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花見 4

 だが、その話の中で1年という期限のことを気にかけていることも理解した。辺見家に正男の存在が大きくなればなるほど別れの悲しみも大きくなる。その時の里香の気持ちを考えると切なくなるのだ。そしてだからこそ、この期間内に思い出をたくさん作ろうとしてくれた辺見夫妻の思いは、成長する正男にも理解できるようになるはずだし、それを教えてくれる家族だからだというところを感じたからこそお願いした。田代自身も家族の一員の様に接してくれる感謝は正男もきっと理解してくれるものと思っていた。

 そういうことを話していると、里香が突然、サブとモモを散歩に連れて行くと言った。食事もしっかりとった後なので、腹ごなしも兼ね、田代も一緒に付いていくことにした。もちろん正男も一緒だが、田代の同行は不測の事態に備えてのことでもあった。

 出かける前、サブとモモのリードの確認はしっかり行ない、少々のことでは外れないことを確認した。

「行ってきます」

 田代は辺見夫妻に挨拶をして、その場を後にした。

 まずはサクラを近くでしっかり見ようということでその近くを訪れた。同じ思いの人が多く、たくさんの人がいた。中でもひと際立派に花を咲かせている木のそばでは写真を撮る人も多くいた。

「きれいだね、正男君もそう思うでしょう?」

 里香が無邪気に言った。

「キレイデス」

 正男がそう答えたが、周囲の人の耳には変な声に聞こえたらしい。

「外国の方ですか?」

 隣の子供連れの母親が言った。

「はあ」

 田代が少し歯切れの悪い感じで返事した。だが、それが少々気に障ったらしく、ぽつりと独り言を言った。

「日本の精神文化を理解できるかしらね」

 当然その言葉は田代も耳にしている。里香も正男もその皮肉を込めた言い方は理解できないが、田代の雰囲気が変化したことを里香は感じ取っていた。

 それで里香は田代の手を引っ張り、移動しようとした。

 ここで変な言い合いにでもなったら面倒だし、第一、里香や正男のためにならない。そう判断した田代はその場を離れた。その場に残った母子はその後2人で何か話していたようだが、もう関係ないと気にも留めなかった。


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