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第76話 化物討伐

 小雛の口からトリガーワードが呟かれる。


 目前まで迫った化け物に迎え撃つように小雛が一歩を踏み出した。


 小雛の握る小太刀が、ブレる。


 「小雛!!」


 「「2uuuu鵜鵜鵜」」


 化け物の肩付近の身体の一部が弾け飛んだ。


 「六花!?」


 小雛の【スキル】が発動するよりも早く、駆けつけた六花の強弓が化け物を捉えた。


 「無事!?怪我は───!?こんな全身にっ。入鹿!お願い!」


 「もちろんです」


 「入鹿さん……」


 遅れて駆け寄った入鹿が小雛の治療のためにスキルを発動し、治癒光が小雛の身体を覆った。


 「たくっ。一人で突っ込みやがって。それにしてもとんでもねぇ威力の矢を放ちやがる」


 「堂上さん」


 六花と、入鹿の回復に気を取られている間に、堂上が自分を守るように立っている事に小雛が気づく。


 「私もいるよ。雛ちゃん」


 少し息の切れた様子の鑑が、膝に手を突きながら、ピースサインで自分の主張をした。


 「鑑さんまで……みんな、追いかけて来たんですか!?」


 自分でも手古摺る相手を前に、小雛は無謀だと叫ぼうとした時、それを六花が強く遮った。


 「当たり前でしょう!小雛は……あんたはずっと前からの仲間なんだから!死なせるようなこと絶対させない!」


 涙ぐむ彼女の顔に、小雛は自分の中に湧いていた非難の気持ちが、スッと消えていくのを感じて、謝った。


 「ごめんね、六花。ありがと」


 微笑みかけられた六花が、小雛から赤くなった顔をぷいっと背けた。


 「わ、分かればいいのよ。……分かれば」


 「おい。そうやって事あるごとにいちゃつくのはいいが、敵さん、回復しそうだせ」


 堂上の険しい視線の先には、大きく身体を欠損させたはずの化け物が、凄まじい速度で傷を癒していく光景がそこにはあった。


 「あのダメージを、もう……!?」


 入鹿は回復専門の自分でも不可能な速度で傷を癒していく化け物の自己治癒能力に動揺する姿を見せた。


 「第十四階層までの魔物なら一応目を通してるけど、あんな魔物見たことも聞いたこともない」


 ダンジョンオタクを自認する鑑でも知識のない化け物。


 ネットの海を探しても、おそらくそれらしい情報も見当たらないだろう。


 「そんなこと今はどうだっていい。おらっ、来たぞ!」


 「「jammer」」


 高速で放たれる巨腕が、六花を襲う。


 「六花!!」


 小雛が六花を抱えて、腕を回避。


 化け物の攻撃が素直にその一度で終わるわけもなく、連撃は続く。


 「【火槍ファイアーランス】」


 「【強撃スマッシュ】!」


 燃え盛る槍が片腕を吹き飛ばし、底上げされた威力のハルバートがもう片方の腕を弾き飛ばした。


 鑑と堂上の【スキル】によって、化け物の攻撃が鳴り止んだ。


 「なんッつう威力だよッ」


 手に残る痺れに驚愕する堂上。


 以前の武器ならば砕けていた可能性が高い。


 「私の【火槍ファイアーランス】もあまり効いてない」


 本来なら直撃すれば一撃で魔物を屠る威力のある鑑の【火槍】。


 しかし、化け物の腕を跳ね返すだけに留まった【火槍】を見て、鑑は背中に冷たいもの感じた。


 「二人ともありがとうございます!」


 しかし、時間は十分に稼いだ。


 六花は前衛の二人の後ろへと位置を変え、安全な場所へ。


 『BLASH』本来の陣形を築き、五人は反撃に出た。


 「小雛。分かってると思うけど、スキルの出し惜しみはやめなさい。使


 「うん。もちろん分かってる。全力でいく」


 「桜咲!あいつの攻撃はオレたちが抑える!お前は自分の本領で戦え!」


 「分かった……けど無茶は──────」


 「そうでもしなきゃあいつに止めを刺しきれねぇ!さっきので分かったろ!抑えるだけならオレと莉緒で十分だってよ!」


 「え?私?」


 「分かった。やってみる!」


 小雛が相手の死角に潜れる機会を探り始める。


 「ねぇ、私だけじゃ不安……六花もてつだ──────」


 「小雛!私が援護するわ!【強撃矢パワーアロー】!私と入鹿は堂上と鑑が守ってくれる!心配しないであんたは強烈な一撃を叩きこむことだけ考えなさい!」


 化け物の脳裏には六花の不意の一撃が強烈に印象付いているのか、六花の放つ矢には強い警戒心を見せ、それが小雛への視線を逸らすきっかけとなった。


 「任せて。【影潜り】」


 小雛の身体が影に溶ける。


 スニーク状態に入った小雛は、足音も立てずに敵の背後に接近した。


 「……頑張るしかない」


 鑑が堂上に迫る両腕の一つを【火槍】で弾いた。


 「やればできるじゃねーか!莉緒!【強撃スマッシュ】!」


 「フンスッ。任せて涼ちゃん」


 スキルの回転に苦戦しながらも、鑑がパーティーの防衛火力の役割を担う。


 そうすることにより、完全にフリーになった小雛が、化け物の首を狙って、【スキル】を使用。


 「【仏笛】」


 首を掻っ捌かれた仏が鳴らす喉笛の音。


 それは一撃で人を絶命させる理念の元生まれた忍者の技。


 決まれば、首を持つ大抵の魔物は一撃で沈める事のできる技ではあるが、しかし、化け物の命には僅かに届かない。


 「「5歩」」


 血の泡を吹く化け物。


 だが、それでも足りないと、小雛はその場から飛び退いた。


 「「宇座ヰ7」」


 すぐに喉の傷が塞がり、また意味の分からない言葉を吐く。


 「浅かった……ッ」


 「【強撃矢】!」


 「【火槍】」


 姿を晒した小雛をカバーすべく、六花と鑑の二人が強力な【スキル】を見舞う。


 片腕の攻撃くらいなら、小雛でも躱すことができる。


 二人の援護によって小雛はクロスレンジの危険ゾーンでも、なんとか生き残ることができた。


 その後も小雛は二人の援護の元、いつでも接近できる距離を保ち、ヒットアンドアウェイの戦いを続ける。


 堂上が後衛の三人を守り、六花が小雛を援護し、鑑が堂上と小雛の援護、そして傷つく前衛の二人を入鹿が癒していく。


 そして影に潜った小雛が一撃を加える。


 戦いの形は、五人の望んだ形に成った。


 しかし、それでも決定打に欠いた戦いは、ただただ五人の消耗を強いた。


 特に鏡の負担は大きく、魔力の消耗が激しい。


 本来なら魔術スキルの一撃で勝負を決める役割の彼女が、その火力を敵の攻撃の迎撃に使わされているのだから無理もない。


 鑑が肩で息をしているのが、小雛の位置からでも見て取れた。


 もう状況は刻一刻と敗北に近づいている。


 どうすればいいか、小雛は五度目の【影潜り】で姿を消しながら、突破口を模索し続ける。


 小雛が消えたことにより、攻撃が『BLASH』へと集中。


 決して多くない体力と魔力を絞り出し、四人が化け物の攻撃を凌ぎ続ける。


 小雛が四人を見た。


 見るからに余裕はない。


 自分が致命となる一撃を与えることを求められていることは理解しているが、頭、首、心臓、肝臓、と言った人体の弱点を攻撃してきたが、どれも相手の命には届かなかった。


 威力が足りないのか、それとも別の弱点があるのか、現段階では知り様がない。


 小雛は、仲間の体力と魔力、そして自分のスキルの残量というタイムリミットが差し迫る中、一向に見つからない突破口に歯を食いしばった。


 「ようやく、クールタイムが明けたわ。小雛聞きなさい!奴の弱点はきっと体のどこかにあるわ!私がどてっぱらに大穴を空けるから、それを見つけなさい!」


 「六花!?お前───」


 堂上が顔を驚愕に染め、六花へと振り返ろうとしたが、敵の攻撃の前にそれを阻まれる。


 小雛も六花がなにを言っているのか、初めは理解できなかったが、彼女の登場シーンを思い出して、それに賭ける覚悟を決めた。


 「これで撃ち切りよ───【忘我に祈る終焉の矢エンド・オブ・アムネジアメイガス】」


 矢を番えぬまま、弓を構える。


 しかし、弦は限界まで引かれてキリキリと。


 なにもないはずの右手に、光が集まり、矢の形をとる。


 指が開かれ、光の矢が解放された。


 矢は音を置き去りに、化け物の大きな胴体の中心へと吸い込まれる。


 一条の光となった矢は、まるで光線のように化け物の身体を貫いた。


 「「我aaaaaaaa唖亜唖亜唖亜唖亜!」」


 不死身に見えた蝋の化け物が断末魔のような絶叫を轟かせた。


 「「愚uuuu」」


 しかし、この一撃でも化け物は死に耐えない。


 「小雛!お腹の部分!アレを壊して!」


 蝋の中から浮彫になった臓器のような色をした球体。


 罅の入ったそれは、明らかにあの化け物にとって特別な何か。


 化け物はそれを自ら証明するように、露わになったそれを、覆い隠そうと伸ばした腕を引き戻し始めた。


 ──チャンスはここだけだ。


 そう直感した小雛が、化け物の腕よりも早く、その球体へと急接近。


 自分の眼前で姿を現した小雛の登場に、化け物が明らかな狼狽を見せた。


 「【死突】」


 小雛の中でも最大の貫通力を持った【スキル】が、化け物の球体に刃を突き立てた。


 「「愚xtuゾ」」


 甲高い音と共に、球体が砕け散る。


 化け物が遂にその場に崩れ落ちた。

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