園内を一回りして辺見家のシートのところに戻ってきた。一郎は気持ち良くなり、うたた寝をしていた。でも、みんなが戻ってきたことを気付いて目を覚ました。
「お帰り。楽しめた?」
「お陰様で。とてもきれいな花が一杯で、目の保養になりました」
田代は嫌なことについては何も語らなかったが、里香は問題の母子について話した。
「お花はきれいだった。でも、変なおばさんがいた。正男君のこと、バカにしたようなことを言ったり、サブちゃんやモモちゃんのことも悪く言った。でも、怒らなかったよ」
「里香ちゃん、偉いね。我慢したんだ」
美恵子が言った。
「それならストレス発散としてサブちゃんと走り回れるところがあるわ。モモちゃんはこちらで預かっておくから、ドッグランに行ってくると良いわ。せっかく広いところに来たんですもの。しっかり走らせてあげるのも良いと思うわ」
美恵子のアドバイスで田代と里香、正男とサブがドッグランに向かった。
「ドッグランッテ何デスカ?」
正男が尋ねた。この日、いろいろ新しいことを経験することになるため、正男のAIはフル回転だ。
「ワンちゃんが思いっ切り走って遊べるところ。サブちゃん、喜ぶわよ」
「ソウデスカ。僕モ楽シミデス」
田代たちはドッグランに着いたが、そこに見慣れた顔があった。先ほどサクラや菜の花畑で遭遇した嫌な母子だった。今度はもう1組増えており、3組いたのだ。
その内の1人が田代たちを見つけた。
「あら、またお会いしたわね。そのワンちゃんを遊ばせに来たの? 私たちのお友達もワンちゃんを連れてきていて、ここにみんな集合したの。このワンちゃん、シロって言うんだけど、血統書付きの秋田犬なの。お宅の犬、見た目は柴犬だけど、もちろん血統書付きよね」
とても無礼な言い方だった。
田代も里香も答える気はなく、無視していた。ただ、それが癇に障ったらしく、友達のところに戻った時、何やら嫌な顔をして話し合っていた。その他の人たちはとても穏やかな感じで、目が合うと互いに会釈をしていた。
ここはサブを楽しく遊ばせる場所だからということで、他の感じが良い人たちと軽く話をしながらサブのリードを外し、自由に走らせた。サブも他の犬とすぐに打ち解け、仲良く走っている。