「こ、これは……!?」
季節は寒さ満ちる頃。
ある人物がインターネット上にてメールを受け取り、驚愕していた。
――突然のメール失礼します。
昏仕儀タカカミです。
覚えていますでしょうか?ええそうです。10年以上前にお世話になった者です。
突然ですが明日、貞凪高校にお邪魔します。時刻としては早いですが朝の八時ごろにお伺いします。
もしいらっしゃらないようでしたら帰ります。それではこれにして失礼します。
追伸。『例の事件』ですが私の方に情報があるので確認も兼ねて向かいます。
なお、このことに関しては他言無用でお願いします
十二月某日。深夜。そのメッセージがSNSを通して貞凪高校の校長先生に届いた。そのメッセージをパソコン越しに見た時、校長は背筋が凍った。
「
汗を拭い、校長は手元の新聞を確認しながらそのメッセージをもう一度読み返す。
(いやしかし……何か知っているのか!?)
しばらく考え込む。座っていた椅子がきしんで音を立てる。
(明日……か)
新聞を手放してスマートフォンを取り出すと彼は何処かに電話をかけ始めた。
「もしもし?あ、私ですが――」
翌日、彼が来るであろうその日の早朝。
その日は平日でほとんどの学生が苦い顔をしながら登校を始めていた。朝練に勉強にと理由は様々である。
「すみません皆さん、今日は朝早くから」
職員室内には学校の教師全員がいた。全員が校長先生に視線を向けており、その内一人の教師が不思議そうな顔で彼に問いを投げる。
「どうしたんです?こんな朝早くに集合って?」
「ああ、すみません。実は……今日彼が来ることになりまして」
「彼?」
「ええ。所謂OBです。ただ……」
「あ!もしかして有名な人なんですか!?」
別の陽気な教師が嬉しそうに反応した。その顔に校長は顔をしかめた。
「まあ……でも。彼が帰るまではどうか静かにいつも通りに授業を進めてほしいのです」
「え?それだけですか?」
「ええ。それだけです」
校長以外の教師一同は疑問を浮かべた。やがてまた別の教師が質問を投げる。
「あの、本当に誰が来るんですか?」
「それは……」
バツの悪そうな校長の顔に教頭が反応した。彼もまた十一年前以上前からここにいた人物である。
「まさか……彼ですか!?十一年前の事件の――」
「教頭先生」
「……あ、ごめんなさい」
――十一年前の事件?
――どういうことだ?
「あー皆さん説明します」
ざわつき始めた教師たちに校長は説明を始めた。十一年前の事件について。その時の騒動、その顛末を。
「そんな事が……」
知らぬ者もいた。タカカミの父が起こした事件は何せ十一年前も前の日だったからである。
「ええ。そして彼にはもう学校には来ないでほしいと連絡しました。理由としてはこれ以上の混乱を避ける為であって、当時の事件をぶり返さないようにという意味も込めていたのです。」
「じゃあなぜ彼の来訪を受け入れたのですか!?」
一人の教師の大声でざわつきは大きくなる。
「ええ。実は彼は先日に起きた事件について……この学校に関わっている者たちの事件について手掛かりがあると言っていて……それで私に直接質問がしたいと言ってきたのです」
「事件?」
「……ホテル爆破事件ですよ」
「あ!まさかあの!?」
ホテル爆破事件。二日前に世間を大きくざわつかせたその事件を、その事件は教師たちもよく知っていた。
二日前の夜、都内某所のホテルにて突如爆発が発生。爆破元は最上階に設置されたホールで丸ごと吹き飛ぶ大惨事に見舞われた。しかし、死傷者はゼロ。そう、そこには誰もいなかった……ということになる。
「あのホテル爆破事件とその元生徒に何の関係が?」
「ええ。実はその爆破されたホールでは貞凪高校のOBが同窓会を開いていたのです。……彼と同じ代のOBが」
『ええっ!?』と教師陣から声が上がる。
「ちょっと待ってください。それ初耳なんですけど!?……」
「あれ?でもその事件って確か死傷者が見つからなかったのでは?情報規制でもあったのですか?」
「それが……彼が何かを知っているかもしれないのです」
「まさか彼が犯人なのでは?!復讐のために皆を殺したとか!」
「それは……ないでしょう。死者も出ていないと警察から伺っていますし」
「それでも学校に入れるのは危険じゃないか?最悪の場合、彼が復讐目的でこの学校で事件を起こすことだってあり得ますよ!!」
はっきりとした教師の声を校長は縮こまりながらも受け止める。
「ええ……ですので学校周囲には私服警官を待機させてます。彼を見かけたら検査をするようにとお願いしておりますので」
「はあ。よく警察官にそんな依頼できましたね。というより協力してくれましたね」
「十一年前の事件のことに加えてその爆破事件について話をしたんです。復讐目的の可能性もあり、今回防犯も兼ねて今回協力を取り付けられました」
「そうでしたか」
警察が見張りに来るという事もあったのかやがてざわつきは小さくなる。
「それで、彼は今日のいつ来ると?」
「昼休み明けに来ると言ってました」
校長の肌には汗が流れていた。
「生徒達にはどう説明します?」
「いやいらんでしょ。心配させたらどうすんのさ」
教師たちは何処か心配そうであったがやがて予鈴が鳴ると校長先生の『いったん授業の方準備してください』という声の元に散り散りになった。
そして午後、その時は来た。
校長室。中にいたのは校長先生唯一人。
当時を知る最後の一人である教頭先生はというと午後から出張の為、不在となった。
――すみません、校長先生。後はお願いします。
教頭は申し訳なさそうに彼に謝っていた。校長もタカカミの来訪が急な話だったこと、教頭の出張は前から決まっていた点から仕方ないとして教頭を送り出した。
(大丈夫だ。彼だって……彼だって――)
心臓の音が否応なしに内にて響く。
校長は外の風景を見ていた。寒空の下では生徒たちが懸命に走っていた。
(なんだ……?やはり例の件なのか?だとしたらちゃんと謝罪すべきだ。彼だって父の事もある。そう簡単には――)
「あの……校長先生」
「あ……ごめん。もしかして」
「はい。見えました。今は昇降口にいます」
いつの間にか他の先生が見えていた。校長は『通してくれ』と教師に伝えた。
「いよいよか……」
対峙する二人。
昏仕儀タカカミは何をしに来るのだろうか。
そして二日前の『ホテル爆破事件』に彼はどう関わったのだろうか。
校長の心臓は未だその心音を激しくしたままである。