?」
「…わかってるけど、」
美亜は…あの時の制服を着ていた。
白いブラウスに、ひざ丈のスカート。
紺色のハイソックスを履いて…
あの日と同じ、儚げな笑顔で立っている…
「…この前、実家に帰ったついでに、健のところにも寄ったの。そしたら制服がまだ取ってあって…」
俺がひとめぼれした、高校3年生の美亜を再現したらどうかと提案したのは健だという。
…じっと美亜を見つめる俺を見て、健が嬉しそうに言う。
「大成功…ってやつじゃん?」
「N.Y戻る時、制服持って行くって言いだしそうだよね!」
朱里ちゃんの声が聞こえて…
「いや。美亜ごと連れてくわ…」
立ち上がって、2人が見ているのも構わず、俺は美亜を強く抱きしめてキスをした。
…それからは忙しかった。
うちと美亜の実家に挨拶に行って結婚の報告をして、婚姻届を提出して…かっさらうように美亜を帰りの飛行機に乗せた。
「…プロポーズと指輪だけは渡しといて良かったぜ…!」
頑張った俺を褒めて欲しい…!
「…私って、本当に行っても大丈夫なの?」
「会社的に?…ぜーんぜん。本当は半年で、任された仕事をやり切るつもりでいたんだよ。美亜を日本に置いてけば、早く帰りたいから頑張れる…と思ってたんだけどさ…」
任された仕事はなかなか難易度が高く、とても半年では終わらなかった。
「…じゃあ、もうあんまり無理しないで仕事して?…私、ちょっとは家事やれるようになったから!」
料理教室に行ってる…なんて可愛い事を言うので、その場で抱いてやろうかと思った。
「…あとね、…仕事仲間がN.Yで働いてるから…少しアルバイトするかもしれない。前から英語の勉強してたし」
なにぃ…?
半年滞在してる俺より早く、N.Yに馴染みそうなんたが?!
…隣でニコニコ笑う美亜。
その顔は、幸せそうで…安心しきっていて。
あの日、アパートを追い出されて…
美亜にむちゃくちゃな頼み事をして本当に良かった。
あれだけフラフラしていたクズの俺が、愛する女をこんな表情にさせることができるとは…。
忘れていた初恋が叶った俺は、今最高に幸せだ。
「…ねぇ、あんまりとろけた顔しないでくれる?…恥ずかしいよ」
耳まで赤くする美亜が悪い。
…絶対、悪い…!
………………
やがて、1年の任期が終わり、日本へ帰国することになった。