目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報

散歩 2

 この時の様子は研究所で正男の目を通してモニターされていた。当然、そこには田代もいた。

「岡田主任、正男の制御装置を一旦切ります。素早い動きで里香ちゃんたちを守れるようにします」

 岡田にそう告げると、田代は了解を取る前に行動を起こし、正男に伝えた。

「正男君、里香ちゃんたちを守って。あなたは素早く動けるわ。早く助けて」

 その指令が届くと正男は素早くサブと野良犬の間に入った。突然の状況の変化に驚いたのは野良犬のほうだった。

 だが、正男はロボットだ。こういう時、人間にしても犬にしても発する殺気のようなものを発しないことに少し戸惑っている様子が見える。

「正男君、何をしているの。その犬を捕まえて。あなたの力なら十分できるわ」

 田代が正男に言った。

 この様子を見ていた近所の人がスマホで警察に電話をしていた。

「今、110番したわ。すぐに警察がくる。もう少し頑張って」

 別の人は辺見家とお付き合いのある人だったので、美恵子に電話した。

「辺見さん、今大変です。里香ちゃんたちが野良犬の前に居て・・・。早く来てください」

 突然の電話に驚いた美恵子は取るものも取らず、すぐに家を出た。その場所は当然知っているが、走っても10分程度はかかる。

 美恵子は必死だった。

「里香、無事でいて。正男君、サブちゃん、里香を守ってね」

 美恵子は一郎が留守の時に里香に何かあったらと心配し、無事を願って必死に走った。

 野良犬は相変わらず唸り続けているが、正男はその場に膝を曲げ、サブに接する時のような姿勢を取った。このことは田代から指示されたわけではない。里香はこの状態がサブに対する様子だと気付いた。

「正男君、そのワンちゃんに乱暴なことをしないで」

 里香が言った。正男はこれまで学んだことから優しく接しようとしているのだろう。はっきりそういうことを教わったわけではないが、これまで経験したことで正男自身が判断したと思われる。

 正男は野良犬に優しくそっと手を差し伸べた。その表情を見ると少し微笑んでいるように見える。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?