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第28話 検証配信

 小雛と曽我部の二人は現在、第十階層にて探索を行っていた。


 洞窟のような見た目をした第十階層は地下神殿のような様相を呈している。


 基本的に暗いダンジョンの例から漏れず、洞窟というフィールドであるため、この階層もまた他の階層同様に薄暗い。


 光源となる光る苔がなければ、見通すこともできないほどに暗い階層になるだろう。


 地球のどの歴史、どの文化圏にも見られない様式の壁彫りの像が随所に見られ、奥には祭壇があるため、ダンジョンマニアや考察が好きな層には人気の高い階層でもあった。


 そんな重厚感のある第十階層に似つかわしくない声で。小雛が元気に挨拶を始めた。


 「みんなーー!今日も元気―?私は今日も元気にダンジョン配信!今日は第十階層をスペシャルゲストと共にお送りしたいと思いまーす!」


 ────はじまた


 ────まってた


 ────きちゃぁぁあああ!!


 ────ゲスト?


 ────ソロじゃないのって珍しいね


 配信モードに切り替わった小雛が新しく購入した自動追尾機能付き自立型浮遊撮影機────通称ダンジョンGOPRO2Xの前で元気よくお決まりの台詞と共にゲストの紹介をした。


 「どうもー小雛ちゃんと同じくダンジョン探索者をしています中級探索者の曽我部明人ですー」

 ────は?


 ────は?


 ────なんでこいつ!?


 ────男かよ


 ────よりにもよってなんでデマ流してる奴とコラボすんだよ……


 ────!?


 ────正義の味方キタコレ!


 ────お?デマの弁明配信か?


 早速コメントの流れは加速を見せ、嫌悪感を見せる元からの小雛ファンに加え、曽我部のSNSでの告知を見て流れ込んできた曽我部のファンが入り乱れ、コメント欄は混沌とした様相を呈していた。


 今は小雛を擁護する声と曽我部を叩く声が色濃く反映されているが、それも時間が経つにつれて徐々に小雛を叩くコメントが目立つようになっていく。


 思い込みの激しい人間の誹謗中傷と、面白半分で揶揄う様なコメント多くなっていくが、小雛はそれを意に介さずに続ける。


 「今日の企画は今話題の【DD】ショップを探して捏造疑惑の真相を暴こう!っていう企画になるよ!」


 小雛の説明によってコメント欄がまた一段と沸き立つ。


 小雛の配信を見ていた従来のファン層は「なにを今更」「本当だって思い知らせてやってくれ!」といきり立っており、逆に曽我部のファンやミーハーは小雛の凋落の瞬間を指さして笑ってやろうといった意地の悪いコメントが散見された。


 今日【DD】ショップの扉を見つけることが出来れば小雛の勝ち。


 見つけられなければ、悪質な売名行為を暴いたとして曽我部の勝ち。


 そう言った構図だ。


 「小雛ちゃーん。本当にあるのー?【DD】ショップなんて。無いなら無いで無理しなくていいんだよー?」


 「ありますよ。今日は【DD】ショップの実在を証明するためにお呼びしたんですから」


 小雛は努めて明るく話す。


 自身について語られるデマも同時に嘘だと言いたいが、そんなものを自分の口から言ったところで信じようとしない者には響かないことを知っているからだ。


 「えーほんとかなー?じゃあ、小雛ちゃん。見つけられなかった時の罰ゲーム考えようよ」


 「罰ゲーム?」


 「そそ、罰ゲーム」


 「もし見つからなかったときは、今度俺と夜デートね」


 「デート!?」


 寒気を覚えるような曽我部の提案に小雛が自分の身体を抱く。


 サブいぼが立つほどの嫌悪感が小雛の身体に走った。


 この提案には視聴者たちからも総スカンだ。


 ────そんな提案受け入れないでひなっち!!


 ────最初からこれが目的だろこいつ


 小雛のファンである視聴者層から大ブーイングが巻き起こるが、アンチ耐性の高い曽我部には全くと言ってほどに効いた様子はなかった。


 今の曽我部の頭の中には小雛とのデートプランの構築と、その後のお楽しみしかない。


 「いいですよ。見つからないってことはないだろうし、曽我部さんの提案を受け入れます」


 ────小雛ちゃん!?


 ────マジかよ


 ────まぁ、【DD】ショップへの扉の画像は最近ちょくちょく上がってるから大丈夫なんじゃない?見つけるのは難しいっぽいけど時間かければ誰でも見つけられるよ


 ────十階層ならひなっちにとってもマージン取れてる階層だから大丈夫でしょ


 荒れる中でも、存在を疑わない小雛のファンたちは比較的冷静だった。


 「良かった。小雛ちゃんとお近づきになりたかったんだよ。デートプランには自信があるから楽しみにしててね」


 「考えてくれているのは嬉しいですが、【DD】ショップはあります。私がを受ける破目にはならないかと」


 「冷たいなー小雛ちゃん。あの変な仮面の男にはデレてたくせに。もしかしてあいつとデキてるの?」


 「へ────!?ち、ちがいますよ!私そんなデレたりなんかしてないですよ!!」


 手を振って慌てながら否定する小雛。


 しかし、赤く染まったその顔がその否定の信憑性を低くしてしまっていた。


 ────顔赤いですよ


 ────あれで好意ないって言う方が無理があるでしょ


 ────嘘下手杉ワロタ……ワロタ……


 ────嘘だろ?小雛……


 ────あれはしょうがない。だってマスターカッコいいもん


 ────あの方はイケメンだから!色んなタイプの似顔絵あるから!


 ────↑夢女子乙


 ────あんな目に遭ってるのに……???


 ────まぁ、小雛ちゃんМ疑惑あるから


 ────嘘だといってくれぇぇぇええええ!!!


 デートもできるかどうかもわからない曽我部の話よりも、ファンにとっては信憑性のあるこっちの話の方がダメージがでかかった。


 自分の時とは真逆の小雛の反応を見て、気分を悪くした曽我部が意地悪を口にした。


 「あ、そうだ小雛ちゃん。俺この後どうしても外せない用事があるからさ。二時間以内にその【DD】ショップとか言うお店の扉見つけてね」


 「え!?二時間!?」


 小雛のその反応に曽我部は満足したようににんまりと笑った。


 店の扉を見つけたという情報、実際にお店に入ることができたという情報はネットに幾つか挙げられている。


 それは毎日のように数件上がっているため、捏造であるという立場を取る曽我部としても危機感を覚えていた。


 本当にあるのかもしれない。


 そう思い始めていても、今更それを受け入れることなどできるわけもない。


 だから小雛から連絡が来たときは、手籠めにできるチャンスだと感じながらも、多少の焦りを曽我部は感じていた。


 自信があるからこうして自分を呼び出したのだと。


 そう、焦燥感に駆られた曽我部は悪あがきを講じた。


 それが時間制限である。


 今上がっている情報からするに、【DD】ショップへの扉は第五階層と第十階層、それ以降も五階層刻みに存在していると仮定ができ、そしてその扉の数は各階層に一つだけ。


 さらに重要だと言えるのは、その扉は常に同じ場所にあるという訳でないことがあげられる。


 つまり、ランダムに出現するその扉を小雛が把握できていない可能性が高いのだ。


 都合が良い事に今日はまだ十階層での発見報告はネットに上げられていなかった。


 時間を稼いで切り上げる事ができれば、証明されることはない。


 「大変だと思うけど、当然俺も探す事には協力するから」


 第十階層は広い。


 第五階層の二倍はあると言われている。


 蔓延る魔物の強さは二倍程度では収まらないとくれば、扉を探すのに苦労することは容易に想像ができた。


 それを理解している小雛が今日初めて焦りの色を曽我部に見せた。


 その顔に曽我部は勝ちの芽を見た。


 「そ、それなら急いで探し始めましょう!!」


 慌てた様子で小雛が腰の小刀を抜いた。


 「俺としてはゆっくりとダンジョンデートを楽しみたんだけどな」


 「デートじゃありません!」


 にやにやと小雛とコメントの反応を楽しみながら【DD】ショップを探すためのダンジョン攻略が始まった。


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