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第47話 TSTSTSTSTS!!!

 「なんっじゃこりゃぁぁぁぁぁあああああああああああ!!」


 お椀大サイズに膨らんだ胸を見た女が絶叫を上げた。


 小雛のような女の子らしい恥じらいのある叫び声ではなく、どこか男勝りな逞しい声。


 それが自分の喉から発生していることに驚いた女が更に声を上げそうになってしまう。


 女は恐る恐る膨らんだ男の胸とは明らかに違う発達の仕方をした胸へと手を伸ばして、試しにそれを揉んでみる。


 むにゅり。


 マシュマロのような柔らかさに、指が抵抗なく沈んでいった。


 力を抜けば指から離れることなく元に戻る弾力は、男にとって非常に魅惑的な感触だった。


 ボクサーとして鍛え抜かれた固いだけの胸筋とは大違いだ。


 女はずっと揉んでいたい気持ちに陥るも、それが自分の身体であることを思い出すと同時に他の可能性にも思い至り、赤く染まった顔が瞬時に真顔へと引き戻された。


 嘘だ、あり得ない、それだけはやめてくれ。


 そう、心の中に浮上してくる言葉をごくりと呑み込んで、女は自分のへと手を伸ばす。


 「……………………ない」


 ぼそりと零れた声に力はなく、みるみる内に自分の顔から血の気が引いていくのを女は感じた。


 現実を受け止めきれず一時止まった股間の手が、現実を否定するように、そして、そこにないものを探すように再度股間をまさぐり始めた。


 「……あ……ん」


 変な所に当たったのか、痺れるような甘い感覚に、女らしい声がこの口から漏れだした。


 その事実に愕然とした女が上の空といった様子で天井を眺めた。


 「あ、あの……津久見さん……ですよね?」


 横から掛けられた優しい声に、目を向ける。


 そこには見知った顔の女性がいた。


 そして、最近知り合ったその女性は自分の事を津久見だと呼ぶ。


 そう、そうだ。


 自分は確かに津久見一だ。


 女は自己認識に改めて目を向ける。


 現実から半ば逃避を始めようとしていた女は、自分が津久見一だという決定的な事実を突きつけられ、我に立ち返る。


 そしてこの悪夢のような現実を直視して、限界を迎えた女────津久見一は


 「うわぁぁぁぁあああああああああああああん」


 とうとう泣き出してしまった。


 ◆


 ────女!?


 ────え?え?え?


 ────津久見は?


 ────うそん……


 ────これってまさか!?


 ────TSきたぁぁぁああああああああ!!


 ────津久見一女体化ってマジ?


 ────おい、これF〇Oじゃねぇんだぞ。気安く女体化するなよ


 ────俺……ずっとファンだったんだけど……ずっと……これも悪くないな?


 ────しかもめっちゃ美人じゃん


 ────元がイケメンだと美女になるのか


 「…………」


 小雛は今目の前で起きた出来事に理解が追いつかずに、その場で固まって、現れた女の一挙手一投足をただ見ることしかできずにいた。


 片目を覆うコメントの数々も頭には入ってこない。


 女────恐らく津久見だと見られる女性が、自分の身体を弄って顔を赤くしたり、青くしたりするのをただじっと眺めていた。


 ────良い胸のサイズですね


 ────は?女の私より胸大きいのムカつくんだけど


 ────小雛ちゃんの方が大きいけど、はじめちゃんのおっぱいもちょうどいい大きさだよね


 ────スタイル羨ましい


 ────ヤンキー系金髪美女!


 ────てか、女が自分の胸揉んでんのエッロ……え?男?目ぇ腐ってんのか


 ────みんな受け入れるの早くて草


 美女のパイ揉みシーンに興奮を見せる視聴者のコメントが小雛の視界にちらついた。


 確かに今、目の前で行われている光景はとても煽情的で、どこか倒錯的なエロさを感じさせるには十分なものだろう。


 性耐性の低い小雛は自分の顔が熱くなっていくのを感じた。


 そしてさらにシーンは進み、美女が自分の股座に手を伸ばしたところでコメントの流れは異常値に達する。


 ────うぉぉぉおおおおお!


 ────付いてるのか、付いてないのか、どっちなんっだい!


 ────アリ!?ナシ!?ナシ!?アリ!?ついてる ついてない あれどっち?どっち────(以下自主規制)


 「……………………ない」


 ────シャッオラァァア!!


 ────Trance,trance,trance


 ────どれ、本当にないのかおじさんが確かめてあげようじゃないか


 ────付いてる方がお得感あるのに……


 ────付いてたり付いてなかったりしろ


 ────マジな話可哀想じゃん


 ────↑本音は?


 ────すごく……大好物です


 ────小雛ちゃん顔真っ赤で草


 ────処女だからな刺激が強いんだろ


 小雛は目の前の官能的なシーンに真っ赤にした顔を手で覆っていた。


 しかし、指の隙間からしっかり覗いているのがもろにカメラに写っており、視聴者たちにはバレバレだった。


 ────むっつり娘


 ────お年頃だからねぇ


 ────22だけどな


 そして流石にマズイ状況だと察した小雛がプリン頭の金髪美女へと歩み寄り、声を掛けた。


 「あ、あの……津久見さん……ですよね?」


 しかし、それが引き金となってしまった。


 「うわぁぁぁぁあああああああああああああん」


 ────すまん、流石に可哀想だわ


 その号泣を皮切りに、津久見に対する同情の声が大きくなった。


 ◆


 「マスター!これはいくらなんでもやりすぎです!酷すぎます!」


 「……あ、ははは、いや、マジで……なんで?」


 小雛の批判の言葉が耳に痛い。


 湊は”確かに”赤いポーションを取り出して彼女────いやいや、彼に渡したはずだった。


 しかし、気づいた頃にはどういう訳か赤いポーションは色のポーションへとすり替わってしまっていた。


 これにはさすがの湊も動揺を隠せなかった。


 湊は子どものように泣く女────津久見一へと近づき、しどろもどろになりながらも声を掛けた。


 「えっと……はじめくん……その……大丈夫?」


 「大丈夫な訳あるかぁぁぁぁああああああああ!!」


 「どわっ!?」


 湊は目を三角にして殴りかかってくる津久見のパンチを反射的に避けてしまい、それに津久見がまた怒る。


 「避けるな!」


 流石は元プロボクサー、一切の無駄のない極小の予備動作で次のパンチを放ってくる。


 しかし、チョーカーを付けたままでいる湊のよわよわフィジカルでは、絶賛強化中兼覚醒中の彼(検討中)のパンチを真面に貰ってしまえば一発KOは免れない。


 殴られてやるのが筋だとは分かってはいるが、迅速な状況把握のため、今気絶するわけにはいかないのだ。


 「まって!まってくれはじめ君!落ち着いて!」


 「これが落ち着いていられるかぁああ!」


 うがぁぁ!と獣のような唸り声を上げる姿を見せる反面、その立ち回りは至って冷静だ。


 軽やかなステップワークで次々と綿密な攻撃を仕掛けてくる津久見に、次第に湊の逃げ場が失われていく。


 「おっ、そのステップポイントたか────」


 「言ってる場合かぁぁああ!」


 怒髪天が如くの怒りを見せる津久見だが、一つの動きを見せるごとに、その動きのキレが増していく。


 流石は神童と呼ばれただけのことはあると、妙に落ち着いた思考になっていた湊は次のパンチを避けようとした瞬間、その津久見の予備動作に違和感を覚えた。


 (フェイント!?)


 それに気付くも時既に遅し。


 津久見の見事なほど腰の入った左フックが湊の死角から顔面(お面)目掛けて突き刺さる。


 しかも、固い仮面越しにもダメージを与えられるように、力を内部へと浸透させる技法で持って。


 「発剄…………お見……ごと────ガフッ」


 曽我部との戦いの最後に見せた技を見様見真似で再現して見せた彼(諸説あり)の成長に、湊は賛辞を述べながら意識を手放した。

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