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番外編.6

side.嶽丸




「なんかわりぃな。俺らも一緒でさ!」


「ほんとは渡米する前に会いたかったのに、嶽丸が美亜との時間を邪魔するなって言うから、仕方ないよね?」



美亜が俺の帰国を連絡したらしく、健と朱里が空港にいて驚く。


「何でもいいけどさ…美亜は?」


到着したってメッセージを入れてるのに既読もつかない。

愛する俺が半年ぶりに帰ってきたというのに、なんちゅー薄情な女…


まぁ、そういうとこも好きだけど。




「美亜は迎えには来ないと思うぞ」


健はそう言って、俺の手からスーツケースを奪う。


がぁぁぁん…と音がしそうなほどショック…


愛情に差がありすぎなんじゃねぇか?


「とりあえず、長旅でお疲れでしょ?

…いい店予約してんのよ!」


「…朱里ちゃん。キャラ変えた?…なんか風俗にでも連れていかれそうなんだが」


ふふ…っと笑う2人が不気味だ。



そして連れて行かれたレストラン。


いったい…いつになったら美亜に会えるのか…


何度目かのため息の後、それは…突然目の前に現れた。






「嶽丸…おかえりなさい」



背後から聞こえてくるのは、愛してやまない女の甘い声。

…いや、マジで甘い。そして優しい…

この生声を、俺がどれほど聞きたかったか…!






「…えぇっ?なになになに…?何ごと?」







振り返ってのけぞった…

のけぞって…椅子から落ちそうになった。




「…嶽丸?…美亜だよ?」





「…わかってるけど、」






美亜は…あの時の制服を着ていた。




白いブラウスに、ひざ丈のスカート。

紺色のハイソックスを履いて…


あの日と同じ、儚げな笑顔で立っている…



「…この前、実家に帰ったついでに、健のところにも寄ったの。そしたら制服がまだ取ってあって…」



俺がひとめぼれした、高校3年生の美亜を再現したらどうかと提案したのは健だという。


…じっと美亜を見つめる俺を見て、健が嬉しそうに言う。


「大成功…ってやつじゃん?」


「N.Y戻る時、制服持って行くって言いだしそうだよね!」


朱里ちゃんの声が聞こえて…





「いや。美亜ごと連れてくわ…」




立ち上がって、2人が見ているのも構わず、俺は美亜を強く抱きしめてキスをした。







…それからは忙しかった。


うちと美亜の実家に挨拶に行って結婚の報告をして、婚姻届を提出して…かっさらうように美亜を帰りの飛行機に乗せた。



「…プロポーズと指輪だけは渡しといて良かったぜ…!」



頑張った俺を褒めて欲しい…!



「…私って、本当に行っても大丈夫なの?」


「会社的に?…ぜーんぜん。本当は半年で、任された仕事をやり切るつもりでいたんだよ。美亜を日本に置いてけば、早く帰りたいから頑張れる…と思ってたんだけどさ…」


任された仕事はなかなか難易度が高く、とても半年では終わらなかった。


「…じゃあ、もうあんまり無理しないで仕事して?…私、ちょっとは家事やれるようになったから!」


料理教室に行ってる…なんて可愛い事を言うので、その場で抱いてやろうかと思った。



「…あとね、…仕事仲間がN.Yで働いてるから…少しアルバイトするかもしれない。前から英語の勉強してたし」



なにぃ…?

半年滞在してる俺より早く、N.Yに馴染みそうなんたが?!




…隣でニコニコ笑う美亜。

その顔は、幸せそうで…安心しきっていて。


あの日、アパートを追い出されて…

美亜にむちゃくちゃな頼み事をして本当に良かった。


あれだけフラフラしていたクズの俺が、愛する女をこんな表情にさせることができるとは…。


忘れていた初恋が叶った俺は、今最高に幸せだ。



「…ねぇ、あんまりとろけた顔しないでくれる?…恥ずかしいよ」



耳まで赤くする美亜が悪い。

…絶対、悪い…!






………………


やがて、1年の任期が終わり、日本へ帰国することになった。








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