寒い寒い冬の日の朝早く。1匹のメルトペンギンが空から降ってきた。
「うおぉぉお~っ!はじまった!はじまったよ!」
「……うるさ……。なに。あんた」
そのメルトペンギンの後に降ってきたもう1匹のメルトペンギンが迷惑そうに顔をしかめた。
「あっごめんごめん!でもほら!目が覚めたんだ!はじまったんだ!この目が覚めてすぐ落ちていく感覚がたまらないんだ!」
「私は嫌ね……だって怖いもの……」
「怖いのかい?じゃあほら、手をつなごう。君はひとりにならない」
「大きなお世話よ……大体あんたなんて知らないし……」
「ああ、僕はレオン。よろしくね。」
「……きいてない」
「君の名前は?」
「……」
「ねぇねぇ」
「……みぞれ」
「みぞれちゃん!ほら!行くよ!」
「あっ……別にいいのに……」
レオンはみぞれちゃんの手を取ってふわふわと落ちていく。やがて2匹は針葉樹の森に降り立った。
「うん、やっぱりこれがなくっちゃ!」
「……それ、なに?」
「これ?えへへ。なんかね、僕、葉っぱを頭につけると落ち着くんだ」
「なんか……ちょっと違う感じもするけど……」
「違いがわかるのかい?」
「いや……なんとなくそう感じただけ」
「みぞれちゃんにもつけてあげようか?」
「遠慮しておくわ……」
「よーし!葉っぱもついたし元気十分!さぁ、溶けるまで遊ぶぞー!」
「……ほんとに元気ね」
「逆にみぞれちゃんは何か元気ないね」
「別に……ただ、つまんないなって思って」
「どうしてさ?」
「毎回同じじゃない。目が覚めたら地上に降りて、溶けたらまた眠って……その繰り返し。つまらない……」
「そうかな?確かにそれだけ聞くと、同じことの繰り返しみたいだけどさ。でも毎回違うことが起こるんだよ」
「そうかしら」
「そうだよ!僕だって、頭にのせる葉っぱは毎回同じじゃないよ。長さだって色だって毎回違う。それに、歩く途中でも色んなものを見つけるんだ。それは楽しいことだよ。つまらなくなんてない」
「前向きなのね……。私は別に、動くこともしないでその場で溶けていくわ……」
「でも僕は、君に出会えたことも、良い事だったと思ってるよ」
「なんで私なんか……」
「みぞれちゃんはつまらないと言うけれど、それなら僕が元気を分けてあげられるんだよ。うん、友達になろうよ。次の繰り返しも、その次の繰り返しも、みぞれちゃんには違った景色を見せてあげる。そうしたらきっと、何度目かの繰り返しで気づくはずなんだ。世界はこんなにも楽しかったんだって」
「……ほんと……大きなお世話よ……」
そう言いながらもみぞれちゃんはレオンの手を握った。
「ほら、陽が昇るよ」
冷たい森を暖かく染め上げる朝の日差しが、キラキラとあたりに反射して輝く。何にも興味を持たなかったみぞれちゃんは、この輝きをしっかりとみるのも初めてだった。
「綺麗……」
「そうでしょ!ほら、もう見つけた!」
そうして身体が溶ける頃までレオンはみぞれちゃんを引っ張って歩いた。
「もうそろそろお別れかな。ほらみて。僕の葉っぱがもうくっつかないや。あはは」
「レオン……また、会える?」
「会えるさ!約束したでしょ?次も、その次も、君には新しい景色を見せるんだって!」
「……また……ね」
「うん!また会おうね!」
みぞれちゃんはやっと笑った。そうして、消えていった。少ししてレオンも消えていった。楽しみでたまらないといったように。