その中にはシロもいた。ただ、その光景を面白く感じていない人もいた。さっきの3人組だが、サブとシロがじゃれ合っていると、そこに近寄り、サブを蹴ったのだ。
サブは大きな声で鳴いた。驚きと痛みを感じたのだろう。その様子はドッグランにいた人すべてが見ていた。そしてあろうことか、その飼い主は田代のほうにやってきて大声で怒鳴った。
「あなたのところの駄犬が大切なシロちゃんにちょっかいを出していた。ウチのシロちゃんは50万円もしたのよ。近づけないで頂戴。お友達から聞いたけど、その人、変な外国人なんでしょう。そういう人がいるところの犬なんて、大したことがないはずだから、飼い主の責任としてやったのよ。文句ないわよね」
勝手に蹴飛ばしておいての言い草ではない。そういう話をしているところに、その友達の2人がやってきた。
「花見をしている時もそうだったけど、話し方だけでなく、動きも少し変だった。何か変な病気でも持っているんじゃないかと気になっていたの。大丈夫なの?」
とんでもない言いがかりだ。これまでなるべくもめごとにならないようにと思い、また里香や正男の前で大人の醜い部分を見せたくないからということで大人しくしていたが、さすがにサブを蹴飛ばす行為や必要以上に貶めようとする行為は見逃せない。これをそのままにしておくことのほうが2人の教育にマイナスだと田代は考えた。
「あなたたち、何を根拠におっしゃっているんですか? はっきりおっしゃってください」
はっきり相手の目を見て、力強い口調で話した。その勢いに多少押されたのか、少し言い淀む感じで口を開いたが、およそ文句を言うような理由は感じられなかった。
「今、不法入国者が多いでしょう。犯罪につながるかもしれないし、私たちなんかはターゲットになりそうだから気を付けているのよ。きちんと入国したというなら、パスポートを見せなさいよ」
「何を言っているんですか。第一、あなたたちに見せたとしても何の意味もありませんし、それがサブちゃんを蹴飛ばすこととどうつながるんですか」
「・・・」
「もし、何かお疑いならきちんと警察に不審者がいると通報されたらよろしいんじゃないですか? そして何もないと証明された場合、名誉棄損ということになりますよ。犬を蹴飛ばしたという場合、命がある存在ですからこういう言い方はしたくないんですが、器物損壊ということで訴えることができます。周りでその様子を見ている方が何人もいらっしゃいます。どなたもかわいいと思って飼っていらっしゃるでしょうし、だからこそこういうところに連れてきて愛犬を大切になさっているんでしょう。たとえ他所の飼い犬でも、本当にペットを愛することができる人ならば、蹴飛ばすなんてできないはず」
田代たちが口論しているといつの間にか周りに人が集まっていたが、その人たちからは田代の言葉に拍手していた。