「…おい!大丈夫か?こらっ嶽丸!」
健の声が聞こえてそちらに目を向けると、白いタキシードを着た嶽丸が、立ったまま私を凝視してるのがわかった。
「…どしたの?嶽丸…」
「どうしたもこうしたもねぇだろ」
コツコツ靴音を響かせて、私に伸びてくる手は、スルリと腰に巻き付いて…
「…綺麗すぎる」
緩やかに抱きしめるのは、きっと繊細なレースのドレスに遠慮して。
そんな嶽丸を見た健は、また始まった…と言わんばかりに呆れて離れていく。
「なんで肩丸出しなの?…そんな白くてツヤツヤな肌…美味しそうだと思う奴いっぱいいるじゃん…もっとこう…指先まで全部覆い隠すみたいなさぁ…」
「ご新郎さま…申し訳ありません…」
私のウェディングドレス選びを担当してくれたコーディネーターの方が、嶽丸の文句を聞きつけてやって来た。
「いや、おねーさんに文句はないよ」
「おねーさんじゃないの!コーディネーターさんっ!」
「…ターミネーターさん?!」
ポンっと手を打って、得意げに言い返す嶽丸。
「アホっ!」
私にアホ呼ばわりされて大笑いしてるなんて…今日が何の日で、自分がどんな格好をしてるのかわかってるのかな…
今日のために、嶽丸の長めだった髪は、少し短くしてざっくり横へ流した。
意外と凛々しい眉が、いつもより男前を上げてる気がする…
白いタキシードはベストが黒で、そのコントラストが、嶽丸にすごく似合ってると思う。
黙ってればホント、ものすごくカッコいいんだけど…
「このどエロいウェディングドレス、めちゃくちゃ似合ってるよ?悔しいけど。こんな大胆に肌見せして周りを魅了するの、俺のみゃーだからこそ…」
「…もういいから!嶽丸、行くよ?」
「…え、イク?」
「…バカ」
嶽丸とのやり取りに、コーディネーターさんが笑う。
…嶽丸の仕事が一段落して帰国して。
今日は私たちの結婚式。
私はあんまり派手にやらなくていいって言ったんだけど…
「みゃーのウェディングドレス姿、絶対見たい!」
嶽丸のたっての希望で、この日を迎えた。
チャペルの扉の前で、入場するタイミングを待っている私たち。嶽丸の腕に手を絡ませながら、ちょっと緊張してきた…。
「あー、早く帰って抱きたい…」
「うるさいバカっ」
「…このドレスのまま、ベッドに来てほしい」
「…もう!黙ってっ!」
嶽丸ときたら、心臓に毛が生えてるのかと思うくらい平常運転。
私に怒られて逆に嬉しそうで、ちょっと心配になってしまう…
…扉の向こうで、パイプオルガンが荘厳な音を奏ではじめた。
また緊張して、嶽丸の腕をギュっと握ってしまう。
「…美亜?」
呼ばれて、また変な顔でもして笑わそうとしてるのかと見上げてみれば。
意外なほど優しい目に出会ってドキッとする。
「この先、どんなことがあっても俺が美亜を守るから」
…真剣な顔の嶽丸、ちゃんとしてれば本当にカッコいい。
「愛してるよ」
腕に回す私の手を、ぎゅっと握ってくれて…
「嶽丸…」
すごく、安心した。
扉がふわりと開け放たれた。
厳かで高らかな音楽に招かれるように…一歩、また一歩、嶽丸と2人…誓いの場へと歩いていく。
あぁ…嶽丸との人生が始まった。
切ないくらい胸が高鳴る…
困っちゃうくらい…涙が止まらない。
この後どうするんだっけ…
神父さんの言葉を聞いて「誓います」って言って…指輪を交換してベールをあげて…あぁっ!どうしよう…もう涙でメイクがひどいことになってるよ…
「美亜、泣きすぎw!」
2人で神父さんの前に立った途端、嶽丸が私のベールをあげて、涙をぬぐってくれた。
でもちょっと待ってよ…順番が違うじゃん…
「…ここでベール上げるんじゃないでしょ…?」
涙声で抗議すると…
「そんなのいいから!俺たちらしい結婚式をしよう」
そのまま私に口づける嶽丸。
「病める時も健やかなる時も、狂いそうなほど愛しい美亜を、全力で守ると誓います!」
…初めはアワアワしてた神父さん、今は嶽丸なりの愛の誓いに笑顔で頷いてくれた。
「私も、病める時も健やかなる時も、嶽丸のことずっと愛してます…。美味しいご飯作って、一生懸命家も綺麗にして、疲れて帰る嶽丸を癒し続けます!」
家政婦は嶽丸だったのに…いつの間にか、私もいろいろできるようになったよ。
「…サイコーっ!」
嶽丸は私を抱き上げ、クルクル回す。
列席してくれた人たちからも、割れんばかりの拍手と指笛が鳴らされ…
私たちらしい結婚式を挙げることができた。
…………
「神父さん、指輪の交換だけ立ち会ってもらうことになっちゃって、悪かったなー…」
仕事減らしちゃった、と笑う嶽丸の膝に座って、その胸に抱きつく私。
披露宴も無事に終わって、ホテルの最上階に今日は一泊する。
「えへへ…こんな結婚式は無効!とか言われなくて良かった!」
「だったら喜んでもう1回やるけどな?あのどエロいトレス姿、また見れるし…」
フフッと笑いながら降りてくる唇を受け止めて、私たちの夜が始まる。
今日は結婚初夜。
…嶽丸が満足するまで、お付き合いする所存です…♥
そして2年後…
私たちは、双子の男の子と女の子のパパとママになりまして…