20分後、車はお花見をする公園の駐車場に着いた。目的の広場は歩いて15分ほどだ。里香はサブとモモを連れ、大人は食べ物や飲み物、シート、日よけのパラソルなどを持って広場のほうに移動した。
あたりを見渡すと平日にもかかわらず思った以上に人がいた。おそらく思いはみんな一緒だったのだろう。
しかし、休日ではないのでスペースは十分あり、空いている中では一番良いと思われるところにシートを広げることができた。手早く日よけのパラソルを立てる。心地良い風が吹き、一気に癒される。
「気持ちいい」
思わず田代の口から言葉が漏れる。
「あっ、すみません。私、いつも研究室の中に閉じこもっていることが多いので、こういった開放的なところに来て、つい口が滑りました」
「いえいえ、私たちも同じ気持ちです。この感じ、ゆったりした気分になる。みんなで来て良かったですよ」
一郎が言った。
「正男君、お庭と違って広いでしょう。あちこちにたくさんお花が咲いている。きれいだね」
「初メテ見タ。コウイウコトヲ気持チ良イッテ言ウンダ。一ツ覚エタ」
これまで自然に接すると言っても辺見家の庭だけだったのに、ここではこれまで見たことがない景色に接し、経験のスケールが一気に広がった。そういうことをAIで処理しようとする正男だったが、これまで辺見家の家族と接していたため、誤作動を起こさず対応していることを田代は見ていた。
場所のセッティングが終わると、食事の時間だ。周りのグループも楽しそうに飲んだり食べたりしている。平日の昼ということでお酒を飲んでいる人はいないし、ほとんどが家族連れだ。子供も未就学児が多く、里香と同じ年齢くらいが多い。これなら何の問題もなく、むしろ楽しく過ごせると思える雰囲気だった。
美恵子が用意してくれたのはサンドイッチや軽く摘まめるような食事だった。田代が用意したのも似たようなものがあり、お互いに褒め合って食すという具合に和気あいあいに食事が進んだ。車で訪れることが前提だったので、アルコール類は持ち込んでいない。だからみんなソフトドリンクということになるが、お酒がなくても気持ちが解放感に包まれているので、自然な会話が弾んでいる。その時里香はサブとモモの食事の世話をしている。そういう中で一郎は先日、美恵子との話について語り始めた。
田代も大人なので、辺見夫妻が心の内をきちんと納め、今回のプロジェクトに協力していただいていることは察している。
しかし、ここでその時のことをしっかりと語ってくれる辺見夫妻の誠実さを改めて感じていた。