この公園には菜の花がたくさん植えてあるエリアがある。遠目に見た場合、菜の花とサクラのコントラストが楽しめる場所がある。薄いピンクと黄色という配色は、春をイメージさせるにはぴったりだ。テレビでもそういう光景が写し出されることがあるが、それに似た光景はここでも見ることができる。
サクラの場合、小さな里香は見上げることになるが、菜の花は自分の目線の範囲内でその広がりを楽しめる。まるで黄色の絨毯の様に見えるこのエリアは、まるで花の中にいるような錯覚を起こす場所でもある。背の小さな里香は特にそう感じるであろうし、正男もそういう中にいる自分をどう捉えるか、AIのレベルをアップする感覚的な認識に役立つと思われる。正男は年齢的には里香と近い設定なので、こういう場にいること自体意味があると田代は考えていた。
「サクラトハ違ウ。変ナ感ジ。デモ、今マデ教ワッタコトト同ジク気持チガイイ」
みんなが菜の花畑を楽しんでいると、さっきの母子が近づいてきた。今度はその友達と思われるもう1組の母子も一緒だ。
「ママ、さっきの外人さんたち,またいるよ」
子供が言った。
「犬と猫もいる」
別の子供が言った。
「こういうところにペットを連れてくるなら、ちゃんと糞の後始末もしてくれるんでしょうね。それが日本人のマナーですけど、お願いしますね」
初めて会ったにもかかわらず、高飛車な物言いをする母親だった。
「里香、ちゃんとできるもん」
少し怒った口調で言った。
「あら、里香ちゃんていうの。今、おばさんが言ったこと、覚えておいてね。勉強になって良かったわね」
この言葉に田代はムッときて睨み返したが、ここでも騒ぎを起こしたくないという気持ちが先行し、今度は里香たちを引っ張るような感じでその場を去った。
再び取り残されるようになって2組の母子は、何やら憎々し気な感じで話しており、それを背中で感じつつも田代たちはその場を後にした。
園内には春らしいを花が至る所に咲いている。エリア内に整然と植えられているものもあるが、ちょっとした草むらのようなところにも可憐な花が咲いている。
「正男君、これが春。いろいろな命が芽吹いてくるの。この季節はそういうことを感じることできるのよ」
「春、命。分カルヨウデ分カラナイ」
「里香ちゃんやお父さん、お母さん、そしてサブちゃんやモモちゃん、みんな命を持っているのよ」
「僕モ持ッテイルノ?」
「そうよ、だからみんな一緒にいるし、話もできるでしょう」
「ソウカ、僕ニモ命ガアルンダ」
そう答える正男に里香が言った。
「正男君はウチの家族だよ。お父さん、お母さん、里香、サブちゃん、モモちゃん、そして正男君、みんな同じだよ」
田代は里香の無邪気な言葉に、先ほどの嫌な気持ちがどこかに吹き飛んでいた。