────キタ━━━━ヽ(゚∀゚ )ノ━━━━!!!!
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────キタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!
────処女確定!!!
────超絶ビッチ説 払 拭 !
────信じてたよぉぉぉぉおおおおおおお
────祭りだぁぁァァアアアアアアアア!!
────赤飯の準備を急げ!!
────脳がっ 完 全 回 復 しました
────赤飯は違うような?
小雛の処女大宣言によってコメント欄の小雛ファンが歓喜の渦を巻き起こし、今日一番の盛り上がりを見せていた。
画面を真っ白に染める信者たちの熱狂極まるコメントとは正反対に、小雛の顔は茹蛸のように真っ赤に染まりきっていた。
「……あ、ぁぁ、もう……いやぁ(本音)」
あまりの羞恥心に手で顔を覆う小雛に、周囲がやや気まずそうに沈黙する。
「……その年で処女って……マジ?」
「……」
信じられないと言った様子の曽我部が小雛の顔をまじまじと見て、津久見は可哀そうな彼女の様子から顔を逸らしたまま、小さな声で「南無」と唱えた。
小雛はこんなやり方で自分の潔白を証明したいなどとは思ってもいなかったが、結果は効果抜群。
マスクの副作用と言う特殊な状況下だからこその、これ以上ない方法の潔白証明となった。
────この身体で未経験ってマジ?
────↑セクハラやめい
────世界中に処女公開告白かぁ
────また歴史刻んだな
────黒歴史では?
────いつも思うけど、この子誰よりもマスターからの被害被ってない?
盛り上がりの中にもある落ち着いたコメントの中には小雛に相乗的なコメントが散見されるが、それも興奮冷めやらぬ男ども歓喜の声にすぐに押し流されていき、彼女の目には入らない。
「あー、小雛ちゃん。大丈夫?……なんか、ごめん」
自分のアイテムが彼女を精神的に追いやっていることに負い目を感じたのか、湊が彼女へと近寄り肩に触れた。
「マスター……はどう……思いますか?(本音)」
「え?」
「マスターは二十歳越えてるのに、男の人とお付き合いしたこともない女の子って……変……だと思いますか?(本音)」
潤んだ瞳のまま、上目遣いで湊の反応を伺う小雛に曽我部がぼそりと呟く。
「付き合った事すらないのかよ……(本音)」
「余計なお世話です!うるさいです!(本音)」
────キレてるなぁ
────女子高出身とか?
────この上目遣い、狙ってね?
────卑しか女ばい
────小雛ちゃん……俺たちもいるよ……
────↑涙拭けよ
「僕は別におかしなことでもないと思うよ。そういう事はきちんと責任の取れる大人になってからするべきものだと僕は思うから」
「マスター……!」
例え気遣いであったとしてもその言葉は今の小雛にとっては感涙ものの言葉ですらあった。
「子どもができるようなことは家族を支えるだけの基盤が出来てからじゃないと大変なことになるからね。特にお金と頼れる大人がいないとね」
「そ、そうですよね!私おかしくないですよね!……うぅ」
恥ずかしさを紛らわそうと、彼の言葉を頼りに元気を出そうとするが、やはり恥ずかしさが勝って顔を俯かせてしまう。
しかし小雛は彼が変に思っていないことを聞けて、俯かせている顔が少しにやつかせた。
「さて、曽我部くん。彼女は自分の口で潔白を証明したわけだけど。改めて聞くよ。彼女に言うべきことがあるんじゃないかな?」
小雛を庇う様に自分に背中を向けた湊が、曽我部へと向き直りそう言った。
呆けたような顔をしていた曽我部がはっと表情を取り戻すと、バツが悪そうに顔を逸らした。
自分が未経験であったのがそんなに驚くべきことなのかと、小雛はムッと表情を歪ませた。
「……ちっ、悪かったよ。まさか小雛ちゃんが────」
「名前呼び止めてください(本音)」
「……桜咲ちゃんが────」
「ちゃん付けも止めてください。私の方が年上です(本音)」
「────だぁあぁあ!!あんたが異性慣れしていないとは思っていなかったんだ!そうだと知ってたらもう少しアプローチのやり方を考えたさ!(本音)」
「あんた……まぁ、良いですけど。なんか変な謝り方ですね(本音)」
まるでデマを流した事についてではなく、小雛に対する接し方を誤っているようなその言動に小雛が眉を顰めた。
「はぁ。本当に往生際が悪いというか、なんと言うか」
マスクで本心しか話せないことが災いしているのだろうが、ここまで来て本心から罪悪感を抱かない曽我部に流石の湊も呆れた様子だった。
「もういいです。噂も払拭できたでしょうし……大変不本意な経緯ではありますけど(本音)」
「いや、けじめは必要だ。曽我部君、謝りなさい」
「いくら言われたって……」
「三度目はない。謝るんだ」
「ヒッ」
突然苦し気に表情を歪ませた曽我部が声を引きつらせ、震えあがる。
それは小雛からは分からない彼からのプレッシャーによるものだろうと、彼女は思う。
よっぽど怖かったのか、曽我部は地面に額を擦りつけるように膝を突いた。
見事な土下座だった
「す、すみませんでした!」
「小雛ちゃん。これでいいかな?」
「え、えぇ。私は別にもう……(本音)」
「小雛ちゃんが優しい娘で良かったね」
そう言って雰囲気を和らげた湊が満足そうに立ち上がる。
「さて、やり残したことはあるかな?そろそろ店に戻ろうかと思ってるけど。一くんはどうだい?彼に何か言いたいことはある?」
今まで空気を読んで黙っていた津久見が湊の言葉に少し考える素振りを見せた。
「俺は特に……今までのことだって戦いでのことだし、ムカつくことはたくさん言われましたが、それは負けた俺が悪いだけで、勝ってそれも晴らしましたから……」
津久見のその戦う者の潔い考え方に小雛が感心していると、チラリと彼の視線を感じた。
その津久見の顔には「あっ、マズイ」といった焦りが見えた。
小雛には分かる。
それはマスクが齎す本音の強制だという事が。
それが彼の喉を突いているのだと。
それが自分のことであり、また、ろくでもない事だと察した小雛が身構えたが、どうすることもできない。
「桜咲さんって、マスターの事どう思ってるんですか?……あっ(本音)」
言ってしまったと口を覆う津久見に、小雛は思わず彼を睨んだ。
「なんてことをっ────ま、ままま、ますたーの事は、す、す、すすす……」
津久見本人も不本意なキラーパスに、こちらもまた不本意にボールを受け取った小雛が再び顔を赤くして、不本意なシュートを決めようとしていた。
「あ、もう毒霧も晴れてるみたいだね。皆マスク外しても大丈夫だよ」
「ふんっ────別に好きじゃないですぅぅぅうううう!(大嘘)」
しかしボールはあらぬ方向に蹴られまさかの
ぶちっと音を立ててマスクを引きちぎった小雛は勢いそのままに、自分の本心とは真逆のことを大声で叫んでしまった。
「あっ、いやっ、違うんですマスター!」
マスクを外した小雛は必死に弁明しようとするも、背中を丸めてどこかブルーになった湊の耳には届きそうになかった。
「そうだよね。小雛ちゃんには迷惑かけてばかりだし、こんなおじさんのことなんて嫌いだよね……あぁ、僕のなんでもマスクくんがこんな姿に……」
無残な姿になったマスクを大事そうに両手で抱える湊。
必死に違うことをアピールする小雛。
「やってしまった」と頭を抱える津久見。
そして「なんなんだこいつら」と言いたげに歯噛みする曽我部──
カオス極まる現場はしばらくそのまま続き、やがて湊の力で一同は店へと戻ることとなった