春がやってきた。
この町は異常に寒いため、春だろうと他の町よりも随分寒い。そのため雪だって俄然降る。
いくらか暖かく感じ始めた時期ではあるが、しかしその気温は常に氷点下を下回っていた。
今日だって雪が降っている。
「んー、今日も寒いね」
通学路を歩きながらミラちゃんに話しかける。
「そう……まだ……寒い……」
「でもなんとなく春を感じる景色にはなってきたと思わない?」
「ん……思う……」
「ミラちゃんは暖かくなるにつれてちょっとずつ動きが速くなるからね」
「……むふー」
「あ、いや別に褒めてるわけじゃないんだよ?」
「む……」
「ほら見て。雪の下から緑色の芽が見えてる!」
地面の上で溶け出した雪からは鮮やかな色の新芽が顔を覗かせていた。
「ほんと……」
「踏まないようにしなきゃ!」
「うおおおっ!」
そこに唐突に走ってくる子どもがひとり。
「きゃっ!」
私たちの間を割くように走り抜けた。
「へへーっ!なにちんたらしてんだい!」
その少年は私たちをバカにするように振り向き様に煽りを入れた。
「こらっ!危ないから走っちゃダメ!」
そんなイタズラには動揺しないが雪の溶けかけた道を走るのは危険だ。私はしっかり注意することにした。
「滑ったりなんかしないよ!この靴には滑り止めがついてるんだい!」
屁理屈で返されてしまったが。
「そういう問題じゃ……」
「むむ……」
「ん?ミラちゃんどうしたの?」
ミラちゃんは渋い顔をしながら地面を見つめていた。
「……芽が……潰れてる……」
「あ……」
「なんだいなんだい?」
「みて……これ……」
ミラちゃんはその少年の首を掴むとその芽の近くまで顔を近づけさせた……。
「ぐぎぎ……なにしやがんだ……」
「あなたが……潰したの。この生命を……」
「生命って……ただの芽じゃん!」
「そんなあなたも……人間の芽……潰してあげようか……?」
そう言いながらミラちゃんは冷酷な表情で手に力を込めた。
「ちょ……ちょっとミラちゃん!怖いこと言わないで!」
「う、うぅ……なんだこのねーちゃん……ヤバイよ……」
「……あなた、名前は?」
「い……言うかばーか!」
少年は走り出そうとした。……が、ミラちゃんに捕まっていて走れなかった。
「や……やめろばばぁ!だれか!だれかー!」
少年がめちゃくちゃに暴れて振り払おうとするもミラちゃんからは逃れられない。
「騒ぐな……」
「ミラちゃん、流石にやばいよ……!」
「む……こいつが悪い……」
「私たちもう中学生なんだから……!」
「む……」
私がそう言うとやっとミラちゃんはその手を離した。
「お、やっとわかったか。へへんっ!」
途端に少年は泣きべそをかいていた表情を改め生意気に笑いだした。
「やっぱり……むかつく……っ!」
それを見たミラちゃんは少年の手首を捻りあげた。
「あだだだ!はなせぇっ!」
「ミラちゃんっ!お姉さんでしょ!」
「メグ……」
ピタリとその手が止まる。
「う……」
「ごめんなさい……」
そう言うとミラちゃんはおとなしくなった。
「あ……」
「やっと離したか……くそ……」
捻られた手を振りながら吐き出すように少年が言う。
「キミも悪いんだからねっ!みんなが歩いてるところに急に走ったら危ないし!草が生えてるような道路端を歩くとケガするよ!」
「ちっ!わかったよ!」
わかったという言葉とは裏腹に苛立ったように舌打ちをしたのが気に食わなかった。
「はぁ……まったく……困ったコ……」
「むむ……反省してない……」
ミラちゃんはまたも手が出そうになっていた。
「もういいよほっとこ。キミ、そんなんだとみんな怒るんだからね!」
「うるっせぇばばぁ!」
「んまぁ!」
そう言うとその子どもはまた走っていってしまった。……何もわかっていない!
「もうっ!ほんとに頭きちゃうよね!」
再び通学路を歩きながら先程の出来事を反芻する。
「やっぱり……潰せばよかったのに……」
ミラちゃんは表情を変えずに恐ろしいことを言う。
「物騒なのはだめ!でもちゃんと反省して欲しかったなぁ……」
「むむ……今度会った時が……楽しみ……」
「な……なにするつもり?」
「ふふふ……なんでもない……」
ミラちゃんは何かを企んでいるかのように笑っていた。
「会わずに済めばいいけど……」
「んん……それにしても……中学……遠い……」
ミラちゃんがかったるそうにぼやく。
「確かに遠くなっちゃったね。あの頃のミラちゃんは小学校まででも大変そうだったもんね」
「あと……寒い……」
「それは前から……って、そうか。ミラちゃんっていっつもすごい厚着してたもんね」
そう、今のミラちゃんは制服着用の義務によって厚着を封じられてしまったのだ。
「制服……忌々しい……」
彼女はスカートの裾を引っ張りながら恨めしそうに制服を見つめていた。
「でも似合ってるよ!ミラちゃんって身体のラインがわかんないくらい厚着してたからよくわかってなかったんだけど、かなりスタイルいいよね?」
「……?」
全くよくわからないといった反応だ。
「自分じゃあんまりわかんない?」
「うん……」
「私はどう?」
くるんと1周回ってみた。
「……メグは……ちょっと大人っぽくなった……」
「どこどこ!?」
「む……さっきみたいなとこ」
「昔の私みてるみたいだったからさぁ……って!違う違う!見た目!」
「……メグは……メグ」
「え~」
「でもそれが……一番……」
そう言うとミラちゃんは優しく微笑んだ。
「うん……それもそうだね!」
なんか話の流れが変わった気もしたけど……。
「む……遅刻しちゃう……」
「あ、ほんと!」
「急がないと……」
「ミラちゃんが急ぐっていうのも……大人になったところだよねぇ」
「む……そんなことないから……。置いてくよ」
「わぁっ!待って待って!」
ミラちゃんは数年前とは見違えるようにスタスタと学校へ向かった。……まぁあの服のせいで動きにくかったのかもしれないけどね。
遅刻することなくしっかりと教室に来ることができた。
「おはよ~!」
ドアを開けてしっかりと挨拶する。
「やぁメグ。おはよう」
既に教室にはロイがいて私の挨拶に応えてくれた。
「……おはよ」
「ミラもおはよう」
「ロイー。きいてよ~。今朝ね、変な男の子に絡まれて~」
「えっ!?なんだよそれ!一体誰が……!」
ロイが前のめりに反応する。
「……落ち着いて。メグも……言い方が悪い」
「えへへー。心配してくれるかなって思ってさぁ」
ミラちゃんにツッコまれやや照れくさく頭をかいた。
「心配するさ!それで、どういうこと?」
「……尊い生命を踏みにじったやつがいたの」
「ミラちゃんの方こそ言い方が悪いよー!」
「ふふ……」
結局ミラちゃんもまともに答えずに笑っていた。
「はぁ……話が進まないよ。もう一度だけきくけど、一体どういうこと?」
やや呆れたようにロイが言う。次は無さそうだ……。
「小学生にバカにされたの!」
「なんだそんなこと……」
「そんなことってなにさ!そんなことって!」
「小学生だろ?誰にでもチクチクした言葉を投げるよ」
「……誰かみたいにね」
「……はは」
ロイは目を泳がせていた。
「言われた方はいや~な気持ちになるからねぇ」
もちろんそれを見逃しはしてやらない。
「う……悪かったって」
ロイはバツが悪そうに謝った。
「でもクラス一緒で良かったよね。このクラス第2小で一緒だった子、あんまりいなかったもん」
「ちらほらって感じだね。でも逆にこれから知り合える人は多いんじゃない?」
「ロイがそんなこと言うなんて……ロイも大人になったんだねぇ」
「そんなことないっての」
「ロイ……大人?」
「え?」
「ロイがあの子どもを見たら……どうなってたかな?」
「そりゃあ……平然とした大人の態度を……」
「よし……じゃあ今日の帰りを楽しみにしてて……」
ミラちゃんは何か策があるようだ。
「は?」
「通学路が同じなら……必ずまた会える……」
なるほど!確かにそうだ!
「ちょっと待てよ!それこそ大人気ないって!」
「逆に大人らしくない?」
「かしこい……」
「そういう狡猾な大人らしさは知らない方がいいよ……」
「待ってろよー!ギャフンと言わせてやるんだから!」
「大人らしさを試すはずが仕返し目的になってるじゃないか……」
「はっ!」
興奮してつい私も好戦的なことを口走っていた……。
「まったく……」
「でもでも!ロイもきっと懲らしめたくなるって!」
「んなこと言ったら過去の自分に痛い目を見せなきゃならないって」
「過去の自分にすると思ってさぁ!」
「それ1番だめなやつだから!やられる側は1番意味わかんないからね!」
「む……じゃあ私たちは……黙っていなきゃならないの?」
「ま……まぁ、そうでもない」
「潰して……いいの?」
ミラちゃんは嬉しそうににやける。
「そうは言ってない!要するに!示唆してあげることが大事なの!」
「しさ?」
「注意?」
「注意ともまた違うかな。相手にそれとなく教えてあげるんだ。あの時期の子は反発するからね」
「例えば?」
「行動で示す!」
「どういう……?」
「こっちが正しい行動だということを見せつけるんだよ」
「そんなことしたら付け上がるんじゃない?」
「やがて気づくよ。困った顔をしてやることが大事だね」
「ふぅん」
「じゃあ……今日……早速……」
「う……うん。気は進まないけどね」
「よーし決まりー!」
そうして私たちは通学路に待ち構える作戦を決行するのだった。
「ここここ!」
「あ……芽が……」
そこには朝潰されたはずの芽が元気に顔を出していた。
「わっ!良かった!生きてたんだ!」
「良かったじゃない。じゃあもういいね?」
そう言ってロイはそそくさと帰ろうとする。
「待てーっ!そうじゃないでしょ!」
そうは問屋が卸さない。ここで帰らせる訳にはいきません。
「だめか……」
ロイはがっくりと肩を落とした。
「当たり前でしょ!今回はとりあえずあの子の名前をきくまでは帰らないよ!」
「はぁ……」
「む……ロイ……やる気十分……」
「どこを見てそう思った?」
「よし、小学生たちが続々と下校しているよ!」
「というか中学生の僕たちより早く帰ってる可能性の方が高いんじゃないの?」
「ふっふっふ……実はその点は問題ないよ!」
「なぜ?」
「あの子の学年だけはわかっているからね!」
「ほんと……?」
「そう!あの子の肩にはゼレフワッペンがついていた!」
ゼレフワッペンとは!ゼレフの小学生のうち最上級生である6学年の生徒がつけることを義務付けられているワッペンなのである!
「てことは……1つ下なの?」
「あんなガキが……?」
「こーら、口悪いよ」
「私……ばばぁ……あの子……ガキ……」
「根に持たないの」
「む……」
「なんだ、怒ってないのか?メグ」
「あったり前じゃーん!あの子を正しい方向に導くためにきたんだから……!」
「あ……きた……」
「なんですってー!?」
「冷静にな……」
私の視界に朝のあの子が飛び込んできた。
「ミツケタ……」
「ちょ……メグ?君さっき言ったこと覚えてるよな?」
「うおおぉお!」
私は叫びながらその男の子に向かって突進した。
「な、なんだなんだ?」
その子は私を見て驚き逃げ出そうとしたようだったが、一瞬の硬直が勝敗を分けた。
「ぐあぁぁあっ!」
私の、勝ちだ。
「メグーーッ!なにやってんだよ!」
「はっ……これは……違くて……!」
「なにがだよ!」
「む……ずるい……私も……踏んどこ……」
ミラちゃんは倒れた男の子を何度か踏んでいた。
「てて……な、なんなんだいあんたら……」
唐突な出来事に何が起きたかもわかっていない少年が弱々しく声を上げる。
「ん?忘れちゃった?」
「どうも……ばばぁです……」
「うげげっ!あ……朝の……」
顔を上げた男の子がミラちゃんを見るなり顔をひきつらせた。
「話はきいたぞ」
「ちょっ!誰だよ!男連れてくるとか意味わかんねーし!」
「なんか誤解を招きそうな発言だな……」
「お友達なんだよ」
「けっ!なんだい!おれのこと力で押さえつけようってんだろ!」
少年は拗ねたように腕を組みそっぽを向く。
「そんなことしないよ」
「嘘つけ!おれにはわかる!」
「む……もしかして……」
「あ?」
「お前……いじめられてる?」
「は……はぁっ?んなわけねーし!おれがいじめられるとか……」
少年はミラちゃんの一言にあからさまに動揺した反応を見せた。
「どうしてそう思ったの?」
「む……こいつ……ロイを見ての反応が……」
「なんだい!」
「……多分だけど……意地を張りすぎ……それでクラスの女子にも八つ当たりしてるでしょ…?」
「ぐ……っ!」
「えっ!合ってるの?ミラちゃんどうして!?」
「私には……わかる……エスパーだから……」
「ほんと!?」
「……うそ」
「……」
「でも……朝の様子から見ればわかる……」
「なるほどねぇ。ちょっと前の僕みたいな感じ?」
「いや……ロイは別にそこまでじゃないけど……」
「この子は調子に乗ったまま改めようとしないってことかな!」
「はっきり言ってやるなよ……」
「な……なんだいあんたら……好き勝手に言いやがって……。おれだって、おれだって……」
ついに少年が耐えられなくなったように震え出した。
「じゃあ仲直りしたいんでしょ?」
「う……うん……」
ようやく素直になったようだ。
「よし!じゃあお姉ちゃんたちが一緒に考えてあげるよ!」
そう言って私はドンと胸を叩く。
「えぇ……?」
「まぁまぁ、きっとなんとかしてみせるから!」
「わかったよ……」
「とりあえず君の名前を教えて?」
「……ユード……ユード・ラング」
「私はマーガレット!メグって呼んでね!」
「……ミラだよ」
「ロイ・テディスだ」
「君はユー君ね。じゃあユー君。まずは君のことを教えてもらおうか」
「えっと……何日か前のことなんだけど……おれはいつも通りにしてたはずなんだよ。でも急にみんなよそよそしくなったんだ……。それで腹が立って怒鳴ったら女子が泣いて……それからはみんなもっとよそよそしくなって……それでおれが怒ってケンカになったんだけど……1人じゃ勝てるわけなくて……それで……」
「負けたのね……」
「負けてねーし!ケンカやめただけだし!」
そう言ってユー君はうるさく吠え立てる。
「……まぁいいけど……」
「でもさぁ、急に、なんてことはないはずよ?ユー君が何かしちゃったんじゃないかなぁ?」
「なんもしてねーし……」
「じゃあさ、朝ユー君が悪いことしたの、わかる?」
「朝?……?」
まるで何があったのかわからないというように首をかしげる。
「はい、確定」
「はっ?」
「お前……もう忘れたの……?」
そう言ってミラちゃんがユー君に詰め寄る。
「ちょ……ちょっとまって……えっと……」
「走って私たちにぶつかりそうになってそのうえ花の芽を潰したでしょ!」
本当にわかってなさそうなのではっきり言ってやった。
「あっ!」
「はぁ……あなた、自覚がないみたいね」
「それじゃあいじめられるわけだよ。そのうえふんぞり返ってるわけだろ?」
「ぐぐ……」
ユー君は唇を噛み締める。
「いやそこは認めなさい?じゃなきゃ仲直りなんてできっこないよ?」
「だって!だっておれ悪くないもん!」
「いいや、悪いの。全く……自分のやったことが正しいかどうかちゃんとわかるようにならないとだめよ」
「……はい……ごめんなさい……」
しゅんと下を向きようやく謝罪の言葉を口にした。
「お、えらいぞ。ちゃんと謝れるじゃん」
「じゃあちょっと……クイズしよ……」
唐突にミラちゃんが言い出す。
「クイズ?」
「うん……善悪クイズ……」
「なんだいそれは」
「しちゃいけないこと……当てるの」
「そんなの簡単だい!」
ユー君は勢いよくガッツポーズをした。
「じゃあやってみよう!」
「第1問……。あなたが楽しくゲームで遊んでいる最中に、他の子がやってきました……。その子がゲームをやりたいと騒ぎ出しました……あなたならどうしますか……?」
「そんなの決まってらい!ぶんなぐる!」
ユー君は勢いよくガッツポーズをした。
「……第2問……。あなたが好きな作品を、他の子がバカにしはじめました……。あなたならどうしますか……?」
「許すもんか!ぶんなぐる!」
ユー君は勢いよくガッツポーズをした。
「…………第3問……」
「もういいよ!多分この子何聞いてもぶんなぐるよ!」
「へへんっ!あったりめぇよ!」
そして彼はもう何度目かもわからないくらいに調子に乗ったガッツポーズを再びしたのだった。
「……お前は……それが正しいと思ったのね……?」
「おうっ!」
次の瞬間、ミラちゃんは素早い一撃をユー君に放った。
「いたぁっ!」
「……どう?」
「どうって……痛いにきまってらぁ!」
ユー君が頭を抑えながらキッとミラちゃんを睨みつけた。
「そう……痛いでしょ……?じゃあ……お前に殴られた子はどうかな……?」
それを聞いたユー君はしばらく考えてからぼそりと呟いた。
「……痛い……」
「……確かに気に入らないことってあると思うよ……。でも、だからって暴力で解決するのは良くない……。お前だってさっき言ってた……力で押さえつけるのはよくない……。どうしてお前はしているの?」
「それは……」
「お前が……痛くないからでしょ……?」
「……」
「自分が痛いのはいや……他の子はいい……そんな考え方をしたままじゃ……救いようがない……」
「…………」
「……わかってくれた……?」
「……うん」
「よし……」
ミラちゃんはさっき叩いた頭を今度は優しく撫でてあげるとユー君の背中をぽんと叩いた。
「じゃ……もう大丈夫」
「えっ!そんな簡単な問題?」
「うん……わかってくれたもん」
「いや……うーん……」
「そうでしょ……?」
「おうっ!」
ユー君は威勢のいい返事をした。
「単純というかなんというか……その場しのぎかもしれないぞ?」
「む……ロイ……信じてあげなきゃだめ……」
「そうは言ってもだな……」
「わかったよ!信じてあげようよ!」
「メグ……」
「だってさ!ミラちゃんがこんなに言うんだよ!?絶対大丈夫!」
「ありがと……」
「ところでミラは暴力を振るっているが?」
「む……これは……示唆」
「がっつりやってた……」
「まぁ実際こういう子はやられないとわかんないよ」
「……そう。1番効果的……」
「なら……うん……」
そして翌日の放課後。3人で通学路を歩いていると後ろから声をかけられた。
「ミラ姉ちゃん……」
「お前は……ユード。……どうしたの?」
今日のユー君は傷だらけだった。
「おれ……おれ……うぅぅう……」
ユー君はミラちゃんにしがみついて泣き出してしまった。
「あ、こら……」
「ん……別にいい……」
咄嗟に引き離そうとした私を制してミラちゃんはユードの頭に手を置いた。
「おれ……やりかえざなかったよ……」
「……それで……?仲直りはできた……?」
「だめだった……やり返さないからって……みんなで……」
「それは……お前がケンカで何もしなかっただけになってるんじゃない……?」
「え……」
「ちゃんと言ったの……?ごめんなさいって……」
「……言ってない……かも……」
「なら伝わるわけない……」
「そうだよユー君!ちゃんと仲直りしよって言わないと!」
「だって……無視するし……」
「じゃあなんで……殴られるの?」
「それは……」
「相手がやるならそれはもう相手も悪いよ。ユード、君はもう被害者ですらあるんだ」
「まぁ……はじめたのはこいつだけど……」
「でももう反省したんでしょ?」
「……した」
「まぁ……きっかけも欲しいところ……か」
「うん……そうかもね」
「みんなが仲良しになれるようなきっかけ?」
「そんなの…………ある」
ミラちゃんが何かに気づいたように言った。
「え?」
「ロイが……変わったきっかけ……」
「まさか……メルトペンギン!?」
「そう……」
「いやでもあれはめったに来ないって……」
「メルトペンギン?おれもみたことある!」
ユー君が声を上げた。
「まぁうちらも第2小だからね」
「もし……メルトペンギンがくれば……みんな幸せ……仲直りも……できる……」
「いやそれは……どうかなぁ?」
「……できる……」
ミラちゃんは随分とメルトペンギンに思い入れがあるようだ。
「まぁ実際すごくいい気分になるからね。もしかするとうまくいくかも!」
「だが問題はメルトペンギンがそううまく来るかってところなんだけど……」
「まだ春先……ありえなくはない……」
「すごく寒い日しか来ないと思うんだけどなぁ」
「明日……きっと来るから……だから……ユードも明日まで頑張ってみて……。姉ちゃんと約束……」
「う……うん……」
ミラちゃんはユー君に指切りしてあげた。
「あ!ユー君照れてるー!」
「て、照れてねーし!」
「……照れてる?」
「ばばぁっ!」
そう言うとユー君はミラちゃんを突き飛ばすようにして離れた。
「……む……」
ミラちゃんは口を尖らせた。
「あ……ごめんなさい……」
しっかり謝れたね。
「ん……えらいぞ……」
「その調子なら大丈夫そうだね!よーし、じゃあ明日は仲直りだ!」
「うまくメルトペンギンがくるかねぇ……」
「ロイっ!だめだよそんなこと言ったら!」
「あ……あぁ」
ユー君と別れた私たちはまた3人で歩いていた。
「ね、ミラちゃん。あんなこと言っちゃって大丈夫?」
「なにが……?」
「メルトペンギン!来るわけないでしょ?」
ユー君を安心させるためだと思った私はやや嘲笑気味にミラちゃんに尋ねた。
「……来るよ」
「なんでわかるの?」
「だって……メルトペンギンは……幸せを運んでくるもの……」
「それは……そうだけどぉ……」
どうやらミラちゃんは本気らしい。
「うん……まぁ来なかったとしてもさ。ミラがこれだけ言うんだからきっと大丈夫さ」
「そうかなぁ……」
「でもミラ、怒ってたっぽいのにかなり真剣に向き合ってるよね」
「別に……怒ってない……なおしてほしいだけ……」
「ミラちゃんは優しいんだからね!」
「それは知ってるけど……」
「んふ……」
「あ、喜んでる!」
「……」
ロイに褒められて一瞬緩んだ表情は私が茶化すとすぐにへの字口になった。
「よし、じゃあ私たちもお願いしようよ!メルトペンギンが来てくれるように!」
「む……?」
「メルトペンギンさぁーん!明日来てくださーい!」
私は大きな声で空に向かって叫んだ。
「……メグ?」
「ほら、みんなも!やって!」
「……メルトペンギンさーん……きてくださいぃ……」
私に続いてミラちゃんまで空に向かって声を上げる。
「え、これ僕もやるの?」
「ミラちゃんだってやったよ!」
「うー……はいはい……メルトペンギンさーん!来てくださーい!」
「うるせぇぞ!」
「あ、すみません……」
ロイが声を上げると道を行くおじさんに怒られてしまった……。
「ま……まぁ!おじさんに伝わったならメルトペンギンにも伝わってるよ!」
「その理屈はおかしいけど……怒られ損にはしたくないしね!きっと伝わった!うん!」
「む……みんな……ありがとう……」
「ミラちゃんだけの問題じゃないからさ!」
「私は……約束したから……」
「だ、大丈夫だって!そんな気負わないで!ね!」
「うん……」
ミラちゃんは言った手前本当に来てくれないと不安なようだ……。
「みんなでお願いしたんだから!くるくる!」
「わかった……!信じよう……!」
ミラちゃんは少し元気になったようだ。
翌朝、空には太陽がしっかりと輝いていた。
「この天気じゃ……雪も降らないかなぁ……」
ミラちゃんを案じつつ登校を開始した。
「む……メグ……」
「あ、ミラちゃん。おはよ」
「おはよ……」
「……あー……大丈夫!」
「……うん……」
肩を落としたミラちゃんは登校中何も話さなかった。
「おはよう。……その様子だと、気にしてるみたいだな……」
教室でロイが話しかけてきた。
「うん……せめてもう少し曇ってくれればね……」
「……」
「……大丈夫……きっとメルトペンギンがいなくたって仲直りしてるよ……」
「……」
空模様と相反してミラちゃんの表情はどんどん曇っていくのだった……。
そして放課後……。
「とうとう晴れたままだったね……」
「……くすん」
こっちはもう雨模様である……。
「あー……ミラ……心配するなって。な?君がそんなに気にしたってなぁ」
「約束したから……私……約束……したから……」
そう言いながらミラちゃんは泣き出してしまった。
「あぁっ……ミラちゃん……」
「大丈夫だって!大丈夫!」
「……うぅ……う……」
「ミラちゃんが悪いわけじゃないじゃん!ね!」
「……ぐすっ……むぅ……」
「ミラちゃん……」
「……ユードは……信じてたはずだから……」
「……」
「……行こう。ユードに会わないと」
私たちは黙ってロイについて行った。
ユー君と会ったあの通学路で待っていると、ユー君がやってきた。
「あ、ユー君……」
「……うそつき」
昨日より傷だらけになったユー君はミラちゃんにそれだけ言うと去っていってしまった……。
「あ……あぁぁ……」
ミラちゃんはその場で崩れ落ちて泣き出してしまった。
「ミ……ミラちゃん!」
「あいつ……ミラがどれだけあいつを思ってたか……!」
「もういいよ!今はほっとこうよ……」
「……うぅ……私が……私が……」
「大丈夫……ミラちゃんは悪くないから……ね……」
「ひっく……えぐ……ぐす……」
「いやだめだ……我慢できない。僕、ちょっと行ってくる」
「え?ちょっと!ロイくん!無駄だって!」
「無駄じゃないッ!」
そう言うとロイくんはユー君と逆方向に走っていってしまった。
「えっ……そっちは……」
「おいお前らッ!」
僕は第2小の校庭にいたゼレフワッペンをつけた生徒に声をかけた。
「な、なにこの人?」
「中学生?」
「ユードってやつ知らない?」
「なにあいつ、中学生にも喧嘩売ってるの?」
「あの弱虫ならもういないよ」
「こらしめてやったから。へへー」
「なにが楽しくてそんなことしてんだよ……」
「え?」
「あいつは仲直りしようって言ったんじゃないのかよッ!」
僕は力いっぱい叫んだ。
「そんなの……バカにしてるに決まってんじゃん……」
「……あいつは殴り返してきたか?」
「……え……」
「やり返してこなかっただろ……?なんでだと思う……?」
「それは……」
「真剣に言ってたからだろ?それをお前ら……」
「はい、そこまで。お前なぁ~……なに小学生相手にケンカしてんだよ」
唐突に僕の話を遮る声がかけられる。
「ケンカじゃないッ!」
冷静になれなかった僕はその声の主すら確かめずに怒声を上げていた。
「っとと……落ち着け……お前らしくない」
「先生!」
そこにいたのは小学校の時の僕の担任教師だった。
「で?何があったんだ?」
「それが……」
僕は先生に事情を説明した。
「僕も、部外者が立ち入るのはよくないと思ってたんです。でも……あれだけ心配していたミラがさらに追い詰められちゃうのを見ると……」
「なるほどね……俺が担任なら良かったんだがあいにく6年は担当外だ……。だがほっとくわけにもいかないな」
「先生!」
「大丈夫だ、安心しろ。俺が絶対なんとかするから」
そう言うと先生は僕に向けてにっと笑った。
「よかった……これならミラも安心するよ」
「ははっ。しかしお前らも大人になったもんだな」
「え?」
「お前がこんなに熱血とはしらなかったぞ?」
「う……」
そう言われると恥ずかしくなる。正直理性を失っていた状態に近かった。
「ミラも知り合ったばっかの子のためにそんなに気負うなんてな……これだから子どもたちってのは面白い」
「せ……先生……」
「あぁ、変な意味じゃないぞ!この状況に関しては面白い状況じゃあないからな!」
「それはそうですよ!」
「まあそういうわけで……覚悟しておくんだな?お前ら」
「ひっ!」
小学生たちは青い顔をしていた。
「おーい!メグ!ミラ!」
しばらくしてからようやくロイくんが戻ってきた。
「あ、ロイくん!んもう!方向音痴!ユー君はあっちだよ!」
「いや流石にそんな長い時間迷ってるわけないだろ……ミラ!もう大丈夫だ!」
「えぐっ……えぐぅ……」
「まだ泣いてたか……」
「大丈夫って?」
「実はね、先生が来てくれて……」
「えっ!学校行ってたの!?」
「そうっ!それで絶対俺がなんとかするから安心しろって!」
「うわー!すごい!頼もしい!ね!ミラちゃん!きいた!?」
「せ……せんせ……?」
ミラちゃんが泣き腫らした顔を上げる。
「うん!そう!先生が何とかしてくれるって!」
「でも……私も……そうやって約束して……だめだったよぅ……」
「ま……まぁまぁ……流石にメルトペンギンを呼ぶなんてのは無茶だからさ……」
「ぐす……」
「そうそう!先生がそう言ったんなら大丈夫だって!」
「ほんと……?」
「うん!」
「む……じゃあ……信じる……」
「うんうん!」
ようやくミラちゃんは涙を拭いて立ち上がった。
「よかった……やっと泣き止んでくれた?」
「む……泣いてない……」
「それは流石に無理があるぞ……」
もはや先生に任せる他なかったので、私たちはそのまま帰った。多分ユー君もとっくに帰っちゃっただろうしね。
「あ、ミラちゃん!おはよー!」
翌日私はいつも通りミラちゃんに挨拶した。
「む……メグ……おはよ」
「お、今日はちょっと元気になった?」
ミラちゃんもしっかりいつも通りだ。
「うん……先生……頼もしいから……」
「よーし!今日はじゃあユー君と仲直りだね!」
「嫌われちゃった……かな……?」
「大丈夫だって!ロイも頑張ってくれたしミラちゃんだってずっと願ってたんだからわかってくれるよ!」
「うん……」
教室につくと早速ロイが話しかけてきた。
「おはよ。ミラ、大丈夫?」
「おはよ……うん……今日は……大丈夫……」
「そっか。よかった」
「あの……ロイ……ありがと……」
ミラちゃんはロイの制服を引きながら感謝を述べた。
「え?」
「昨日……私……何も出来なかったから……」
「そんなことないって!ミラがあれだけ頑張ったから僕もカッとなって……実際先生がいなかったら僕もちょっとまずいことになってたかも……」
「カッとなったって……ロイ何したの?」
「小学生にケンカ売った」
「えー!」
「む……そんなことまで……ほんとに……ごめん……」
ミラちゃんは申し訳なさそうに頭を下げる。
「いいって!ほんとね、僕も自分でもわかんないよ。なんでこんな熱くなったんだって……」
「ミラちゃんが大切だったんじゃない?」
「それは……そうだけどさ!」
「お?」
「勘違いするなよ!変な意味じゃない!」
ロイは恥ずかしそうに大きな声で否定した。
「……ふふ」
「笑うなって!」
「あはは。ロイ面白いなぁ」
「まぁあとはどうなっても、ね。先生でもだめだったらもうどうしようもないからさ。そうしたら……悪いけど諦めよう。これは逆に約束しようか。いいね?」
「……うん……。悔しいけど……そうなっちゃったら……もうあの子のことは忘れる……」
「うん……そうだね。そうしたら私も忘れる」
「よし、決まりだね」
「頼むよっ……先生……っ!」
そして、運命の放課後が訪れる。
「あー……どうかなぁ……」
私たちはあの通学路に来ていた。
「多分ユー君も気まずいと思うよ。だって昨日ミラちゃんにひどいこと言っちゃったんだから……」
「……」
ミラちゃんは唇を噛みながら小刻みに震えていた。
「緊張してる……?」
「……うん……」
「大丈夫……」
私はミラちゃんを抱きしめてあげた。
「うん……」
しかし待てども待てどもユー君は来なかった。
「んー……入れ違った?」
「いや、結構待ってるからそれはないんじゃ……」
「まだ帰ってないのかな?」
「別ルートで帰った?」
「……待ちきれない……学校……行こ?」
そわそわとしたミラちゃんが私の手を引きながら促してきた。
「んー、そうしよっか」
私たちは待ちきれずに第2小に向かうことにした。
「まさかもうここに戻ってくるとはね……」
私たちの母校ゼレフ第2小。数ヶ月前に卒業式をしたばかりだというのに私たちはこの場所に帰ってきてしまった。
「まぁ今回は特別だよね」
「乗り込んだ人もいるし……」
「まあそれは……ね」
「む……ゼレフワッペンの子が見当たらない……」
「ちょっと職員室に行こうか」
私たちは先生の許へ向かった。
「おう、久しぶりじゃんか」
職員室で先生を探そうとしたら扉を開けた瞬間に先生が声をかけてきた。
「あ、先生!先生先生!」
「な、なんだよ」
「わかってるんでしょ!」
私はただそれだけを言って先生に詰め寄る。
「まあな。ユードの件だろ?」
「そう、それ!」
「実は今学級会議中だ」
「えっ!こんな時間まで!?」
「白熱してるようだからな……だがまあ時期に終わるだろう。どうだ?茶でも……」
「あ、入れ違うと困るんで……」
「そうか……」
先生はちょっと寂しそうな顔をした。
「しかしなんだ……制服姿、似合ってるぞ」
「やだぁ、先生ったら」
「へんたい……」
「ちょっ!そういう意味じゃないって!今の時代そういうの敏感なんだからやめろよな……」
「えへへ」
「得にミラなんてなぁ。ずっと厚着だったからな」
「やっぱり……へんたい……」
「だぁっ!だからそういう意味じゃないっての!」
「あはは。でもわかりますよ。ミラはあの厚着脱いで大人になったなぁって思います」
「ロイまで言う……?」
「見た目の話じゃないよ。ユードのために頑張ったじゃん」
「それは……」
「素直にすごいと思うよ。ミラ」
「……む……」
「私も!ミラちゃんほんとに大人になった!」
「なんなのもう……」
ミラちゃんは恥ずかしそうに顔に手を当てる。
「照れるな照れるな。お前らみんなちゃんと成長してるよ。はっはっは」
先生は今度はすごく嬉しそうに笑った。
しばらくするとざわざわと廊下が騒がしくなった。
「お、終わったかな?……まぁ、結果がどうなったかはわからないが、お前らがやったことは正しいことで偉大なことだ。それだけは言っておく」
「はい!」
「じゃあまたな。また元気な姿を見せてくれな」
「はーい!」
私たちは先生に別れを告げて職員室を出た。
「さて、どこに待ってればいいかな?」
「とりあえず校庭に出ようか。廊下だと人目に付く」
「だね」
私たちは校庭でユー君が出てくるのを待った。
「なんだ?中学生がいるー」
「先生に用?」
「あ、もう済んだからいいよー」
「ふぅん」
「長くなっちゃったから早く帰らなきゃ」
「ねー」
数十人の生徒たちが帰って行った。
ユー君はまだ来ない。
「あれ、遅いね」
「………」
「ちょ、ミラちゃんすごい汗だよ?」
「……うん」
「落ち着いて、ね」
「……うん」
ミラちゃんは湯気が出るんじゃないかってくらいふしゅふしゅ言ってた……。
そしてついに待ちわびた人影が現れた!
「えっ!」
校舎から現れたユー君は酷く驚いた顔をしていた。
「な、なんでここに……」
「ユード……」
「……」
ユー君は黙ってこっちに近づいてきた。
「ごめんなさいっ!」
ミラちゃんの目の前に来てユー君は深く頭を下げた。
「あ……えっ……」
「おれ……昨日……その……ひどいこと言って……」
「じゃあ……もしかして……今日……」
「うん……みんな許してくれた……」
「よ……よかった……よかった……!」
そう言うとミラちゃんはユー君を抱きしめた。
「えっ……は、ちょっ!何して……」
「よかったよ……よかったぁ……」
ミラちゃんはぽろぽろと涙を零していた。
「な、泣くなってぇ……そんなキャラかよ……」
「何言ってんのよ!昨日もミラちゃんずーーっと泣いてたんだからね!」
「えっ!」
「ぐすっ……泣いてない……」
「ご……ごめんなさい……」
「ううん……いいの……私……嘘ついちゃったから……」
「……昨日は……どうかしてた……だからほんとに……ごめんなさい」
「じゃあ仲直りだね!」
「うん……仲直り……」
「やったー!」
「そろそろ……離して……」
「あ……ごめん……」
「ふぅ……苦しかった……」
「惜しいことしたなぁっ。ミラちゃんがせっかく抱きしめてくれたのに」
「苦しいだけだっての!」
「照れちゃってぇ」
「でもよかった……これで安心だね……」
「うん!ありがとうミラ姉ちゃん!」
ユー君は最初に会った時とは似つかないくらいすっきりとした笑顔になった。
「素直になったじゃない」
「だって助けてもらったもん!」
「よっし、じゃあ今日はお祝い!しよ!」
「お祝いって……なにするの?」
「ん~……」
勢いで言ってはみたものの何も考えていない……。
「話はきかせてもらったぞ!」
背後から大きな声が響いた。
「あ、先生!」
「よかったな、お前たち。そんなお前たちのために俺は出費を惜しまないぞ!」
唐突に現れた先生が腕を組みながら宣言した。
「と、言うことはー!?」
「駄菓子パーティだ!」
「うわーい!」
「先生……せこい……」
「ま、まぁまぁ!買ってくれるだけいいじゃん!」
「よーし、お前ら!あの駄菓子屋まで走れぇえ!」
「そんな青春っぽくいっても片付かないよ!」
先生は本当に駄菓子屋まで走っていってしまった。
でもそれを追って走る私たちは、最高の笑顔だったと思う。